2話 大地に宿る死神
「ぃ、……ろ!」
「ん……ァ……?」
誰かに起こされて、僕は目を覚ます。
「おい、ライト!」
「ぁ…はい、何でしょう」
「とんでもない事が分かった。すぐに来い!」
・・・声の主は『奴』。本部長だ。
「ど、どうしたんですかそんなに慌てて」
「だからとんでもない事が分かったと言っているだろう。お前も居なくちゃ始まらんから私がここまで叩き起こしに来てやったんだ!」
「なら部下に任せたらよかったじゃないですか」
「なるべく、他の人には話さないでくれ。」
その言葉でやっと僕は察した。
素早く階段を駆け上がり、会議室へと直行する。
寝起き+疲労の僕にとってそれは厳しい運動だ。
「着いた!」
「着きました!」
会議室には見知った顔は・・・ほとんどない。知っているのはブグスさんと本部長『アイルス』のみだ。
「重要な会議に遅刻とは良い御身分だな」
「ブグスさん!僕はついさっき起きるまで会議すること自体知りませんでしたよ!」
「おお、すまんすまん。遅刻しても本部長様が起こしに来てくれるとは良い御身分だな」
「もっとひどくなってません、それ!」
「ほら茶番は後だ。会議を始めるぞ」
「今回、ライトが持ち帰った骨や木材にも、『死神の魂』が入っている事が分かった。」
『死神の魂』?初耳なのだが・・・なんとなく、僕の疲労感にも関係があると分かった。
「そして、これからは死神の魂の研究によって、あの不毛な地を浄化させる方法を手に入れてもらいたい。」
「あの」
「質問は後だ!」
刹那の間すら待たずにバッサリ切り捨てられる。
「えー、ではこの時点で私が知っている事を話そう。」
「見ての通り、先に行かせたライトでさえこの有様だ。これでは『普通の人間』が住めばたった半日で全滅してしまう。」
「あ、あのー、何で僕に」
「質問は後だと言っているだろう?」
「…」
そういえば、僕達は『予備』を務める班のはずなのに、他の人間は一人も見えなかった。
僕はてっきり、動ける人間は他の場所を調査しているのだと思っていたが……
「…『死神の魂』には私達の体力を削る何らかの理由が存在する。アレが命を刈り取る物だとしたら、確実に弱点はアレにとっての『毒を与える』ということになるだろう。」
「他には、アレの事ではないが……他国の争いの様子が少しおかしい。単なる思い過ごしであればいいのだが…各自最低限の武装はしておくように。」
「以上だ。何か質問は。」
ここで「死神の魂ってなんですか」とか「どうして僕一人であそこまで行かせたんですか」とか言える気がしない。
本部長の突発的な行動は、皆を振り回すがそれが悪い方向へと向かって行った記憶は一つもない。
そのことがより、彼女への大きな信頼へと近づいて行く。
……ここで、僕についての話をしよう。
―――革命の日―――
その日、僕は故郷でのんびりと暮らしていた。
遊び、食べ、昼寝する。
そのような生活が出来たのも、楽園のような環境があったからだ。
人は皆優しく、他の場所から来る人も大勢いた。
「おーい、待ってよ」
「ほら、さっさと行くの!ライト!」
「そっちが早すぎるんじゃないか・・・」
僕は近所で仲の良い子供達と遊んでいた。
といってもやる事は走ったり、木で出来たアーチをくぐったり、持ってきた玩具で遊んだり。
「じゃあ、また明日!」
そんな事を言って、僕らの遊び場となった森から去ろうとする。
・・・そんな時だった。
「キシーッ!!」
「グァァァ!!」
一方は小さく、人のような形が歯をむき出しにして威嚇する、棍棒を持ったナニカ。
一方は大きく、空を飛び小人を空から次々と落とす……『鳥』。
故郷の人々は、『村』の人々は、戦う術を持たないのに僕らが逃げる時間を稼いでくれた。
逃げ遅れた人はもれなく小人にその棍棒で殴られる。
・・・僕にはどうする事も出来なかった。ただ、頭より先に動いた脚を除いて。
―――行って。
誰かが背中を押してくれたのだ。
振り向くと、その誰かはついさっきまで遊んでいた子供だった。
多分、もうここには居ないだろう。
その日、僕らの立場は一気に逆転された。昔から、人間とモンスターは共存関係にあったらしい。しかし、たった一日の出来事で天と地がひっくり返ってしまった。
魔物よりも、人間が弱いという絶対的な立場の差。
魔物は大地を次々と生命の生きられない『命を吸う大地』に変え、ゆっくりと、しかし確実に僕達を追い詰めていた。
そんな状況からしばらくして、一つの組織が出来る。
『ガリバン』
魔物の根絶を目的とした組織。
その目的に心惹かれた僕は組織に入る事を決める。
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