1話 夜の本部
これが一応の第一話となります。
「ただいま戻りました。」
戻ると彼が娯楽スペースで酒を呑みながら遊んでいた。僕の気配を感じ取ったのかすぐに振り向いた。
「ああ、お前さんか。とっくに死んだもんかとおもってたよ」
「なにあなたは遊んでるんですか…」
ここまでずっとカートを押して来たというのに、彼はここまでずっと遊んでいたのか。そういえぱ出発の時もそこにいたような…
「ブグスさん、これ、疲れたのでお願い出来ますか」
「えぇー?根性ねぇな。」
「ではこの辛さ、体験してみます?」
そう言って僕はカートに積み重なっただれかの骨を一つ持って投げた。
骨にはまだ何かが残っているようで、持っているだけで疲労感が出始める。
「うぉっとっとい!……返すわ」
ブグスさんの投げた骨は僕という的を外れ、逸れていく。
僕はとっさに動き、キャッチ。
「狙うぐらいはして下さい」
「それで、本当にお願いしますね」
「仕方ねぇなぁ、わかったよ」
僕は彼にカートを任せ、3階にある休憩スペースに行く。
この建物は何層もあり、それだけで一つの国のような大きさになる。
1階にはさっきの娯楽スペースがあり、昼頃になれば多くの人で賑わう。しかし、その「昼」も過ぎれば人気はがらんとするはずだ。
この層型施設は『ガリバン』と呼ばれており、主に魔物を根絶させることを目的としている。
何人かの人間は、あの時の僕みたいに調査をしたりするのだが、僕の仕事はそうじゃない。僕の場合は所謂「予備」だ。どこかの班の人が欠けた時僕らがその代わりを務める。・・・だが、今回の任務は「予備」とは程遠い何かだ。
僕は休憩スペースに到着し、すぐに近くのイスに寝転がる。
………疲れていた体はすぐに睡眠を受け入れ、僕の意識は深く沈んでいった。
「……――ぁ」
目覚めは少し悪い……そして意識がだんだんと回復してくる・・・より鮮明に、より活発に。
ほぼ起きた状態の僕はすぐに時間を確認する。
「まさか、もうこんな時間か・・・」
時刻はとうに夜を過ぎ、しばらくの間僕は立ち往生となる。
(明日どうしようか)
そんな話題が僕の頭を走り抜けていく。
・・・しかし、このまま何もしていない状態が無駄だと気付いた僕は散歩に出る事にした。
「(多分、さっきのはあの場所のせい・・・)」
骨を持っただけで疲労感が出るぐらいなら、故郷に長居していたらあれだけ寝ても足りていないだろう。
現に体は重く感じる。
だが、こんな状態になる所で村を作ろうものなら、住民はすぐに倒れてしまう。
これは・・・いくら奴の思いつきであっても無謀なのではないのか。
気がつくと僕は3階の食事スペースに足を運んでいた。
まだ開いている店があるか怪しいが、それでも、一つは確実に開いている店がある。
『料亭サンド』
なぜかこの店は1日中営業している。
店員は滅多に顔を出さず、顔が見えるかと思っても黒い布で顔を覆っているため素顔は見えない。
かなり怪しい店なのだが・・・出される料理は絶品だった。
「・・・」
門をくぐってもお出迎えは無い。いるのは少し不気味な黒い人だけだ。
「闇飯一つで」
「・・・」
注文を聞いた黒い人はこの場を離れた。僕も近くの席に座る。
この店はどうやら食べたい物を自由に選べるようで、メニューなどはない。
さっきの闇飯も、闇属性の飯、というもので、僕にはこれが一番おいしく感じられた。
チリンッ。という音が聞こえた。
それは完成の合図である。
しばらくしてコト、と注文した物がテーブルに置かれる。
(久しぶりだけど、やっぱり美味い)
闇飯を食べ、どんどん食べ、そして食べ。
僅か数分で皿より多く盛られた闇飯を平らげた。
おいしく、ついつい食べてしまったものだが、見た目は闇と名のあるように紫色をしている。
それ以外は普通の飯と大差ない。
「ごちそうさま。ありがとう」
黒い人が一瞬礼をしたように見えた。しかし気のせいのようだ。
僕はまた歩く。長い夜は始まったばっかりだ。
あてもなく歩いていると、獣の形をした生き物が見えた。
「お、やあ新人クン。どうだい、慣れたかい?」
「新人っていつの話ですか…」
「そりゃあ2年前?」
「あなたの基準、ちょっと直したほうがいいですよ」
「ジョーダンジョーダン。」
この生き物は亜人と呼ばれる種族のようだが、どこからどうみても『人』の部分が欠け落ちている。
『人』の形を辛うじて取れているのはさっきの言語だ。
彼女は狼の亜人のようで、全体的にグレーの体、尻尾をしている。
「そういえば、そんなところでどうしたんだい?新人クン」
「もう新人でいいです。…散歩をしていたんですよ」
「ほうほう。で、本当のところは?」
「気がついたら休憩スペースで寝ていたので夜が眠れなくなりました」
「あちゃー、そりゃ大変だねぇ新人クン」
「今回の任務、かなり大変なんですよ」
「そうかい、じゃ、頑張ってな!」
「ああはい」
狼の亜人は僕の方向とは反対の食事スペースへと向かっていった。
「…さて、そろそろ本格的に暇になってきたな」
本部長にでも顔を出しに行こうか、とも考えたが、さすがにこの時間は寝ているだろう。
確か、夜の間の活動を主にしている班があったような。しかしそれ以上の事は思い出せない。
……駄目だ。こうまで頭が鈍いのは初めてだ。
「…休憩スペース…いや、帰るか」
この施設には個室というものがある。休憩スペースとは別に個人だけが使える部屋だ。
また休憩スペースで寝るのは嫌だ、まだ個室に帰る体力が残っているものだと思い、そこへと足を運んだ。
足取りはまだまだ重い。さすがにたった、数時間あそこに居ただけなのになぜこうも疲れがあるのか。
明日、本部長にしっかり話さなければならない。もし明日も明後日も同じような事が続くなら僕は倒れ、そして死ぬだろう。
僕は、その個室に無造作に荷物を放り投げ、ベッドに倒れた。
―どうしたら。
―どうしたらいい。
――僕らが、魔物に襲われないためには。
その日、僕は不思議な夢を見たが…起きた時にはすっかり忘れていた。