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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
1章 ―力求める破壊の赤―
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聴こえる声

「――え、お前さんは“声”を聴いたのか?」

「はい、渋い男性の声でした」


 馬車を引く馬を操るブランドンは、ウィリアムの口から語られた事実に驚きを隠せずにいた。

 なんと、『緑の騎士』と成るときに“声”を聴いたらしいのである。


 しかしその驚きように、逆に疑問を隠せずに首を傾げるウィリアム。

 それはそうだろう。

 ウィリアムは『緑の騎士』となった際に“声”を聴いたので、それが普通だと思っていたのだから。


「ブランドンさんは、違ったんですか?」

「ん? あぁ。俺は気が付きゃ右手の甲に印があったからな」


 どうやら“声”を聴くのはよほど珍しいか、今までなかったことなのだろうとウィリアムは見当をつける。


(そういえば、あれから全く“声”を聴いていないな……)


 町が禍族によって襲われていたとき、ウィリアムが聞いた“声”は目覚めてからは聞くことが無かった。

 あのときは互いに信頼し合い共に戦っていたのだから、あの後も普通にいてもおかしくはないはずなのだが。


「その……“声”? っていうのを聴くのは珍しいことなんすか?」

「あぁ。かなり珍しい部類だな」


 当事者ではない為、よく会話の内容を理解できていないエンテは目をぱちくりとさせながらブランドンに問う。

 その問いにブランドンは答えると、馬を繋ぐ綱から左手を離しエンテたちに見えるよう四本指を立てた。


「『騎士』となり圧倒的な身体能力を得ても人間の寿命は変わらない。故に歴史上『騎士』になった人間は多くいるが、大抵の場合その理由は四つに分かれる」


 左手の立てた指のうちの小指、薬指、中指を折るとブランドンは示す数を人差し指一本にする。


「一つ、先代の『騎士』に託されて『騎士』となる者」


 ブランドンの発する内容に少なからずエンテは衝撃を受けた。

 何故なら『騎士』から『騎士』へ直接託すことが出来ると知れたのだ、驚かない訳がないだろう。


「二つ、『騎士』を目指した末に努力が実り『騎士』となる者」

「――――ッ!」


 これが最もブランドンが目指すべき『騎士』への道のり。

 肉体的に強くなるということは、それだけ自身の精神に負荷のかかる修練を励んでいるということ。

 鍛え上げられた肉体に比例し精神も強く、頑丈となっていくのだから『騎士』に選ばれても可笑しくない。


「三つ、命の危機に陥った先に儚くも力を望み、そしてそれが叶い『騎士』となる者」

「――俺、ですね」


 ウィリアムの言葉に頷きつつ、「俺も最初はこれだと踏んでいた」と否定するブランドン。

 そこで、順々に立っていった指が四本目……小指にまで到達する。


「ラスト。『騎士の力』に認められ『騎士』となる者」


 初めはブランドンも三つ目、つまり命の危機によって覚醒した『騎士』だと思っていた。

 けれど先ほどのウィリアムの言葉を聞けば、厳密には違うことが理解できよう。


「つまりは、だ。緑の小僧は危機に瀕し力を望む前に、『騎士の力』に認められていたことになる」

「……認め、られていた? 俺がですか?」


 ウィリアムにとってその話は到底信じられない話だった。

 肉体的に強い訳でもなく、精神的に強いともいえない。

 それは一番、彼自身が気付いていたこと。


「ウィリアムだからこそ、だろ」

「エンテ……?」


 意味が分からないという風に眉を潜めるウィリアムに、意地悪く笑うエンテ。


「お前、人が暴力振るわれるとすぐに血相変えて現場に突撃してたからな。その辺の心持ちを認められてたんだろ? 俺は大変だったけどな……急に動くお前の対処に」

「それ褒めてないじゃないか、説教になってるぞ」


 エンテが意地悪く笑うときは大抵、説教をするときだ。

 身に染みてよく理解しているウィリアムは、いきなり行動するなと説教の意味を込めた褒め言葉に嬉しくもならない。

 大きなため息をつくウィリアムを見てブランドンは、「緑の坊主、そんなことしてたのか」と笑い飛ばしていた。


「大変だったんすよ。コイツ無駄に喧嘩慣れもしてない癖にすーぐ暴漢相手に突撃するし、んでもって結果はボコボコ。何回治療院にお世話になったか数えられないっすよ」

「仕方ないだろ、助けたかったんだから」


 大ざっぱな見た目から反しての、エンテの苦労人さとウィリアムの面倒起こしさにブランドンは更に笑う。

 初対面の印象とはそれほど二人はかけ離れていたからだ。


 と、そんな風にのんびり旅を続けているウィリアムの脳に――


(んんっ……! おぉ、宿り主よ、目覚めていたか)

「え?」


 ――数日前に聴いた“声”が響く。


 唐突に響いた“声”に、呆気な声を出してウィリアムは応じる。

 いきなり呆けた声を出したウィリアムに、エンテとブランドンは首を傾げ「どうした?」と尋ねた。


「いや、えっと……目覚めました――」

「目覚めた? 一体何がだ?」


 あははと笑うウィリアム。


(“噂をすれば影がさす”ってやつか)


 内心で伝えるかどうか一瞬迷ったウィリアムだが、すぐさま伝えることに決定すると苦笑いしながら頭を掻いて口を開く。


「――“声”が」

「えっ」


 思わず先ほどのウィリアムと同じく呆けた声を出すブランドン。

 だが、すぐさま脳を再起動すると……次は事実を理解してその顔を驚愕で歪めた。


(顔がせわしない人だな……)


 クルクル変わる表情に流石のウィリアムも頬を引き攣る。

そして気が付けばブランドンが目の前を気にせずこちらに体を傾けているを見て、引き攣る頬を更に驚愕で大きく引き攣らせた。


「『騎士』となった今でも、“声”が聴こえるのかッ!?」

「え、あ、はい」

「今も“声”が聴こえるっていうのは凄いことなんですか?」


 いまいち要領を得ないウィリアムとエンテは、驚愕の興奮冴えれないといった風のブランドンに驚くことかと問う。

 首を傾げたながら問われた質問に、ブランドンはノータイムで「凄いことだ!」と返答して見せた。

 あまりの驚きように、流石の張本人であるウィリアムも引かざるを得ない。


「歴史上、『騎士』に成る際に“声”を聴いた奴は少なくないが、『騎士』となった以降でも“声”が聴こえる人はお前さんが初めてだ」


 逆に何故“声”が聴こえなくなるのだろうと頭を掻くウィリアムは、“声”を発している張本人に問うことにする。


(えーっと、“声”? さん?)

(ふむ、宿り主が問いたいことは分かっている。何故『騎士の証』を得た者は我の声を聴けなくなるのか……だろう?)


 話を聞いていたのか、すんなり質問の内容を理解している“声”に、ウィリアムは驚きながら頷く。

 ウィリアムは禍族と相対した際、戦いたいと懇願した宿り主に溜め息をつきながらも“声”は的確な指示を出してくれたのである。

 あの関係を続けられるのならば是非とも続けて行きたいと思えるほど戦闘のとき、息がピッタリだった。


 だからこそ、それをしない……または出来ないことにウィリアムは疑問を持っている。


(単純に“資格”が無かった、そして宿り主にはある。それだけの話だ)

(“資格”……? 何の話を――)


 ガゴンッと馬車が止まる音がして、ウィリアムは意識を現実に引き戻す。

 周りを見渡せば一泊するはずの村の近くに、“何故か”禍族が出現しているのが見えた。

 まだ村には到着していないらしいが、すぐに村を蹂躙しだすだろう。


「この短時間に禍族がまた出現? 何かが可笑しいな」


 先ほどまで興奮していたはずのブランドンは、急に冷静になり現状を分析しながら従者席から飛び降りる。


「緑の坊主、お前さんも来い」

「ブランドンさん、俺は――」

「――待て」


 ギョロリと、村の方しか見ていなかった禍族が急にブランドンたちの方へ顔を向けた。

 ある意味無垢な瞳に見定められ、未だ禍族と一度しか相対していないウィリアムとエンテは背筋が凍るのを感じる。


「エンテ、お前はここで待機してこの馬車を見守っていてくれ。どうやらあの“化け物”は俺たちを狙っているらしい。――忌々しい」

「――――ッ!」


 最後の一言があまりに残酷で、あまりに憎しげ。

 それ故にその瞬間だけウィリアムとエンテは、禍族よりも『赤の騎士』の方が恐ろしく感じた。


 否、一瞬ではない。

 禍族と相対したその瞬間から、『赤の騎士』ブランドン・ドルートはその表情を凍りつかせていた。


 ――狂鬼の笑みに。





 ウィリアムとエンテにとって禍族との戦い二度目……その幕が上がる。

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