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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
6章 ―誇り正す勇士の紫―
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動き始めた黒

「第三防衛ライン、突破されました!」

「直ちに現場の人員は撤退、第一防衛ラインにて補給を受けた後防衛の支援に回るのじゃ。撤退用に余力を残しているヤツらを中心に固まって動けよ」

「南南西方向から再び敵発生!」

「数は?」

「10体です!」

「人員が足らぬのぅ……」


 そこは、怒号と緊張で緊迫していた。

 息つく暇もなく耳に手や腕をあてがう複数人が、ひと目で彼らのリーダーであろうと分かる少女が目を細め指示を求めて声を張り上げる。

 見た目にそぐわぬ冷静さで指示を出していく少女だったが、敵の増援に思わず頭を抑えた。


 彼女の視界に入り込む、乱れた紫紺色の髪を鬱陶しく払いのけると”額に生えた角”の上へと掛ける。

 次の指示を待つ視線に煽られながら、さてどうしたものかと思考にふけようとした少女。

 しかしそれは背後からの声によって無為へ帰すことになる。


「ミアを出せ、場合によっては『闇』に成っても構わん」

「カスティ様! 了解致しました!」


 通信役として少女の周りに滞在していた一人が声を上げて、少女は気難しそうにシワを寄せていた眉を解き後ろへと振り向いた。

 褐色の肌に金の髪と瞳。

 ひと目で誰もが普通の魔族とは程遠い存在だと理解するほどの存在感に満ち溢れた彼は、今まで指揮官として振る舞ってきた少女へと視線を向ける。


 余裕に満ちたその瞳を見て、一気に肩の力が抜けたのか少女は脱力した。

 当然だ、1つ間違えば何人もの魔族が死んでしまう、そんな状況下で疲労しないなんて芸当は流石に無理があるのだから。


「カスティ、ようやっと帰ってきおったか」

「あぁ。大役、ご苦労だった、ソフィー」

「ここ数日は働きっぱなしじゃて、しばらくは働きたくないのぉ」


 凝り固まった肩を気怠げに回しながら愚痴を漏らすソフィーと呼ばれた少女に、カスティは思わず笑みを浮かべる。

 例え人間から奇跡を扱う種族と言われようとも、休息を取らなければ弱ってしまうのは魔族であっても変わりはしないのだ。


「とりあえずはお前は休憩に入れ。しばらくの間は俺が指揮をしよう」

「頼む」


 コクリと頷くソフィーの肩を軽く叩き、代わりに通信役たちの前に立つ。

 

 眼の前に広げられた地図上には、巨大な大陸が1つ書かれている。

 そしてそこの中心をぐるりと大きく囲むようにしてバツ印が、合計三十も印されていた。

 この大陸、その中心部にあるのがいまカスティたちがいる首都であり、囲むバツ印が全て”敵”である。


「戦況はあまりよろしくないようだな」

「えぇ」


 ここでの状況を最も把握できる”ホクゥルス”、という魔法を扱う男性がカスティの言葉に答えながら片目だけ金色に光る瞳を手で抑えながらバツ印を消しては書いてゆく。

 首都を守るためである壁を上からバツ印が汚染した。

 つまるところつい先程壁を越えられた、ということだろう。


「第三防衛ラインも突破され残るは第二、第一防衛ラインのみです。このままでは――」


 一瞬言いづらそうに口を閉ざしかけた男性は、しかし苦しげに言葉を続ける。


「――あと持って一ヶ月、と言ったところです」

「ふむ……」


 本来ならあと二ヶ月は持つ、はずだったのだがここまで戦いをしすぎて兵たちが困憊状態になっているのが持って一ヶ月の主な理由だった。

 魔法というのは無条件でリスクなく扱えるものではない、あくまで生物全てに存在する魔力を扱っているだけで使用に限界はある。


 さらに言えば魔力量もさして多いとは言えず、魔法もそれほど連発出来るものでもない。

 魔力を失った魔族など、そこいらの人間と変わらず怯えて死を待つだけの存在に成り下がる。

 逆にここまで燃費の悪い魔族たちをよく持ちこたえさせたと称賛するべきだろう。


 しかしどうしたものか、とカスティは顎に手を添えて目を閉じ思案する。


 第一防衛ラインの人員を第二防衛ラインへ動かすのは……いや、今この瞬間は良いがこの後が怖い。

 その場しのぎに消耗してしまえば、第二防衛ラインが突破された際に動ける人員がいなくなってしまう。


 今、休憩中の『騎士』たちを更に動員して戦線を押し上げる……駄目だ、『騎士』たちにはもっと効果的な場面がある。

 ここぞという時に最善のコンディションで使わなければ、余計戦いを辛い方向へと向かわせるだけだ。


「となるとやはりアレが足りない、か」


 このままでは持って一ヶ月の命。

 しかしそれを理由に生を諦めるにはいかない理由がカスティにはあった。

 自身を”王”と慕ってくれる民たちのため、最後の一瞬でさえ諦めることは許されない。


 何より、この世界の真実を知るために。

 終われないのだ。


 目を再び瞑り自身の胸の中心へと手を当ててもう片方を空へと掲げる。

 見えないはずの視界に映るのは、爛々と輝く六色の輝きと……今もなお淡く光る緑色の光。


「……まさか、最後の一人がお前とはな。つくづく度し難い」


 小さく誰にも聞かれないような声で呟いたカスティの脳裏に写り込んだのは、緑の髪と同色の大楯を持つ少年だった。

 誰よりも『騎士』であるはずの少年は、しかし未だスタート地点にも立てていない。

 彼を縛り付ける鎖を引きちぎる必要がある、そうカスティは決断する。


「誰か動かせる魔族全員に通信を繋げ」

「はっ」


 複数人の魔族がうなずき、すぐさま今動ける人員へと声をかけてゆく。

 暫く待ち、あらゆる人員に通信を繋ぎ終わったのを見計らってカスティは声を通信役全員に聞こえるように声を張り上げた。


「全員、矛を持て! 盾を持て! ……時は来た!」


 現状況下で動かせる兵を使ってしまえば、あらゆる人材が不足してしまうことは火を見るよりも明らかである。

 あからさまな自殺行為にしか思われないだろう。

 がしかし、その重荷を背負わせその上でカスティにはしなければならないことがあった。


「――最終段階に移行する! 準備を急げ!」


 この日、黒は動き出す。

 あらゆる奇跡をかき集めて、本当の奇跡を起こしに。

かなり遅くなって申し訳ないです。どうか気長にお待ち下さい。

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