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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
5章 ―鳥の如く自由の青―
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見当違いな決意

「それじゃあ、また」


 穏やかな声色でそう告げたウィリアムが部屋から去って少し後。

 思わず涙を流してしまったことで両目を赤く腫れさせているセレーナは、鼻をすすりながら彼が出ていった扉を眺める。


(わからない、わからないよ)


 緑の髪を揺らして彼は言った、「『騎士』っていうのは成った人の理想(オモイ)を叶える力だから」と。

 けれど彼女は常に多くのものを背負い潰されぬようもがいている父親の……『青の騎士』の姿を見慣れすぎていた。

 常に強く、逞しく人名を背負い続けている父親の姿を空想に映し出して、彼女はここには居ない誰かに問う。


(わたしは、本当に『騎士』に成れるの?)


 今まで彼女にとって『騎士』と呼ばれる存在は嫌なもので、聞くだけでも恐ろしい禍族や魔族と戦わなければならないモノだった。

 しかしその彼女の中での『騎士』はウィリアムを見た瞬間に大きく変わってしまう。


 美しいものなのだと、感じたのだ。


(『騎士』って、何なんだろう)


 父親のように窮屈に生きる者も『騎士』で。

 ウィリアムのように自身の想いに忠実な者も『騎士』で。


「『騎士』は成った者の想いを叶える力……か」


 やはり巡り巡って思い出すのはウィリアムの、『緑の騎士』が笑って伝えたあの言葉。

 ふんわりと高級な素材で作られたベッドにセレーナは身を投げだすと、包まれる感触に身を任せて天井を見上げた。


(わたしがしたいこと。わたしの想い)


 無意識にシーツを握る力が強くなる。

 考えても考えても答えは出ない、自身は『騎士』に成るべきか成らないべきか。

 ならばこそ、


「……決めた」


 少女は一つのことを決意した。






 セレーナと再会し、互いに話しあったその翌日の昼頃。

 暖かな陽射しを浴びながらウィリアムは城内をゆっくりと歩き回っていた。

 ただしその表情は暗いものだったが。


(今はお会い出来ませんの一点張り、か)

(本当に用事が立て込んでいて無理なのか、それともまた別の理由なのか、怪しいところだな)


 魔族側にも存在している『騎士』。

 そして二人目の『七色の騎士(セブンスナイト)』。


 聞きたいことが山程あったウィリアムは先程”巫女様”のところへと出向いていたのだが、結果は見ての通りになんの成果もなかった。

 ”巫女様”が住む特殊な木造の建物の前にいる、黒い瞳や髪を宿した少女たちに阻まれ入ることすら出来なかったのである。

 何を言おうとも、『騎士』であることを告げても無理と言われて追い出されてしまったのだ。


(一度、ライアンさんに話を通す必要があるな)

(うむ。議長からの言葉ならばあの”巫女様”とやらもおいそれと拒否できまい)


 後ろに振り向けば、延々と続く廊下の壁。

 しかしウィリアムの瞳には、確かに”巫女様”が居座る屋敷の姿があった。


「……絶対に、また会おう」


 あの人に聞きたいことがたくさんある。

 『七色の騎士(セブンスナイト)』が二人いるのを知っていたのか、知っているのならば何故『七色の騎士(セブンスナイト)』は二人もいるのか。

 何より、初めて”巫女様”に会ったときにした”アレ”は何だったのか……一体、なんと言ったのか。


(”巫女様”は何者なのか)


 全ての疑問の答えをあの人ならば全て知っている気がするのだ。

 自身と共に在るバラムと絶対に会おうと決意して、緑の少年は再び城内を歩き始める。


 小鳥が囀り、大陸中央付近にあるお陰か基本的に一年中暖かい気候にある王都には色とりどりの花が芽吹いていた。

 大陸の中で最も過ごしやすい気候に王都ができるのも、当然といえば当然なのだろう。

 侍女たちが穏やかな表情で花に水をやる姿をのんびりと眺めながら、それではこれからどうしようかと思案するウィリアム。


 と、そこに後ろから誰かが声を上げた。


「ウィリアム!」

「エンテ……?」


 後ろから全力疾走でウィリアムへと向かってきたのはエンテだったが、様子がおかしいことにすぐにウィリアムは気がついた。

 常に余裕綽々で不敵という雰囲気を持つエンテが珍しいほどに焦っているのだから、余程のことだろう。

 そんな彼はちょいちょいとウィリアムに近づくように指示すると、ウィリアムの耳元に囁くように呟いた。


「…………た」

「なんだって?」


 息を切らしているからか、いつもの数倍か細い声で言葉を紡ぐエンテにウィリアムは聞き返す他ない。


「セレーナ様が――」

「あの子が……?」


 表情を息苦しさから顔を歪めたエンテが先程よりも少しだけ大きい声で言葉を吐く。


「――王都を抜け出して外に逃げ出した」

「…………は?」

「あとこれは内密だ、流石にこの事実が流れたら混乱が起きるらしいってライアンさんが」


 ウィリアムはあまりの事実にしばらく思考停止に陥ったのは、言うまでもないだろう。

 だとしてもいつまでも固まってはいられないと頭を振って思考力を取り戻したウィリアムは、冷や汗が全身から流れるのを感じながらエンテに周りに聞かれない程度の声で問うた。


「出たって、誘拐とかじゃないのか?」

「いや、違う。セレーナ様の直筆の手紙が置いてあったそうだ」

「ッ……!」


 思わず舌打ちが出るのを抑えられない。


「議長の娘なんだろ、護衛が付いていたはずだ。……それに、城下町や城の出入り口には守衛がいたはず」

「トイレに行きたいと言って、便所に行ったのを最後に逃げられたらしい。守衛とか知らねぇ、見てないって一点張りだ」


 確かにトイレの中にまで護衛が入るというのはあまりに非常識だから仕方がないが、普通そういう人用のトイレに人が一人通り抜けられる穴なんて存在しない。

 更に守衛が見てないとなると……


「隠し通路を使ったのか……?」

「隠し通路? そんなのあるのか」


 苦い顔をしたエンテにウィリアムは頷くと、早歩きで歩き始めた。

 慌てて後ろについていくるエンテが「どこに行くんだよ」とウィリアムを見る。


「ライアンさんのところに行って、緊急事態用の避難通路がどこに繋がっているのかを聞く」

「んなもんもあるのか……。っというかお前、詳しいな」

「…………まぁ、な」


 偉い人の建物には大抵あるものだ、と何処か苦虫を噛み潰したような表情をするウィリアムにエンテは何も言えず短く「そうか」としか言えなかった。


 少しだけ気まずくなった空気の中で黙々とあるき続け、ウィリアムたちはライアンの事務室へと辿り着く。

 何も言わず、ウィリアムは扉の前に立つと三回ノックをして「ウィリアムです。ライアンさん、火急の要件でお聞きしたいことが」と言えばすぐに中へと入れてくれた。


「その風貌は、どうやらエンテ君から聞いているようだね」

「はい。その件についてお聞きしたいことがあったので伺いました」


 流石に娘が急に居なくなったことでピリピリしているライアンは、纏う雰囲気が完全に議長のものへとなっている。

 が、それで驚き慄いているようでは話が進まないとウィリアムは表情筋を一切動かすことなく言葉を続けた。


「ここはかつて、多種多様な国々があった頃にあった一つの国の城で間違いないですね」

「あぁ。確かにそうだよ」

「……緊急事態用の避難通路からセレーナ様は外に逃げ出した可能性があります。その避難通路の出口先を教えて欲しいんです。そうすれば私たちが探しにいけます」


 スゥっとウィリアムを見るライアンの瞳の色が変わる。

 多少なりとも残っていた温厚な色が、完全に身を潜めたのだ。


「ウィリアム君。キミが”すべてを護る”という想いに基づいて生きる『緑の騎士』だと理解している。その信頼に答えてその場所を言ってもいいが……どこで”緊急事態用の避難通路がある”なんていう知識を手に入れたんだい?」

「…………」


 緊急事態用の避難通路、というのはその名の通り緊急事態のときに敵に見つからぬよう逃げるために作られた非常用の通路のことである。

 ならばこそ、その城の設計関係者や議員に相当する人々が知っているのならばまだ理解できる。


「どうしてキミが、一般人ならば知らないはずのことを知っている」


 先程のエンテの反応のように、まずそのような通路があるということすら知らないのが最も普通だ。

 一般人にすら知られている通路などで敵の襲撃から逃げれるはずもないだろう。

 だから、ライアンはウィリアムに向けて厳しい視線を向けた。


「話せば長くなります。ただ、今は昔一度だけ使ったことがあるとだけ。事実は、この件が片付いてから必ず致します」

「……良いだろう」


 深く息を鼻から吐いたライアンは、自身が座る事務机の引き出しの中から周辺地図を取り出して広げてみせる。

 一気に柔らかくなった雰囲気にエンテは陰ながらほっと安堵した。


「昔、人間同士の戦争をしている際に作られたこの城は対人間を想定して避難通路が作られているらしいんだ。……つまりはここ、ということになるね」


 ライアンが指し示したのは王都周辺にある小さな森の中。

 確かに周辺が木々で隠れているのならば、すぐさま見つかるということにはならないだろう。


「すでに僕のほうで衛兵を動かし避難通路の方に当たらせている。キミたちは外から『騎士の力』で出来るだけ早く避難通路の出口へと向かって欲しいんだ」

「わかりました」


 議長の言葉にウィリアムは頷くと、エンテの方を向いた。


「エンテ、セレーナ様はいつ居なくなったんだ?」

「侍女がセレーナ様の失踪に気づいたのはトイレに入って数分後のことだ。王都から森への直線距離を考えてもまだ森には着いていないはずだと思う」

「けど悠長にしてる時間はない、な。急ごう、エンテ」

「おう」


 地図を睨みつけてライアンが指し示した場所をウィリアムは暗記すると、すぐさま立ち上がりエンテを連れて部屋を出ていこうと踵を返す。


「……ウィリアム君、エンテ君。セレーナを、お願いします」


 と、その言葉に振り返ればライアンが……セレーナの父が頭を下げていた。

 上司どころか国の王とも匹敵する彼に頭を下げられたエンテはアワアワと慌てるばかりなので、代わりにウィリアムが答える。


「俺の理想(オモイ)は”すべてを護る”こと。……『緑の騎士』として当たり前のことをするだけです」


 エンテの襟を引っ張ってウィリアムは廊下へ続く扉を開くと、最後にこれだけ残した。


「今は、どうやってセレーナちゃんを怒るか考えておいてください」

かなり遅くなって申し訳ないです。少々この章の構成を練り直していました。

出来るだけ一週間から一ヶ月以内に更新できるよう尽力いたしますので、のんびりとお待ち下さい。

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