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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
5章 ―鳥の如く自由の青―
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議長として

「それで、ライアンさんは何がしたかったんですか? わざわざ王都に俺を呼び出したんだし、用があったんでしょう?」


 何とかかんとか混乱から抜け出したウィリアムは、頭を抑えながらライアンへと問う。

 当の本人であるライアンはそのウィリアムの疑問を聞いて逆に頭をかしげた。


「エンテ君から聞いたんじゃないのかい? 娘に会って、出来ればあの子に『騎士』へ成って欲しいんだ」

「……」


 本心から不思議そうにするライアンを見て、思わず眉をひそめるウィリアム。


「傷は大したことはないんですよね」

「あぁ、そうだね。一時期は本当に死ぬかと思ったけどアニータ君のおかげで全快したよ」

「なら何故――!」


 動けるのなら、戦えるのなら『青の騎士』を続ければいい。

 自分の娘にこの役目を、戦い続けなければならない役目を押し付けなくても良いのならそれで良いではないか。


 そんなウィリアムの想いに気がついているのか、ライアンは申し訳無さそうで、しかし信念を貫き通すような強い光を瞳に宿していた。


「決まっている。あの子の方が『騎士』に相応しいからさ」

「そんなの勝手の押しつけじゃ――」

「――僕は”本当の騎士”ではないんだよ」


 反論しようとした緑の少年の言葉は止まる。

 『騎士』に成れる理想(オモイ)を持ちながら、”本当の騎士”へと成れない……その理由はただ1つ。


 あまりに”人間”でありすぎるから。


「僕のこの立場は”本当の騎士”へと成るためには楔にしかならない。だが僕が今ある議長という立場を離れるわけにはいかないんだ」

「……ライアンさんは、知っているんですね」


 どうしたら”本当の騎士”に到れるのか。

 知っているからこそ、自分は”本当の騎士”へと成れないのだと理解せざるを得ないのだ。


「うん。だから、僕は自分の娘に『青の騎士』を託そうとしている。……どれだけ罵られようが、娘に恨まれようが構わない。それでも、確信しているんだよ――」


 今まで見たことのないライアンの表情。


「――あの子は必ず”本当の騎士”へと到れる……とね」

「――――」


 悲壮に満ちていてそれでも決意に満ちた表情は、この決断を下すのにどれほど苦悩したのかを何よりも語っている。

 本当は親である自分が全てを背負いたいし、娘には平穏に平和に過ごしてほしいのだろう。

 だからこそウィリアムは問わざるを得なかった。


「どうしてそこまで”本当の騎士”に拘るんですか?」

「ウィリアム……?」


 唐突に疑問を口にした緑の少年に、思わず同席していたエンテは言葉を漏らす。

 けれどもそれは、誰も気にしていないようで誰もが感じる純朴な疑問だった。


「確かに得られる力の強さは”本当の騎士”であるほうが良いと思います。でも、逆に言えばそれだけ。なら別にライアンさんが続けても良いじゃないですか……辛い思いをして自分の娘に役目を押し付けるよりも、良いじゃないですか」

「ウィリアム君。キミは優しいんだね」


 優しげに微笑むライアンだったが、それもすぐに悔しげな笑みへと変化して彼は目を伏せる。


「けどね、七人の『騎士』が”本当の騎士”へと至るのは他でもない――」


 気を抜けば腰が抜けそうなほど、強く真っ直ぐな瞳が……ウィリアムを貫いた。


「――”全てを終わらせる”ための必要な過程なんだ」


 『七色の騎士(セブンスナイト)』は”全てを終わらせる騎士”である。

 ウィリアムが『緑の騎士』となり『七色の騎士(セブンスナイト)』へと成り得る者だと告げられた後に”巫女様”から言われたのが、この言葉だった。


「『七色の騎士(セブンスナイト)』にキミが成るためには、七人の『騎士』が”本当の騎士”へと至らなければならない。そして、その力をキミが収束したとき……初めて『七色の騎士(セブンスナイト)』へと至れるのだと”巫女様”は言っていた」


 だから僕が『青の騎士』ではいけない。

 だから彼女が……”本当の騎士”へと至れるであろう僕の娘が『青の騎士』にならなければならない。

 ライアンはそう言葉を続ける。


 眼の前の銀の男は一人の父親としてではなく、この国を、人間を守る議長として決断を下したのだ。

 例えそれが万人に否定されるようなことだとしても、それが人間として最低の行為だとしても。

 ならばウィリアムに止めることは出来なかった。


「……分かりました、説得はしてみます」

「ありがとう、ウィリアムく――」

「――でも」


 本来ならば最後まで人の話を聞くウィリアムがライアンの、慕うはずの年上の話を途中で抑えて言葉を続ける。


「でも、彼女が本心から『騎士』に成りたくないと思ったら辞めます」

「…………」


 少しの間だけ、ライアンは言葉を失う。

 きっと目の前の緑の少年が自身の願いを聞き届けたのも、その上でこうやって釘を刺したのも、全てはこれ以上自分たちを傷つけさせないためなのだろう……そう理解したから。

 故に銀の男は笑った。


「うん、お願いするよ」


 一人の父親としての笑顔で。





「こちらでございます。お嬢様が中でお待ちですので、どうぞお入りください」

「ありがとうございます」


 恭しく頭を下げて本来の自らの仕事へと戻っていった侍女を見送って、ウィリアムは目の前の扉を眺める。

 事情を理解したウィリアムは、さっそく会って欲しいと嘆願されたライアンの願いを断ることが出来ずこうして侍女に連れられて部屋の前まで来てしまった。


(さて……どうするもんかね)

(どうしたもこうしたも、成り行きに任せるしかあるまい。言うべき言葉はもう決まっておるのだろう?)


 バラムの言葉に図星を突かれたように内心で苦笑するウィリアム。


(……バレてたか)

(当たり前だ。お主とは死地を共にくぐり抜けた間柄だからな)


 それとこれとは関係あるのだろうかと疑問に想うウィリアムは、しかし自身を理解してくれる存在がいるということに頬が少し緩む。

 と、そこまで考えてウィリアムはここまで忙しすぎたせいで忘れかけていたことを思い出した。


(そうだ、せっかく王都に来たんだ。もう一度”巫女様”と話がしたいな)

(うむ、あの女性に聞かなければならないことは多い)


 『七色の騎士(セブンスナイト)』は二人いる。

 あの時カスティと名乗った黒の少年が放った言葉を今もウィリアムは覚えていた。

 同時に一見は美しい少女であるはずの”巫女様”のことを婆あと言い放ったことも。


 知りたいこと、聞きたいことが山のようにあるのだ。


(これが終わったら聞きに行こう)

(まずは目の前の問題、だな)


 最終的な結論を出したウィリアムは、一つ深呼吸することで気持ちを入れ替えると緊張した面で扉にノックする。


「……どなた?」


 中から聴こえる声にどうにも最近聞いた声だな、と首を傾げつつウィリアムは言葉を返した。


「『緑の騎士』、ウィリアムです」

「え?」


 瞬間、ドタドタと部屋の中から音が聞こえ……すぐに扉が開かれる。

 扉から恐る恐る顔を出したのは――


「セレーナ、ちゃん?」

「やっぱり……ウィリアムさん!」


 ――外に出れればと、自由に生きられればと憂いていた”あの”幼き少女だった。

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