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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
5章 ―鳥の如く自由の青―
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◯劇な再会

「ったく、勝手にいなくなりやがって。探すこっちの身にもなれよ」

「本当に悪い」


 いかにも怒っておりますと言わんばかりに顔を歪めるエンテに、ウィリアムは必死に頭を下げる。

 あれから数分後、セレーナと名乗った少女との邂逅を果たしたウィリアムは怒り心頭のエンテに呼ばれて今も謝り続けていた。

 普段は明るくポジティブ思考なエンテだが一度怒ると中々機嫌を直してはくれないのだ。


「で? さっきのあの子は誰だったんだ?」

「セレーナ、っていうらしいよ」


 はぁ……と大げさなため息をついたエンテは、ジト目でウィリアムを睨む。

 そんなこと言われなくても知ってると言いたいのだろう。


「睨まれてもそれしか知らないぞ、出会ったのもさっきだし」

「……にしては親しげだったな」

「は?」


 何を言っているんだと顔をしかめるのを尻目に、両手を組み合わせて不気味なほど目をキラキラと輝かせたエンテ。


「とても気になりますっ! っていうオーラダダ漏れだったぞ、あの子」


 丁寧に声まで裏返して演技をするエンテだがこれっぽっちも似ておらず、ウィリアムは思わずため息をついた。

 どうやら先程までの怒りは前座だったらしい、と。

 怒っているとずっと引きずるというのが面倒なエンテではあるが、それ以上に友人……特にウィリアムの恋バナとなると異様にしつこくなるのだ。


「今はまだ幼いけどあの子はかなり将来有望だぞ? 誰か女性と親密になる機会なんてなかったんだから、このチャンスを物にしないとなっ」

「あのなぁ、毎度のことながら恋愛なんかに興味ないからな」


 恋愛なんていう存在をウィリアムはこれっぽっちも理解なんかしていないし、理解する気もない。

 ただただ傍迷惑なだけなので、ウィリアムは憂鬱になる。


「……それに俺に誰かと過ごす権利なんて」

「ん、どうしたウィリアム」


 一瞬、ほんの一瞬だけ横に歩く緑の友人の纏う雰囲気が暗くなったのを悟って、エンテは弾けるような笑みを浮かべて彼の前に立った。


「んな湿気た面するなよ。王都に行くついでだ、腹ごしらえにでもしようぜ」

「……あぁ、そうだな」


 思考の海へと沈みかけた意識を急浮上させたウィリアムは、仕方ないなぁと顔を緩めて再び茶色の少年の隣を歩き始める。

 懐かしい友人二人の時間なのだからそれぐらい許されるだろう、そう思いながら。





「『緑の騎士』ウィリアム、並びに『赤の騎士』エンテ。帰還いたしました」

「ご足労頂きありがとうございます。少々お待ちくださいませ」


 腹ごしらえをすませたウィリアムたちはそのまま城門へと真っ直ぐ向かい、そこを守護している衛兵に互いの紋章を見せる。

 間違えようのない細やかで美しい印を確認した衛兵は、すぐさま『騎士』たちに敬礼を行うと城門に一人を残し詰め所へ駆け足で入っていく。

 すぐさま彼らの上司であろう、老け顔の無精髭を生やした男性が詰め所からウィリアムたちの方へと向かってきた。


「ウィリアム様とエンテ様ですね。今城門を開きますので、不肖私が城に入るまでは案内させていただきます」

「よろしくお願いします」


 優しげな笑みを浮かべてウィリアムが頷くのを確認した衛兵の男性は、短く「はっ」と返事を返すと踵を返して開いた門を通って城へと歩いていく。


 蛇足だが、先程からずっとウィリアムしか喋っていないのにはちゃんとした理由がある。

 傭兵の父を持っていたエンテは知っての通り敬語というものを使えないし、仮に使えたとしても取ってつけたような不格好な敬語だ。

 それに比べウィリアムは地方の町で育ってきたとは思えないほどに丁寧な言葉を喋ることができ、下手にエンテが口を開くよりもウィリアムに一任したほうが色々とスムーズなのである。


 後ろから着いてくる『騎士』たちへ常に注意を向けながらゆっくりと歩いていた老け顔の衛兵は、城の正面扉に到着するとその前に立つ兵士に一言二言口を開くとウィリアムたちの方へと近づいてくる。


「ここからは城の世話を行っている侍女に任せます。ご苦労さまでした」

「えぇ、そちらもお疲れ様でした。ありがとうございます」


 頭を下げたウィリアムに習うかのように、エンテも頭を下げる。

 『騎士』という大陸の人々を守り続ける英雄の丁寧な反応に衛兵は微かに目を見開きながらも、次の瞬間には真剣な表情を取り戻し「勿体無いお言葉です、それでは」と敬礼して城門へと戻っていった。

 と、入れ替わり次に道案内を行う侍女であろう女性二人がこちらに頭を下げた後にウィリアムたちの方へと歩いてくる。


「それでは私がウィリアム様、こちらの方がエンテ様をご案内させていただきます」

「……? 別々、ですか?」


 侍女が言うことの意味を理解できず思わず聞き返してしまったウィリアム。

 最初来たときは中古の服を借りるため一緒に行ったと思ったのだが、と考えるウィリアムに後ろでだんまりを決め込んでいたエンテが肩をつついた。


「お前用の服だよ、ウィリアム。言ってなかったか? もう出来てるんだ」

「俺用の……。あぁ、ブランドンさんが来てた奴か」


 何だかんだ言って最初の謁見からしばらく時間が経っている、それぞれの『騎士』用の礼装など出来ていて当然だろう。

 納得したウィリアムはこちらの反応を待っている侍女たちに身体全てを向けると、「ではよろしくお願いします」と言って軽く頭を下げた。


「承りました」


 侍女である二人がウィリアムの礼に合わせて深々と頭を下げ、エンテとウィリアムはそれぞれの侍女に連れられて服を着替えに行く。

 何となく嫌な予感を感じながら。


 三十分後、そこには互いにゲッソリした顔をした二人が顔を見合わせた。

 二人が感じた嫌な予感は見事に的中し、未だ礼装に一人で着替えることができないウィリアムたちは侍女の手によっていとも簡単に素っ裸にされ、再び恥ずかしい思いをしたのである。


「お婿に行けない……割とマジで」

「なんかこう、侍女さんも無表情でしてくるから余計に恥ずかしい……」


 少年相応の活発そうな顔でメソメソと未来を嘆くエンテと、慣れない恥ずかしさに悶えるウィリアム。

 しかし後ろに控える侍女はそんなこと知ったことではないとばかりに歩みを進め、「こちらです、どうぞ」と有無も言わせぬ圧力で先を急くよう求めてきた。


(絶対遊ばれてるだろ、これ……)


 わかっていながら、それでもどうしようもないウィリアムはエンテを引き連れて熱くなった頬を冷やしながら侍女の後に続いていく。





 アレやコレやとあったものの、道案内をしていた侍女たちがゆっくりと歩みを止めたことでウィリアムたちの目的地に到着したことを伝えた。

 と、これまた予想外の場所でウィリアムは驚いた表情を浮かべる。


「すみません、ここは……?」

「我が国の議長であるライアン・キナクス様の就寝部屋でございます」


 以前と同じように会議室のような場所ではないのか、とウィリアムは考え何故自分をエンテが迎えに来た理由を思い出し納得した。


「ライアン様はまだお体が?」

「いや、健康っちゃ健康だ。ただ、まぁ……」


 ウィリアムの疑問に答えたのはエンテで、しかし途中で言葉を濁し言いにくそうに言葉を詰まらせる。

 どうやらそこまで状態は良くないらしいとウィリアムは察すると、腹をくくる意味で一度軽めに深呼吸をして後ろに控える侍女たちに頭を下げた。


「案内、ありがとうございます。ここからは大丈夫ですので、どうぞ仕事に戻ってください」

「失礼致します」


 礼儀正しく礼を返した侍女たちはそれぞれの持ち場に戻っていく。

 ぱっと見で分からない程度には急いでいる様子を見ると、どうやら今の城はかなり忙しいらしい。


「とりあえず、入っても大丈夫なのか?」

「あぁ、多分まだ起きてる」


 小さく頷いたエンテをチラリと見て、ウィリアムはドアを軽くノックする。

 すぐに厳かだがどこか柔らかな声が外まで響いてきた。


「入れ」

「失礼します」


 許可が下りたので一言つけてドアノブに手を置き、ゆっくりと押し開いていくウィリアム。

 広がった部屋、所々に眩し気な黄金の装飾を施された部屋が次々に視界に入り……すべての視線は最終的に一つの場所を映し出す。


 さも当然かのように業務机と向かい合い書類と睨めっこしている議長の姿だった。


「……は?」

「あ、ウィリアム君じゃないか。久しぶりだね、元気にしてたかい?」


 ライアンさんが魔族に襲われて致命傷を負った、そんな風には見えない程に元気なライアンは優しげに微笑んでいる。

 思わずエンテを見れば気まずそうに頭をポリポリと掻いて、まるでウィリアムの視線から逃れるように瞳が右往左往していた。


「ライアンさんはその、元気すぎて普通に執務してるっつうことだ」

「は、はあぁぁ……?」


 腹をくくった意味とは何だったのか、思わず体中の力が抜けきって萎れた風船のように地面に座り込むウィリアム。

 当の本人のライアンは一体どうしたのかと言わんばかりの白々しい満面の笑みを浮かべて、こう締める。


「ごめんね、ウィリアム君を呼び戻すためにちょっとしたウソを付いちゃったよ」

「”ちょっとした”じゃねぇっ!」


 あまりのニッコリとした笑みに、ウィリアムは頭を抱えて周りの迷惑にならないような絶妙な叫び声を上げたのだった。

遅れて申し訳ないです。これからもこのような亀更新となりますが、どうぞ長い目で見ていただけると幸いです。

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