支配から
木々が踊る。
帰ってきた、帰ってきた。
僕らの大事な大事な友人が帰ってきた。
「あぁ、共に行こう」
この地にある全ての木々に捧ごう、全ての植物に伝えに行こう。
キミたちが待ってて止まなかった大事な友人が帰ってきたことを。
「行けるか?」
「あぁ、大丈夫」
体の周りに樹木を纏わせながらグイドは微笑みながら頷く。
浮かべたその笑みはとても優しかったけれど……それ以上に強く逞しいようにウィリアムには感じられた。
互いに頷き合ってさぁ魔族を探しに行こうとしたその時、ウィリアムの背後から気配を感じ二人は瞬時に飛び退いて臨戦態勢をとる。
「ヘンリーッ!」
「さぁ追いついたよ。もう逃さな――」
不敵に笑うヘンリーだったが、視線をウィリアムからグイドへと移したとき表情が硬直した。
まるで信じられないと言わんばかりに。
「――! その力は……。そう、か、彼は”至った”のか、この短い間に」
笑った思ったら驚愕で染められ、その次の瞬間には思案するように目を細め……表情を七変化させていたヘンリーが最後に浮かべた表情。
それは”心からの笑み”だった。
「ふ、はははは……」
「ヘン、リー?」
「ふははははははははは!」
思わず眉を顰めたウィリアムたちをそっちのけで、ヘンリーは高笑い続ける。
「最高だ! 最高だよ! やっぱりキミは選ばれるべくして選ばれた……なぁ、『七色の騎士』君?」
「――――ッ!」
今まで目の前の魔族は嫌らしい笑みや含み笑いなど、気持ち悪い表情しか浮かべてこなかった。
だが今は違う、根本的にその表情は違っていたのだ。
「なにがそんなに嬉しい?」
「嬉しくないわけないでしょう? 眼の前の『七色の騎士』は本物だと、確信出来たんですからね」
両手を広げ興奮からか頬を紅潮させるヘンリーにウィリアムは理解できないと目を細める。
「『七色の騎士』は全ての色の想いを誰よりも持つ存在。それ故に”本当の騎士”へと至れない者たちへの為に道を示すのも『七色の騎士』。実際、ウィリアム君は今まで会ってきた『騎士』を導いてきました」
”本当の騎士”へと至れる資格を持つエンテを鼓舞し、『騎士』の道を諦めさせないことで彼は『赤の騎士』となり”本当の騎士”へと至った。
自らの罪により自分で自身を押し潰そうとしていたアニータに救済者としての根本を見せつけ、彼女を”本当の騎士”へと至らせた。
また先程ではグイドに人は生きている限り孤独になれないという現実を叩きつけ、彼の底にある願望を引き出して”本当の騎士”にして見せた。
――この偉業の数々を知って、誰が彼を『七色の騎士』ではないと言えるだろうか。
「ようやくボクたちの計画を一歩、進ませることができる。心から感謝するよ、ウィリアム君」
「”計画”……?」
「そう、計画。これについてはいくらウィリアム君だとしても教えることは出来ないなぁ。まぁ?」
ニヤリ。
いつもどおりに、ヘンリーはいやみったらしく笑った。
「ボクに勝ったら教えてあげるけどね」
「”親愛よ、力を示せ”」
瞬間、ヘンリーの周りに巻き付いていた木々の枝が一気に鋭さを増しヘンリーへと襲いかかる。
ヘンリーは槍で軽く枝を弾くと魔法によって瞬間移動し、距離をとって笛を奏で始めた。
「”樹木よ、我と共に”」
「ッチ、”樹木よ、想い紡げ”」
互いがそうつぶやいた瞬間、二人の周りに存在する木々が一気に動きを停止する。
まるで互いが互いを攻撃したくないと言わんばかりに。
否、実際に二人が同時に木々と対話を行っており、どちらも大切な友である木々にしてみればこの状況はどうしようもないのだ。
グイドとヘンリー、どちらも大事な友だからこそ攻撃も防御も出来ないでいる。
故に、たった一人動ける者にとってそれは好機にしかならない。
「砕き守れ、”風土之鉄槌”!」
ただでさえ破壊力の高い大槌に、風を纏わせることで更なる破壊力を求めたその武器を両手にウィリアムはヘンリーへと飛びかかっていく。
同じ『橙の騎士』同士の力が拮抗しているのは火を見るよりも明らかであり、逆に言えば互いが互いに意識し続けていないとこの均衡は簡単に崩れ去る。
気が抜けないと見越した上でウィリアムは大槌を振り上げ、ヘンリーの表情は――
――いつもと変わらぬ嫌らしい笑みだった。
「”嫉妬よ、塞ぎ囲め”」
「なッ……!」
振り下ろすその直前にヘンリーと大槌の間に突如として青い壁が生まれる。
驚くのもつかの間、凄まじい破壊力を持つはずの大槌を難なく受け止めたその青い壁……否、青い一枚の羽は何事もなかったように消え去った。
見知らぬモノにウィリアムはすぐさま新手だと判断すると、自らヘンリーと距離を見て大楯を前に構える。
「あの方に言われて来たらー……何やってんだよー、ヘンリーっち」
「ボクもまさか援軍としてキミが来るとは思わなかったけどね、チャーリー」
声がする方へ視線を上げれば、そこには青い翼を背中に生やした男の魔族がいた。
気だるげにため息を漏らしては青色の瞳を眠たそうに細める男。
しかし、纏う雰囲気はそんな気が抜けるような外見とは似つかわしくないほどに強いものだ。
「……お前も、『騎士』か」
「お、せいかーい。お初にお目にかかりますー、『青の騎士』のチャーリーでーす」
あははと間抜けた声で笑う男……チャーリーだが、依然として戦闘態勢を一ミリも解いてはいない。
やりにくいな、とウィリアムは心の奥で舌打ちする。
今まで魔族といえば嫌らしい笑みしか浮かべなかったりとか、まるで全てを知っているかのような雰囲気を持っていたりする奴というイメージが強かったのだが、それが一瞬で崩された感覚だ。
「まぁ、お近づきの印にー」
バサリ。
チャーリーの青い翼が広げられ、眠たげに細められていた瞳に力が宿った。
まずい、と特になんの理由もなくウィリアムは思う。
そしてそれは間違ってはいなかった。
「オレの羽でもいかが?」
「ッ……!」
否応でも戦闘が始まるのだと感じ取ったウィリアムは、大楯を構えてチャーリーに視線を置く。
大きく両翼をはためかせてチャーリーは空へ……一般的な『騎士』でさえ届くことのない、自由な空へ舞い上がった。
一瞬で不利な状況を作り出されたことに舌打ちをしたウィリアムを見て、眠たげな表情に少しだけ笑みを混ぜ合わせるチャーリー。
「”ダンス・――」
油断なく相手を追い詰めるため、更にチャーリーは言葉を紡ぐ。
「――”破壊よ、全て薙げ”」
しかし、それは上から文字通り”一文字に薙ぎ払われた”火炎によって中断せざるを得なくなる。
「よう。楽しそうなことしてんな、魔族ども」
「この……火炎、は」
ただただ力強く、純粋で、何より美しい火炎をウィリアムは見たことがあった。
否、共に戦ったこともあるだろう。
この火炎を生み出した張本人を、自分はよく知っているのだ。
思わず、といった風にウィリアムは声をした方向……自らの背後へと身体をゆっくりと回転させる。
音もなく何処からか突如として出現した存在は、茶髪は揺らして強気な笑みを浮かべた。
「久しぶりだな、ウィリアム。迎えに来たぜ」
「エンテっ!」
喜色を浮かべた緑の少年に茶色の少年は強く頷き、すぐさまその表情が真剣なものへと豹変する。
肩に乗せていた直刀をチャーリーへと向けて目を細め殺気を放ったエンテ。
「『赤の騎士』エンテ……行くぞ」
ゴウッ、と直刀から火炎が噴出された。




