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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
4章 ―強き者は親愛の橙―
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偽章 ―強き者は孤独の橙―

 俺にとって、人生とは孤独の意味を持っていた。

 少なくとも明確な意志を得ていた時には、すでに孤独と共にしている。


「ごめんね……。これからは一人で、生きてね……」


 まだ言葉もまともに喋れず記憶もおぼろげな時、俺は唯一の肉親である母に捨てられた。

 遠くへ走り去っていく母を追って俺も走ったが幼い足では、小さくなっていく背中を見つめることしか出来ない。


 そうして俺は幼くして孤独となった。

 行き場も分からず、何をしても良いかも分からず、ただ泣き続ける俺に誰かが囁く。


「『橙の騎士』は強く“孤独”を願う、そんな人が成る存在ですわ」

「こどく……?」

「貴方は、孤独を願えますの?」


 残酷にも彼は人の世に出てはならない異形を身に宿していた。

 禍族と魔族を人間の敵と定めているこの世の中では、誰にも触れ合えることは無く誰にも助けを求めてはならない。

 誰も居ないこの場所で生き残るには、それ相応の力を得る必要がある。


 だからこそ、俺は“孤独”を願わざるを得なかった。


「うん」

「そう、ですの……」


 周りの木々がざわめく。

 それは嬉しそうに、祝福するように――


「“本当の騎士”を目指すのですわ。そうすれば、貴方は報われる」


 ――とても哀しそうに、揺らいでいた。

 木が幼き(グイド)の周りに現れ、取り巻いていく。


「わたくしの名は“木之孤独(ツィラペ)”。偽りの契約ですが、木々に愛される貴方の為にわたくしは尽くしましょう」


 そうして右頬に紋章が浮かび上がった時、目の前には白銀の美しい狼が鎮座していた。


「今はただ、生きなさい。わたくしが助けとなりますわ」


 白銀の狼が姿を変え、一つの大弓へと変化して俺の手に収まる。

 言わずともこれがツィラペという存在であることを、俺は何故か理解していた。


 この日、そうして俺は『橙の騎士』と成る。





「ここ、は……」


 酷い(過去)を見たと、グイドは重い息を吐いた。

 虚ろな思考なままに記憶が途切れるまでを辿ろうと頭を巡らせるグイドに、声を掛ける者が現れる。


「起きたか」

「お前、は……『緑の騎士』」

「今の状態、分かってるか?」


 『緑の騎士』であるウィリアムの問いに、グイドは記憶をもう一度辿り……理解した。

 凄まじい速度で今の場所から飛び離れ、慌ててフードで自身の顔を隠そうとするグイド。

 しかし、首裏のどこに手を伸ばしても布の感触は表れない。


「ヘンリーにフードを剥がされていただろ、それでどっかにいった」

「……笑え、よ」


 グイドは醜態を晒し、知られたくなかった事実を知られてしまった。

 同じ『橙の騎士』であるヘンリーに手も足も出ず、果てに敵対していたはずのウィリアムに助けてもらう始末。

 いっそのこと大笑いしてもらった方が、気が楽なほどである。


「笑わない」

「は……?」

「笑わないって言ったんだ」


 意味が理解できないと言わんばかりの表情を浮かべるグイドに、ただ淡々とウィリアムは言葉を紡ぐ。

 誰にでも分かるほど、その顔には恐れも同情も憐れも無かった。


「俺が魔族と戦うのは、魔族が人間に危害を及ぼしているからだ」

「俺、は、その、魔族、の、血、が、半分、流れてる」

「少なくとも、お前は人間に危害を出してない。俺がお前と敵対する理由は、どこにもないよ」


 無意識に握る拳に力を加えるグイド。

 ウィリアムが言ったその言葉は、あまりに真っ直ぐであまりに純真であまりに筋が通っていて……あまりにイラついた。


「……んで」

「?」

「……なんで、なんで、俺、を、助けた!」


 自らの行動に芯を通しているウィリアムにとって、いきなりグイドが起こした怒りの理由が分からない。

 ただその理不尽な言葉に、実直に返すことしか出来なかった。


「俺は“全てを護る”。そう決めたから」

「そんな、こと!俺、は、のぞんでないッ!」


 グイドの口から出る言葉の数々には、接点が無く聞き取る側にとって理解不能なものでしかないだろう。

 しかし、ウィリアムには分かった……分かってしまった。

 彼の言葉は全て本物であり、彼の心の奥底に眠っていたはずのものなのだと。


「俺、は。俺は!」

「“全てを護る”。それを果たす為に俺は動いているんだ。お前にどうこう言われる筋合いはないと思うけど」

「知ら、ない!俺は――」


 本来のグイドならば皮肉を言ったり、憎まれ口を叩いて上手く躱すはず。

 だが今は目を覚ました直後で、知られたくない事実を知られ、目を背けたくなるほどの失態を侵してしまった。

 それらの積み重ねで精神的に不安定な今だからこそ、彼の口から吐かれる事実。


「――俺は、孤独(ヒトリ)で生きなきゃダメなんだ……」

「…………」


 目に涙を滲ませ、体全体を震わせながらグイドはブツブツと呟きつづける。

 今までの話慣れしていない、カタコトな喋り方はどこに行ったのかと言いたくなるほど、流暢な喋り方で。


「俺は母さんに孤独(ヒトリ)で生きろって言われたんだ」


「俺は父さんに孤独(ツヨキ)で生きろって言われたんだ」


「俺は孤独(ヒトリ)孤独(ツヨキ)に生きなきゃ……駄目なんだっ」


「そうしなきゃ、母さんや父さんに誇れない!俺は大丈夫だよって、安心してって言えないッ!」


「だから俺は“本当の騎士”に成る!だから俺はお前が『七色の騎士(セブンスナイト)』であることが許せないんだ!」


「他人に頼ってでしか戦えない……全く“孤独”じゃないお前なんかがッ!」


 自分に言い聞かせるように、しかしそれにしては弱弱しく呟くグイド。

 まるで自身からこれを失くせば何も残らないと言わんばかりに、その姿は脆く薄っぺらかった。


「両親はどうしたんだ」

「父さんは魔族に連れ戻されて……母さんは俺を置いてどこかへ行った。あぁ、そうだ……俺は孤独(ヒトリ)なんだっ!」

「強く、独りで生きる……それがお前の望みなのか」

「あぁ、あぁそうだよ!俺は孤独(ヒトリ)で、孤独(ツヨキ)で、何でも出来なきゃ駄目なん――くぎゅっ」


 高ぶった激情の赴くままに言葉を吐き続けるグイドの襟袖を、ウィリアムは遠慮なく掴みあげる。

 臆病で、まるで生まれたての赤子のような震えた瞳をウィリアムは視界一杯に映した。


「なん、だよ……!」


 掴みあげられたグイドは、震え続ける自らの手で襟をつかんでいるウィリアムの手を払おうともがく。

 しかし緑の少年はそれを全く苦にせず、ただグイドの瞳を睨むのみ。


 どれくらい経ったのか、感情の色が分からない目でグイドを見ていたウィリアムは経った一言、震える子供へ問う。


「本当に言ってるのか」

「何、を……」

「自分で何でも出来なきゃ駄目だと、本当に、心の底から言っているのかと言ってるんだ」


 有無を言わせぬ言葉の圧に、グイドは小さく頷いた。


「……そうか」


 ようやくグイドから目線を外し俯いたウィリアムは、襟を掴んでいない手に握り拳を作る。


「グイド」


 襟から手を離し、拘束から解放されたグイドが地面に崩れ落ちる……その瞬間――


「歯ァ、食いしばれ」

「は……ぶッ!」


 ――ウィリアムの全力ストレートがグイドの右頬に直撃した。

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