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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
4章 ―強き者は親愛の橙―
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暴かれた真実

「――“樹木之怠惰(ペテナガーラ)”ッ!」


 怒気を含んだ声でヘンリーがそう叫べば、彼の周囲から樹木が現れて一つの形を為す。


 不思議な形をした得物だった。

 一見すれば槍にしか見えないがそれにしては槍の柄に穴が多く開いており、よくよく見れば石突き部分に笛口のようなものがある。


「さぁ、君たちの出番だよ」


 先ほどまで怒声を上げていたとは思えない程の穏やかさで、ヘンリーは何かにそう語りかけた。

 ゆっくりと、石突きにある笛口のようなものへと口をつけ……奏でる。


「♪~~~~」

「な、んだ……?」


 笛口のような、ではなくまさしく笛口だったのだ。

 柄に見える穴を器用に塞ぎ、開け、吐きだす息の強弱で驚くほど多様な音色を奏で始めるヘンリー。

 あまりに綺麗で多彩な音に思わずグイドも困惑してしまう。


 それも次の瞬間までは、だが。


「……ッ!」


 突如、グイドの制御下から離れた木々たちはヘンリーの奏でる音色と同調するように自在に動き出す。

 法則の分からぬ多種多様な動きに合わせて、一片の枝がグイドへと襲い掛かった。


「なッ!」


 たった一片の枝は人の柔肌に、ほんの少しだけ切り傷をつける程度の強度しか持たない。

 『騎士』と成っているグイドにとってその攻撃は、避けるに値しないもののはず。

 ならば何故、掠めた自身の体に大きな裂き傷が出来たのか。


「これがボクの能力。君とは似ているようで……根本から違う、真逆のような能力さ」

「ぐ……!“木よ、従い動けプライビリティ・フォレスト”っ!」


 支配下から離れた木々たちを自らの元へと呼び戻そうと能力の名を叫ぶグイドだが、強力な何かの意志によって弾き飛ばされてしまう。

 拒否した意志とは誰からの……何からのものか、そんなのは考えるまでも無い。

 操られる側である、木々たちだ。


 根本から違う、と言う部分を察したグイドはヘンリーを睨み付ける。


「ふざけた、こと、を!」

「ふざけたこと?」


 怒りをにじませながら放たれた言葉を受け止めながら、ヘンリーは表情を掻き消した。


「木々を問答無用で操る、そんな能力を持つオマエが言うのか。心優しき生命の友を、支配下に置く能力を持つオマエがッ!」

「…………」


 ありえない、とグイドは歯を軋ませる。

 今目の前に居る敵が『橙の騎士』だというのならば、一体コイツのどこに“孤独”があるのか。


「『橙の騎士』は強く“孤独”を願う、そんな人が成る存在ですわ」


 記憶にある彼女が放った言葉を思い出すグイド。


 なんだ、なんだんだよ。

 なんで、『橙の騎士』であるコイツが――


「――何故、他に、頼るッ!」


 誰よりも孤独である象徴の『七色の騎士(セブンスナイト)』であるウィリアムも、明らかに“本当の騎士”へと至っているであろうヘンリーも。

 何故、他人に頼り他人と信頼し合うのか。


 これじゃあまるで、俺が間違っているみたいじゃないか!


「気付かなかったのかい?『橙の騎士』と成る者は、誰しも誰かを頼り誰かと信頼を築くことを最上とするのさ。僕然り……本当は、オマエも」

「“孤独よ、矢と化せ(スタブ・アロー)”ォ!」


 それ以上聞きたくなかった。

 目の前の敵の言葉を遮るように、滅茶苦茶な強度で作り上げた矢をグイドは放つ。


「“樹木よ、我と共に(ウィズ・ミー)”」


 しかしヘンリーがそう呟くだけで枝が出鱈目な矢を、一切の苦にせず受け止めてしまう。

 呆れるほどに、今グイドとヘンリーの間には戦力の差があった。


(……こんな奴が“本当の騎士”へと至れるのかい?本当に?)


 “孤独”という言葉にすがり続ける目の前の憐れな青年を見て、ヘンリーは心の底からそう思う。

 ここまで酷ければ流石に落胆もするというものだ。


(なれる芽は、あるさ。でも正直見ててイライラする)


 いっそここで殺してしまおうかと、笛槍を持つ手に力を込めようとして……すぐさま力を緩めるヘンリー。

 握り込むはずだった右手に、そっと枝が触れていたから。


(ダメ、ダメ)

(あぁ、分かってるさ。……でも、目の前の『橙の騎士』はキミたちを無理矢理使役していた。少しくらい痛い目を見ても)

(ダメ)


 頑なな言葉に、ヘンリーは思わず内心で苦笑いを浮かべた。


 今、彼と言葉を交わしているのは木々の意志。

 ヘンリーが持つ能力、“樹木よ、我と共に(ウィズ・ミー)”はこの世ある全ての木々と心を通わせることが出来る。

 だからこそ、無理矢理支配下に置こうとするグイドの能力とは似てはいても全く性質が違うのだ。


 グイドの能力に意志など関係なく強制的に木々を操る。

 ヘンリーの能力は意志を通わし同意の上で木々を操る。

 正に真逆と言えるだろう。


(でも、どうしてそんなに彼を庇うんだい?今までのキミたちなら、絶対に怒ってるはずだろう?)

(かれは、ここちいい)

(心地、いい……?まさか)


 木の意志からの言葉に ヘンリーは何かを察したのか表情を強張らせた。

 まず生命の土台とも言える木々……彼らは非常に穏やかでそれ故に繊細な存在である。

 人が彼らの領域を侵そうとすれば怒るし、新たな命の芽吹きに心躍らせたりする、心優しき友なのだ。


 だからこそ、彼らは強制的に支配下へと置かれることを何よりも嫌うし、それを行った本人も嫌うはず。

 しかし、この『大森林』に在る木の意志たちは一切彼を嫌ったりしていない。

 逆に不可思議なほどに彼を好いているようにも見える。


「人間側の『橙の騎士』。君が選ばれた理由、教えて貰うよ」

「なに、を……!」


 グイドは唐突にそう告げたヘンリーに怪訝そうに表情をしかめ……すぐにその“意味”を察したのか顔を歪めた。


(キミたちは彼を抑えるだけでいい。危害は絶対に加えないよ、キミたちの友という信頼にかけて)

(……わかった)


 自由自在に、軽やかに、何より力強く弱弱しいはずの一片の枝がグイドの身体を拘束しようと襲い掛かる。

 この攻撃が全て自身を捕まえるためだとすぐに理解したグイドは、捕まえられてたまるかと必死に避け続けた。


 『大森林』の勝手知ったるグイドと、初めて来たであろうヘンリー。

 逃げに徹してしまえば、長年この場所で生きてきたグイドをそう簡単に捕まえることは出来ない――


「グイド、大丈夫かッ!」

「ウィリアム……!?」


 ――予想外の乱入さえなければ。


「捕まえた!」

「な、ぐッ!」


 一瞬の隙を突かれ、グイドは枝に絡め捕られてしまう。

 『騎士の力』を総動員させて拘束から逃れようとするが、四肢全ての自由を奪われた身体では大した抵抗も出来ない。

 苦渋の表情を浮かべるグイド。


「ウィリアム君、だね。……ふむ、丁度いい」

「お前は、ヘンリーッ!」

(最悪のタイミングで来てしまったようだな、ウィリアムよ)


 流石にここまで予想出来なかったとはいえ、最悪のタイミングで出てきてしまったことにウィリアムは心の底から後悔する。

 あの一瞬の隙さえなければ、まだグイドは逃げおおせることは可能だったからだ。

 しかし悔む時間を相手はそう与えてくれない、ましては明らかに『騎士』と同類の力を纏う相手には特に。


「……まるで『騎士』、だな。ヘンリー」

「ご名答。ボクこそは魔族側の『橙の騎士』、名をヘンリー・メイソンと言います。改めて、お見知りおきを……人間側の『七色の騎士(セブンスイナイト)』?」

魔族(あちら)側の『橙の騎士』、か」


 どうやらまた“巫女様”に聞くことが増えたらしい、とウィリアムは内心愚痴りながら大楯と大槌を構える。


「おっと、すみませんがまだ手を出さないでほしいんですよね。ボクには今、知りたいことがあるんですよ」

「知りたい、こと?」

「えぇ。そこの人間側の『橙の騎士』について、ね」


 間接的にグイドだと示すヘンリーに、ウィリアムは無言で大槌を振りかぶり攻撃を放つ。

 それを軽々と避けて見せたヘンリーは転移魔法らしきモノを使い、瞬時に拘束されたグイドの目の前へと出現した。


「やめ、ろ!」

「ぜひこれは人間側に立つウィリアム君にも知っておいてほしいと思いましてね?彼の……」

「やめろッ!」


 グイドの悲鳴にも似た拒絶を受け流し、愉悦の笑みを浮かべたヘンリーはその顔を隠したフードを一気に剥ぎ取る。

 軽い布の音がして、強い拒絶の言葉とは裏腹にあっけなくフードは地に落ち――


「……この、在り得てはならない顔を」

「な……!」


 ――顔左半分を鱗で覆う、グイドの顔が日の元に晒された。


 普通の人間では在り得てはならない異形の顔。

 ではどのような生命ならば、このような顔が出来てしまうのか。


 考えるまでも無い、“魔族”だ。


「……お前は魔族、だった、のか」

「ぐっ!」


 “魔族”とは普通の人間では現れないはずの異形の“ナニか”をその身に宿す種族。

 醜い身体を持つ代償として、彼らは“魔法”という奇跡を手に入れたという。


「これではっきりしましたね、コイツは異様な『騎士』なんですよ。……『橙の騎士』に選ばれた理由が、“木々に好かれる”なんていう魔法のお蔭だったなんてね」

「“木々に好かれる”という魔法……!」


 魔法というのは一人に基本一つしか覚えぬ代わりに、ありとあらゆる特徴を持つ。

 同じ魔法を持つ、なんていうのは本当に一握りの魔族だけだろう。

 だからこそその多種多様な魔法の中に、“木々に好かれる”なんていうものがあっても何ら不思議ではない。


「そういう、ことだったのか」

「どうしましたウィリアム君?そうですよねぇ悲しいですよねぇ、共に戦うはずの『騎士』がまさか敵対する魔族だったなんて!許せないですよねぇ、怒りますよねぇ!」


 ヘンリーの言葉を全身で受け止めながら、ウィリアムは顔を下げ影に身を落とす。

 拘束されたグイドからは、俯く『緑の騎士』の表情が全く見えなかった。


「……だよ」

「ん?何か言いました?ウィリアム君」

「そうだよ」


 何らかの激情に駆られ、ウィリアムの体は細かく震える。

 それは怒りによってか、同情によってか、哀しみによってか――


「許せないよ、怒るに決まってる」

「ですよねぇ!魔族の分際で人間側に居ようなんて」

「俺が!俺自身を!許せないし怒ってんだよッ!」


 ――否、その全ての激情によってだ。


 自身の身に溢れかえる激情をそのまま力に変えて、ウィリアムは風纏う大槌を瞬時に創り上げる。


「“粉砕の風よ、砕き散れクラッシュ・スマッシュ”!」


 荒れ狂う粉砕の暴風を浅く、広く発現させこの周辺一体を台風へと変貌させた。

 唐突に起こった現象にウィリアム以外に誰も付いてゆくことは出来ず、凄まじい風に思わず目を瞑る。


「……逃がし、ちゃったか」


 次の瞬間、そこにはヘンリー以外誰一人として存在していなかった。


「俺が!俺自身を!許せないし怒ってんだよッ!」


 一瞬前までの暴風が嘘のような、穏やかな風に乗せられて先ほどのウィリアムの言葉がヘンリーの脳裏に過る。

 思わず、といった風にヘンリーはクスリと笑った。


「流石は同じ『七色の騎士(セブンスナイト)』ってことですかね、カスティ様」


 目を細めたヘンリーの頭に、とある言葉が甦る。


「俺はな、お前に怒っているんじゃない。それに気付いてやれなかった、俺自身に怒っているんだ。だからこそ、俺は自分を許せない」


 あの日、自分が救われ彼を一生の主として認めた日を、ヘンリーは忘れることはないだろう。


「ほんっと、よく似てるんですから」


 常に嫌らしい笑みを浮かべていたヘンリーの今の表情は、誰にも見せたことのないくらい穏やかなものだった。

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