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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
4章 ―強き者は親愛の橙―
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”本当の騎士”とは

「――グイドを、“本当の騎士”へと導いてほしいのですわ」

「……は?」


 思わぬ相手からの思わぬ言葉に、ウィリアムは間抜けな声を漏らした。

 何故、『七色の騎士』である自身と敵対しているグイド側であろう存在が、こんな願いを口にしているのか。

 しかし目の前の白銀の狼が宿す瞳は明らかな真剣さを孕んでおり、先ほどの言葉に何一つの偽りがないことを窺える。


 だからこそウィリアムは困惑しているのだ。


「驚くのも無理ないと思いますわ。ですがこれは私の願いであり、貴方に情報を提供する条件でもありますの。……どうか、確約していただきたいですわ」

「…………」


 “本当の騎士”。

 それを聞いて思い出すのは、元『黄の騎士』だったワイアットだった。


「――”本当の騎士”の……”俺”の力って奴を」


 禍族と相対したワイアットが戦う際に小さな、しかしはっきりとした口調でそう呟いたのをウィリアムは覚えている。

 その後に発現した『騎士の力』は凄まじく、同じ『騎士』であるウィリアムでもはっきりと差を感じられるほどに。


「確約するも何も、俺は“本当の騎士”とは何かを知らない。見たことはあっても理解はしていないから」

「……現代の“本当の騎士”と至ったのは、『黄の騎士』と『紫の騎士』のみだと聞き存じておりますの。ウィリアム、貴方はどちらかと……またはどちらかのみと接触したのですわね?」


 ツィラペの言葉に無言でうなずくウィリアム。

 『紫の騎士』とは一回もあったことがないが、『黄の騎士』であるワイアットとは出逢い共に戦った仲間である。

 あの小さくも屈強な背中を、一度も忘れたことなどない。


「ウィリアムは、『騎士の力』の法則をご存じで?」

「……?」

「そう、ご存じではない……と」


 どこか怒りにふれたように目を細めた白銀の狼だが、次の瞬間にはその怒りを治めると徐々に語り始める。

 本当ならば最も初めに知るはずの、『騎士の力』としての法則を。


「『騎士の力』を引き出すのには“詠唱”が必要、それは当然ご存じだと思いますわ。そして、詠唱には二つの意味がありますの」

「二つの、意味?」


 『騎士』へと至るためには“詠唱”が必要不可欠。

 今までそれをほぼ無意識に行っていたウィリアムだが、その“詠唱”が大きな隙にもなるのだと先ほどの件で痛いほど思い知らされた。

 逆説すれば、“詠唱”が出来なければ『騎士』もただの一般人なのだと。


 しかし、ほぼ無意識で“詠唱”していたウィリアムにとって“詠唱”に意味がまずあることに驚きを隠せない。

 更に意味が二つもあると言われたのだからなおさらだ。


「貴方たちが(オト)として表現する“表詠唱”。『騎士の力』が(オモイ)として表現する“裏詠唱”。その二つを同時に行っているのですわ」

(……そうか)


 と、ここでバラムが理解を示したように言葉を吐く。

 言外に何故今まで思い出せなかったのか、という意味不明な怒りを宿しながら。


(つまりウィリアム、お主が舞え、ウィリクスと唱えるのが“表詠唱”と呼ばれるものだ。我がそれに“理想を付与する”ことで“表詠唱”によって枷が外された魔力を『騎士』として象っているのだ)

(その“理想を付与する”工程が、“裏詠唱”ってことか?)

(うむ)


 ウィリアムが『騎士の力』を行使するために行う“詠唱”は、「舞え、“風之守護(ウィリクス)”」というもの。

 白銀の狼の言う“表詠唱”とはこの“舞え、ウィリクス”であり、“裏詠唱”は“風之守護”なのだ。

 音によって「舞え、ウィリクス」と唱えることによって、ウィリアムの中で枷に繋がれている魔力を放出、その後“全てを護る”という理想(想い)を叶える力として『緑の騎士』へと至っている。


「“詠唱”については理解した、だがそれが“本当の騎士”と一体なんの関係が――」

「――本来、『騎士』は定められたライン以上の力を発揮することは出来ませんの」


 本題から逸れているのではないか、と疑問に思ったウィリアムの問いをぶった切るように、ツィラペは言葉を続けた。

 そしてその白銀の狼から吐かれた言葉に、緑の少年は何度目かも分からぬ驚愕で顔を歪める。


「何故か、それは『騎士の力』が行使する“裏詠唱”に問題があるからですわ」

「バラムに……?」

「人間とは矛盾を体現した存在。全ての最強に成りたいと想っても成れない。全てを救いたいと想っても救えない。全てを創りたいと想っても創れない。全てを護りたいと想っても護れない。全てを誇って生きたいと想っても誇れない。全て自由に成りたいと想っても自由ではない――」


 もっと強くなりたいと『赤の騎士(ブランドン)』は言った。

 全てを癒したいと『藍の騎士(アニータ)』は言った。


 ――全てを護りたいと『緑の騎士(ウィリアム)』は言った。


 しかし強くなりたい理由は家族を守りたいからで、逆に言えば最低限の力があればそれでよかった。

 しかし全てを癒したい理由は罪を赦してほしいからで、逆に言えば罪が赦されればそれでよかった。


「ですが、極々まれに“人間とは矛盾”……それを跳ね除けようともがく人々がいますの。その人々は一般人から見ればただの狂人。それでも、彼らにとって“英雄”たる資格を持つ存在。そういうモノが“本当の騎士”へと至ることが出来ますわ」


 最強に成りたいと……否、成ると『赤の騎士(エンテ)』は言った。

 全てを救いたいと……否、救うと『藍の騎士(アニータ)』は言った。

 全てを創りたいと……否、創ると『黄の騎士(ワイアット)』は言った。


 誰もが想う最強には絶対に成り得ないと理解しながらも、最強に成るのだと断言した。

 誰もが救われるなど絶対に在り得ないと理解しながらも、全てを救うのだと断言した。

 何もかもを創るなど絶対に出来得ないと理解しながらも、全てを創るのだと断言した。


 その果てが、“本当の騎士”。


「“本当の騎士”へと至った『騎士』たちは、制限されていた力のリミッターが外され圧倒的な力を引き出すことが出来ますの。それと同時に“詠唱”も変化しますわ」

「……ぁ」


 ツィリペの言葉によってウィリアムは思い出す、アニータの“詠唱”の変化に。


「穿て、“水之治癒(ウィルン)”」

「穿て、“純粋之救済(ルニアリィ)”」


 同時に思い出すのはブランドンからエンテへと継承された『赤の騎士』、その力を発揮するための“詠唱”。


「壊せ、“火之殺戮(ファルガ)”」

「薙げ、“火炎之破壊(ファマト)”」


 アニータが吹っ切れた時から、ブランドンからエンテへと継承された時から、“詠唱”も大きく変化していた。

 それと同じくして得物も大きく変化し持つ能力も完全に変わっている。


「“表詠唱”は単純にもっと意味が強い言葉になり、“裏詠唱”はもっと明確に、もっと単純に強い表現へと変化しますの」

「それが……“本当の騎士”」


 リミッターを外し、『騎士の力』本来の力を使いこなす『騎士』。

 故に、“本当の騎士”。


 説明を受けてウィリアムの頭に過るのは、気絶する前のグイドとの戦いだった。


(あれは、“本当の騎士”じゃなかった)


 “本来の騎士”が使うにはあまりに弱く、あまりに不安定で、あまりに脆く――


 ――そして、あまりに揺らいでいた。


(矛盾を抱えているんだ、あの『橙の騎士』も)


 何か突き通したい想いがあって、それを現実が永遠と邪魔している。

 とどのつまり、その想いを必ず叶えるのだと吹っ切れていない。


(グイドは、敵。……敵、なのか?)


 確かに襲われたが、逆に言えば襲われた“だけ”。

 別に他人に迷惑をかけたわけでもないし、殺生をしたわけでもない。

 ただ、ウィリアムに対して私怨を抱いているだけなのだ。


 ならば何を迷う必要があるのだろうか。

 いや、逆に矛盾に戸惑い足踏みしている彼を進ませてやることこそ、彼も護ることに繋がるはず。

 ――結論は出た。


「わかった、確約する。俺はグイドを“本当の騎士”へと導く」

「嘘、ではないようですわね」

「当たり前だろ」


 極々当然のように、ウィリアムは言葉を吐いた。


「“全てを護る”。その全てに、あのグイドっていう奴も入っているからな」

「――――」


 その時、白銀の狼……ツィラペは確信する。

 彼は今までの誰よりも、狂っているほど真っ直ぐなのだと。

 しかしそれは『七色の騎士』として最高の逸材であることも意味していた。


 だから誰も気付かない。

 彼が何故“本当の騎士”に成り得ていないのかを。

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