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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
3章 ―創り造る鉄槌の黄―
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もう一人の――

「――おし、出来たぜ」


 数時間もの間、ひたすらに撃ち続けたワイアットは完成した偽腕を見て一つ頷いた。


「後ぁ仕上げだ……“創造よ、飾り象れデコレーション・クリエイト”」


 一見、ただの鉄の塊にしか見えないその偽腕。

 しかしワイアットが呟いたその一言で、全てが違うのだと理解させられる。


 鈍い鉄色をしているのは変わらない。

 だが一瞬にして象られたのは、まぎれも無い神業だった。

 今の時代、いや1000年経っても無理だと断言できるほどの精密な内部構造を一瞬で成し遂げたのである。


 鉄の塊の中に銅が埋め込んであるだけの偽腕が、人間の腕と変わりないほどの細やかな装飾が施されていた。

 いや、最早装飾ではなく“人口腕”と言って過言ではないだろう。

 思わずウィリアムは固唾を飲み込む。


「ほらよ、これがこれからのヒヨっ子の腕だ」

「……!」


 ワイアットからウィリアムへと渡される。

 左手から感じる、ずっしりとした重みと精巧な人口腕にウィリアムは鋭く息を吸った。


(これが……俺の新しい“腕”)


「あら、完成したんですね、ワイアットさん」

「ん?おうアニータか」


 不意に背中から聞こえる聞き慣れた声に、ウィリアムは振り返る。

 すっかり元気を取り戻したようで「ベッドをお貸し頂きありがとう御座います」と綺麗な礼をしてみせた。


「もう良いのか?」

「……えぇ」


 チラリと一瞬だけウィリアムを見たアニータは、その後小さく頷く。

 少しだけ目を細めたワイアットだが口には出さず豪華な髭を自身の手で撫でた。


「んじゃまぁ、アニータが起きたみてぇだし手伝ってもらおうかね」

「良いですよ」


 そう言って弟子の一人からワイアットが受け取ったのは図太い“包丁”。

 いわゆる肉切り包丁だった。

 嫌な予感がしたウィリアムは思わず一歩後ろに下がるが、すぐさまアニータに取り押さえられる。


「アニータ、痛み止めってのは可能だよな?」

「任せてください」

「いや、そのちょっと待ってください。まさか……!」


 ニヤリと嗤ったワイアットは「その通りだよ」と無残にも言い放ち、肉切り包丁を思いきり振り上げた。


「アニータ、得物を出せ。……いいかヒヨっ子、俺がお前の炭化した腕を切り落としたらすぐさまその偽腕をつけろ。後はアニータがやる」

「わ、わかり……ました」


 もうこれは対処できそうにないとため息をつき、ウィリアムは自ら右腕を出す。

 炭化して真っ黒な右腕を見てワイアットは何処を斬るべきか、何度か振り下ろすモーションを繰り返した。


(こ、恐い……)

(そうは言っても禍族と戦うときよりもマシだろう?)


 そうではないのだ、とウィリアムは抗議する。

 戦いのときは勝たなければ別の誰かが“死ぬ”のだから、痛みなぞ“どうでも良い”のだ。

 しかし今は別に切り落とさなくても誰も死なない、だからこそ怖いのである。


 宿主の必死の良い訳を聞いたバラムは、息を吐いて呆れた。


(……ならば余計耐えろ。お主の戦力増加が、結果的に多くの人を護ることに繋がるのだから)


「んじゃまぁ、行くぞッ!」

「ぐっ……!」


 ウィリアムの炭化した右腕が、今まさに切り落とされ――


「ようやく見つけた」


 ――爆音と共に、それを阻む者が現れた。


 あらゆる技術が揃う鍛冶場の天井から爆発の衝撃が現れ、ウィリアム含めたすべての人が薙ぎ払われる。

 思いきり背中から叩きつけられたウィリアムは、咳を吐きだしながら顔を上げた。


 上げて、瞳を大きく開ける。


「魔、族……!」


 鮮やかな金髪と、その鮮やかさ故に目立つ黒肌を持った男が佇んでいた。

 額に生える角と鱗を持つ異形の右腕を持ったその容姿から、すぐさま魔族なのだと気付く。


「王都に帰ったのかと思ったら、こんな場所に居たのか……“こちらの”『七色の騎士(セブンスナイト)』。いや、まだ至っていないようだが」

「こち、らの?」


 こちらの『七色の騎士』?

 それは一体、どういうことなのか。

 目の前の魔族の言い方では、まるで……まるで――


「――もう一人、『七色の騎士』がいるみたいじゃないかッ!」


 在り得てはならない現実に吠えるウィリアム。

 魔族は逆にその言葉を聞いて眉を上げた。


「ほぉ、あの婆あは教えてないのか」

「婆あ?」


 次々と知らない言葉が出てくるため、ウィリアムの脳は爆発しそうになる。

 と、手に持っていた“原土之創造(クェルマディ)”を杖にして立ち上がったワイアットが魔族を睨み付けた。


「オレたちが何を知らねぇってんだ、魔族さんよぉ?」


 ワイアットの言葉に魔族は笑みを浮かべ――


「――『七色の騎士(セブンスナイト)』は、二人いるんだよ」


 悠然と、さも当然かのように信じられない事実を言い放つ。


「……は?」


 何となくわかっていたとはいえ、あまりにも衝撃的な事実にウィリアムは思わず間抜けな声を漏らす。


 全てを終わらせると言い伝えられてきた『七色の騎士』。

 その存在が二人いる。

 文面で見ればそうふざけた話ではない。


 一番の問題は、何故“人間が知らず魔族が知っているのか”に収束する。


「それが事実っていう証拠はあるのかしら?」


 当たり所が少々悪かったのか、“純水之救済(ルニアリィ)”で左腕を治癒するアニータは、特に動揺した様子も無く魔族へ問う。

 確かにあれが事実を言っている確信はない、とウィリアムは思い至り見上げた。

 嗤う、魔族を。


「逆に嘘だという証拠はどこにある?」

「……“巫女様”が二人も居るだなんて一言も言っていないわ。それが証拠よ」

「その“巫女様”が嘘を言っていたなら?」


 “巫女様”が嘘を言っていない、と断言できる確信がウィリアムには無かった。

 あんな出会い方をしたのだ、信じ切れなくて当然だろう。


「アニータ、多分コイツの言っていることは本当だ。嘘なら、言う意味がわからない」

「理解が速くて助かるよ。まぁ……」


 嫌な笑い方をした魔族は、ゆっくりと右手を空へと上げる。

 ゾクリ、とウィリアムは背筋に嫌なものを感じて左手を突き出した。


 二つの声が、同時に声を放つ。


「舞え、“風之守護(ウィリクス)”!!」

「全て呑め、“漆黒之騎士(セブンスナイト)”」


 重圧。

 恐怖。

 災厄。


 次の瞬間に感じたのは、この全て。

 『騎士』と成ったウィリアムでさえ、少しでも気を緩めれば負の感情に呑まれそうなどす黒い威圧だ。

 思わず、膝をつく。


 漆黒の鎧を身に纏い左手に盾、右手に剣を持つ金の魔族は嗤う。

 覆らぬこの圧倒的差の上で嘲笑うかのように。


「俺が、その『七色の騎士(セブンスナイト)』なんだけどな」

「ぐ、ぅうう……!」


 勝てない。

 脳裏に響き続ける警報に、ウィリアムは必死に抵抗する。


 絶対に勝てないのだとしても。

 絶対に敗れてしまうとしても。

 ――“全て護る”ことだけは……決して諦められないのだから!


「“守護よ、人を護れ(ターゲット・セット)”……!」

「お前が相手か?まぁ良い、そっちの方が好都合だ」


 剣を持ち上げると、魔族は“軽く”縦一文に空を切って見せる。

 瞬間、ウィリアムが感じたのは今まで一度も受けたことのないレベルの攻撃だった。

 前に構えていた大楯が簡単に粉砕され、『緑の騎士』は呆気なく地面に伏せて痛みに耐えるように荒い息を吐く。


「ぐッ、つぅ……!」

「耐えたのか、流石は盾持ちというところか」

「っらぁッ!」


 感心する魔族の横を殴り砕こうと無音で飛びかかるは『黄の騎士』。

 しかし、見向きもされずに振り下ろしたはずの剣でいとも簡単に防がれ、そのまま勢いよく地面に叩きつけられる。


「くッ……!」

「なんだ、お前は掛かってこないのか?」

「――ッ!」


 周りの救助に勤めていたアニータは、一瞬にしてウィリアムとワイアットが倒れたことに言葉も出せない。

 ふざけるなと襲い掛かりたい衝動を何とか抑えてアニータは片手を魔族に、もう片方はウィリアムへと銃口を向けた。


「“救済よ、全て癒せ(オール・ヒーリング)”」


 呟くと同時に魔族へ向けた銃口から弾丸が連続で放たれ、ウィリアムへと向けた銃口から一発の弾が打ち出される。

 藍色に光る銃弾がウィリアムへと直撃。

 するとすぐさま身体の痛みが引いていくのをウィリアムは感じ取った。


(次はワイアットさ――)


「――面倒だな、先に堕ちてろ」


 すぐさまワイアットへ銃口を合わせようとしたアニータの目の前に、魔族の姿が突如として現れる。

 迷わず両方の銃を魔族へ向けて弾丸を放つが、至近距離で直撃したはずなのに全く動じる様子がない。


(なっ……!)


 在り得ない現実に目を剥くアニータに、魔族は何の躊躇も無く盾で殴り捨てた。

 頭から壁に直撃し完全に気を失うアニータ。


「アニー、タ!」

「残ったのはお前だけみたいだな?」


 あまりに理不尽。

 あまりに暴虐無尽。

 あまりに卑怯。


 彼の存在自体が、正にこの世界のルールを飛び越えていた。


(何とか、しないと!)


 ウィリアムの頭の中を埋め尽くす「何とかしないと」という文字。

 マトモに思考すら出来なくなっていくウィリアムの脳裏に、ある言葉が響いた。


「――もし宿り主が暴走したら、お前が“引き継げ”」


 これしかない。

 単純化された思考の中で、ウィリアムはほんの欠片ほどもない可能性を導き出す。

 例え微かな希望だとしても“全てを護る”為にはこれしかないのだと、ウィリアムはワイアットの元へ全力で駆けだした。


「…………」

「『黄の騎士』の力、目覚めてくれ!そして――」


 何故、今魔族が手を出さないのか。

 そんなものはどうでも良い。


 ――ただ、これに賭けるしかないのだから。


「――そして、俺に力を“引き継げ”!」


 そう叫ぶ声が聞こえた魔族は、全身の力を抜きただ“笑った”。





 全ては、思うが儘に。

もう一人の――

    ――『七色の騎士(セブンスナイト)

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