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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
3章 ―創り造る鉄槌の黄―
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潜入

大幅に遅れてしまい、申し訳ありません。

続きを書ける気がしなかったので、結果的に投稿が遅れてしまいました。

こんな亀更新ですが付き合っていただけると幸いです。 

 “不気味”。

 それが『呪窟』を目の前にしたウィリアムたちが何より先に思ったことだった。


 一見ただの洞窟の入り口にしか見えないソレは、『騎士』である彼らにしてみれば最悪以外の何物でもない。

 暗闇の先から漂う寒気がするほどの濃い“力”に、無意識ながら顔を歪めてしまう。


「ここが、『呪窟』」

「ウィリアム。ワイアットさんの言った通り、早めに『騎士』へ成った方が良いみたいね」


 歪みきった力の濁流に目を細めるアニータを見て、ウィリアムは頷きつつ『呪窟』の入り口を見つめた。


(確かにこんなに入口が狭いなら、ワイアットさんの得物は振るえないな)


 『呪窟』へと落ちた弟子を助けてほしいと頭を下げたワイアットだが、この場には来ていない。

 それは行きたくないという訳ではなく、行きたくても行けなかったのである。

 何故行けなかったのか、その理由をウィリアムは思い出していく。


「ワシの『騎士の力』で出す得物は、せめぇ場所では使えねぇ」


 苦虫でも噛んだような表情でワイアットにウィリアムは首を傾げた。

 どうやら一度見たことがあるらしいアニータは、すぐさま『黄の騎士』である彼が現す得物を思い出したらしく、「確かに」と頷く。


「ワイアットさん、一度見せた方が分かりやすいんじゃないでしょうか?」

「ん?あぁ、確かにそうだな」


 アニータの助言を肯定し、ワイアットは自らの長そでを捲り筋肉が詰まった右腕を顕わにする。

 上腕二頭筋から肩にかけて“印”が刻まれており、それはウィリアムやエンテ、アニータの“印”より遥かに大きく特徴的だ。


「砕け、“原土之創造(クェルマディ)”」


 瞬間、ワイアットの周りに粒状の砂が現れグルグルと回り始める。

 いや砂ではない、砂のように小さいがあの粒一つ一つが“鉄”であり“銀”であり“金”などの鉱石だ。

 多種多様、この世ある全ての鉱石の種類が『黄の騎士』へと集い――形を為す。


「ま、これがワシの得物だ」

「――――」


 息を呑んだ。

 目の前に現れた武器はあまりに質素で特徴がない。


 ただ、“あまりに大きい”ことを除けば。


「驚いたでしょう?」

「あぁ……デカいな、もの凄く」


 全長2mはあるだろうか。

 鈍色で甲骨なその槌はその大きさでのみ、自らの力強さを十全に見せつけていた。


「大槌……いや、巨槌?」

「ま、そういうこった。ワシの得物がこんだけデカい以上、行きたくても行けねぇ」


 『呪窟』という名前である以上、その場所は洞窟であることが想像に難くない。

 狭く小さな場所で2mもある武器を振り回せるかと言われれば否と答えるほかないだろう。

 何故行けないのかという疑問に終止符を打ったウィリアムは、「わかりました」の一言で納得する。


「おう、他人に頼むことじゃねぇが……頼んだぜ」


 力強い言葉に、二人は頷いたのだった。


「じゃあ行くわよ、ウィリアム」

「ん?あぁ」


 アニータの言葉で意識を現実に戻したウィリアムは、胸の中心に手を当てている彼女の隣に並び左腕を掲げる。


「舞え、“風之守護(ウィリクス)”」

「穿て、“純水之救済(ルニアリィ)”」


 二人はそれぞれ、緑の大楯と藍の両銃を出現させしっかりと握った。

 『騎士』へと成ったことへの違和感を解消しつつ、ウィリアムはアニータよりも前に出る。


「じゃあ行くぞ」

「えぇ、いつでもいいわ」


 一度だけ目配せをして互いに頷き合うと、ウィリアムとアニータは『呪窟』へと潜っていったのだった。





 暗闇に閉じた世界、周辺に住む人々から近寄ることさえ禁じられた『呪窟』と呼ばれた地下の世界に、目も眩むほどの光が放たれる。

 それと同時に起きたのは爆発音。

 暗いのと同じほど静かだったその世界に、火薬を爆発させたような音が響いた。


「ウィリアム!」

「分かってるっ」


 両手に“く”の形をしたものを手に持った女性は、左手に大楯を構える隻腕の少年に声を掛ける。

 名前を呼ばれただけの少年だが、しかし何をすればいいのかは察しているようですぐさま女性の前に立つと大楯を前に押し出す。

 瞬間、声を張り上げたのは少年でも女性でもない……狼の身体を覆う“影”だった。


「Ga――――!」


 金属同士がぶつかり合ったような甲高い音が響き、黒い影が放った爪と少年の持つ大楯がぶつかり合う。

 右腕を失っており、多少なりともバランスを失っている少年にとって力勝負は出来ないと言って過言ではない。

 だがその直線的な攻撃を受けきる“技術”を少年は持っていた。


「ッ……!」


 鋭く息を吐きながら右足を軸に左足を半回転させ、体全体の向きを四十五度ほど傾ける。

 一直線に爪を振るっていた影はぶつける相手を失ってそのまま前に飛び出してしまい――


「これで終わりよ」


 ――炸裂音と共に脳を打ち砕かれた。


「……ふぅ、これで何回目だ?」

「三回目ね」


 無事、ウィリアムとアニータは襲い掛かる狼の群れ……ではなく狼の死体に乗り移った“余物”の群れを撃破し安堵の息を吐く。

 これで通算三回も襲われた形になる事実に、流石に疲労も溜まっているのかウィリアムは額に浮かんだ汗を拭った。

 アニータもウィリアムほど動いていないとはいえ、緊張感などから汗が若干吹き出している。


 何度も襲撃を受けていることや緊張から汗が出てくるのも確かだが、それ以上に暑かったのだ。

 いや、暑いというより蒸れると言った方が良いだろうか。

 『呪窟』の中は空気の通りが悪く、戦闘時などで激しく動いていると身体から放出される熱で近場全体が熱されるのである。


「急ぐわよ、ウィリアム。ここまで“余物”が大量に出てくると弟子の人の生存も危ぶまれるわ」

「あぁ。それに長居すると助ける人の体力が底をつきそうだしな」


 ウィリアムたちは『騎士の力』によって身体能力が格段に向上してはいるが、それでも体力は有限なのは言うまでもないだろう。

 一般人と同じレベルで比較すれば無尽蔵とも思えるほどの体力を持ってはいるが、今回は心配する相手が違った。

 今回は助け出さなければならない人がおり、それはただの一般人であり体力も底が知れている。


「落ちた場所からあまり遠くに行っていないと良いけれど」

「こんな場所で下手に動く人なんていないだろ」


 すでに『呪窟』を潜ってしばらく経つが未だに助け出さなければならない人は見つからない。

 ワイアットから弟子が落ちた場所を教えて貰ったが、あまり当てにはならないだろう。

 異様な“力”が充満するこの場所の中ではコンパスすら使えはしないのだから。


「とりあえず早く助けに行こう。きっとどこかで隠れているはずだ――」

「――ウィリアム」


 速足で脚を進めようとしたウィリアムを止めるアニータ。

 しばしの沈黙を経て、静かな声で彼女は問う。


「貴方は、まだ生きていると思うの?」

「…………」


 その問いにウィリアムは答えることが出来なかった。


「公には言ってなかったけれど、多分ワイアットさんもその弟子の人が生きてるなんて半分思ってないと思うわ。私たちに頼んだのは、一筋の願いを掛けたから」

「なら、余計行かないと」


 託されたのならば、余計諦める訳にはいかない。

 ウィリアムの言葉は疑う余地も無いほど正しいだろうし、当然アニータ自身もそう思っている。

 だが、それ“だけ”で終わるとは思っていなかった。


「だから今のうちに決めておきましょう、制限時間を」

「制限、時間?」


 きっとウィリアムならば、隅から隅まで調べれるのならば調べようとする。

 いや、無理だとしても強行しようとするだろう。

 だから予めに引き際を決めておく必要があったのだ。


「三時間。今から三時間後にはここを出る準備を始めるわ、それ以上は私たちの体力が持たないもの」

「それでも……!」


 焦ったようにウィリアムはアニータに食い下がる。

 もし三時間見つけられず退却して、だがその人がまだ生きて救助を待っていた場合……ウィリアムはその人を護れなかったということになるのだから。

 全てを護ると願った少年にとって“もしも”だとしても人を護れないという事実は、到底認められなかった。


 ウィリアムの想い、願い全てを知っているからこそアニータはそう結論したのである。

 その人を助ける為にきっと自らの命を犠牲にするだろうと。


「これはもう決定よ。その人を見捨てたくないなら急ぎましょう、手遅れになる前に」

「……わか、った」


 きっと嘘なのだろうとアニータは思う。

 口では理解した風を装っても、その喋り方や表情などから本音が駄々漏れだ。


(でも、ただの一般人よりも『騎士』である貴方の方が優先度は高いわ)


 もしウィリアムがここで死んだとして、次の『騎士』がすぐに現れる確証はない。

 事実、彼が『騎士』と成るまでの長い間は誰も『緑の騎士』の席はいなかったのだから。

 彼を生き残らせることこそ、アニータにとっての最善。


(貴方を死なせはしないわ)


 百を救う為になら、一を犠牲にしよう。


 決意を胸にアニータは先へと急ぐウィリアムの背中を追ったのだった。

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