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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
3章 ―創り造る鉄槌の黄―
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『騎士』であり『英雄』である

 クェンテの人々と別れを済まし、『黄の騎士』が住まう村であるベヒュンドに馬車で向かうウィリアム達二人。

 当然の如く『騎士』が持つ特別な馬車に乗りこみ、馬を操るアニータは今日何度目か分からないため息をついた。


「はぁー……」


 チラリ。


「はぁああああ……」

「な、なんだよ」

「いーえ、別になんでも?」


 そう言ってまたため息をつくアニータに、ウィリアムは冷や汗をかく。

 ウィリアムが馬車に乗り込んだ際に驚かれてから、ずっとこの調子なのだから心労が酷い。

 けれど彼女が不機嫌な理由が全く理解できず頭を傾げるばかり。


「ほんっとうに分からないのかしら? どうして私がこんなに怒ってるのか」

「……?」


 最後の確認でさえ疑問符を浮かべてしまったウィリアム。

 管か何かが切れた音がして、苛立ちを吸い込んだ息と共にアニータは吐き出した。


「あーあ、私も屋根のある場所で休みたいなぁ。だ! れ! か! さ! ん! みたいにっ!」

「あっ」


 ここまでされてようやく彼女が何を言いたいのか理解する。

 つまりは馬車の操縦を変われと、自分の代わりに馬を操れと言っているのだろう、と。

 思わず口から言葉を漏らしたウィリアムに、アニータはようやく休めると安堵し――


「ごめん。俺、馬を操ったことないんだよ」

「は?」


 ――口から自分でもどうかと思うほどのドスの利いた声が出たのを感じる。

 目元を痙攣させながらふざけたことを言った少年へと視線を向ければ、罪悪感ゼロの表情が視界に入った。

 流石のアニータもこれには耐え切れない。


「なん、で……なんで馬を操れないのよあんたはぁっ!!」

「え、あ、いやだって、俺ただの庶民だし操る機会なんて……」

「『騎士』になったんだから馬の操縦くらい覚えておきなさいよッ!」


 別に馬車を操縦するのは良いのだ。

 だが最もアニータにとって許せないのは、男であるウィリアムが何の罪悪感も無く馬車に乗り込んでいること。


 まさか操縦できなかったとは知らなかったアニータは、ある程度怒鳴り散らした後にすぐさま冷静になる。

 少し熱くなり過ぎたと反省し、これでは嫌な女みたいだと自己嫌悪しながらもう数えるのも億劫なほどのため息をつく。


「もう良いわよ……」

「あ、えっと、その。あ、あのさアニータ」

「……何よ」


 多少冷静になったとはいえ流石にまだイラつきは収まり切っていないのか、語りかけるウィリアムに鋭い目線を送るアニータ。

 だがここで引いたら余計怒らせると嫌でも理解したのか、ウィリアムらしくない震える声で提案した。


「良かったら、今後の為にも教えてくれないか? その……馬車の操り方を」

「ふぅん? ウィリアムは私を過労死させたいわけなのね?」

「いや、そうじゃない……!」


 じゃあ何よと目を細めるアニータに、内心かなりビビりながらも勇気を絞り出し言葉を続ける。


「その、こういうの頼めるのアニータしか居ないんだよ。多分エンテも馬の操縦とか知らないだろうしさ」

「…………はぁ、仕方ないわね」


 本当は、エンテはありとあらゆる戦闘術を学んでいるので馬術も知らない訳がないのだが、実際目にしたことがないウィリアムが知るはずもないだろう。

 こういうところも、外で活動しようとしなかった弊害である。


 アニータはもうどうにでもなれの気分で提案を受け入れ、ウィリアムは従者席に来るよう手招きした。

 馬車の中に比べたら随分と狭い空間だが、それでも二人ほどは座るスペースはある。

 まぁ、肩が軽くぶつかってしまうぐらいには狭いが対して二人は気にしない。


 彼らにとって互いの存在は、男女というより姉弟に近かったから。


「一応、知識としては頭に入れてるんだけどな……どうしても実践する機会がなくて」

「はいはい分かったわよ。でもとりあえず基本から教えるわよ?」

「お願い致します先生」


 少しだけおちゃらけながらも、二人の旅は普通より少しゆっくり目に進んでいくのであった。





「さて、今日はここで野宿ね」


 馬の操縦方法を復習していたウィリアムは、そう言われて初めて周りが徐々に暗くなっているのを知る。

 日はとっくに沈みかけており準備をしていれば完全に沈みきるはずだ。

 どうやら熱心になりすぎたようだと苦笑するウィリアム。


「ほらウィリアムも降りなさい、急がないと夜になってしまうわよ?」

「あ、あぁごめん。すぐ行く」


 気が付けばアニータは馬車から降りて野宿の準備を始めていた。

 と言っても、寝るのは屋根もろもろが揃っている馬車の中なので食事等の為の火起こし程度だが。


「…………」

「…………」


 黙々と作業を続ける二人。

 気まずい雰囲気がウィリアムたちを包み込む……訳ではなく、不思議と二人の間に変な空気は流れない。

 当然だろう、彼らは互いに信頼し合っているのだから。


 気まずくなるのは静寂をどうにかしようと変に頭を巡らせるからこそ起こるものだ。

 だが二人はこのまま黙りっぱなしでも構わないと思っているし、どちらかというとそちらの方が心地よいまである。

 一ヶ月間、毎日過ごした結果生まれた関係だった。


 心地よい静寂に包まれながらスムーズにウィリアムは火を起こし、完全に夜が訪れる前に一先ずの安全を確保。

 その間にアニータは一日歩き通しだった馬に、食料と水を与え休ませた。


「ふぅ、とりあえず食事にしましょうか」

「簡単な料理なら俺が作るよ」

「あら料理出来たの?」


 そんなウィリアムの意外な一面に驚くと言う場面があったが、それ以外は特筆する点も無く夕食を済ませる。

 食事を済ませた頃には完全に夜の帳を迎え、月明かりと星の輝きだけが周りを照らす太陽となってしまう。

 少々熱さを感じながらも、ウィリアムとアニータは眠くなるまで火の近くで寄り添うことにした。


「……やっぱり、少し暑くなってきたわね」

「それだけ北に近づいてるっていうことなんだろうな」


 知る限りの世界で、たった一つのみ存在する大陸は北に向かうほど暑く南に向かうほど寒くなるというのは常識の中の常識。

 だが身を持ってその事を知る人は少ない。

 殆どの人が生まれた場所から一歩も動かず一生を終えるのだから。


「『最前線』の地は肌寒いそうだから、北から南に移動したら風邪をひきそうね」

「あぁ、その時は気を付けないとな」


 心の中でまずありえないけど、と付け足しながらも彼女の冗談に付き合うウィリアム。

 あまり面白くも無く分かりにくい冗談だが、短い期間ながらも接し共に戦ったからこそ理解していた。

 アニータには伝えたい言葉があるのだろうと。


 きっとそれは聞きにくいことだ。

 だからこそ彼女は伝えても、問うても良いか迷っている。


「あの、ね」

「…………」


 内容を知りたい気持ちはもちろんあった。

 けれど無理矢理に問いただすのはあまりに彼女の想いを踏みにじっているだろう。

 故に沈黙し、ウィリアムは彼女と視線を合わせたまま動かない。


 長いようで短いような不明瞭な沈黙を置き、ようやく決心が固まったのかアニータは口を開く。


「私は今まで、人を治癒することが罪の償いになると思っていたわ」


 彼女が口にしたのは“思い”。

 時に未熟であり、時に焦っていた彼女に起こった償いようのない罪の話だ。

 幼い頃から縛り続けたその自身を苦しめ続けた鎖を、アニータは吐露し始める。


「傷を治し、傷を癒せばいつか私の罪は無くなるのだと……そう勘違いしていたの」


 身体の病を治せばきっと償える。

 身体の傷を癒せばきっと償える。

 そう思い続け、そう勘違いし続けた彼女は未熟なままに焦り続けて治癒を延々と続けてゆく。


 ――だが身体の病や傷を治せても、癒せても“心の傷”までは救えなかった。


「ウィリアム、貴方にとても感謝しているわ。罪は償うものではなく、向き合い続けるものだって貴方が正してくれたから」


 罪は決して償うことのできないものである。

 どれほどの善行を積んでも、それは過去の過ちを無かったことにできない。

 ならば何故、“償う”という言葉が存在するのか。


 そんなの決まっている。

 罪と向き合い罪と共に生きることを、人は“償う”と呼ぶからだ。


「だから、私を救った貴方に問いたいの」


 文字通り身体を張って、その果てに右腕を犠牲にしてまでアニータを救ったウィリアム。

 常に人の前に立ち人を護り人を救った。

 その在り方は正に『騎士』と言うに等しいだろう。

 その在り方は正に、『英雄』と言うに等しいだろう――


「貴方はいつ、“壊れたの?”」

「――――」


 ――だが、その在り方は『人』ではなかった。

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