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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
2章 ―救済探す治癒の藍―
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再会の為の別れ

「んーっ、久しぶりのベッドだぁ……!」

「あぁ。ここに来るまでの間は野宿だったからな、ベッドが愛しくて仕方なかったぜ」


 その日の夜、ウィリアムとエンテは宿を取り久方ぶりのベッドを心行くまで堪能していた。

 沈むような柔らかさ、とはいかないもののある程度の柔らかさのある寝床に寝転び、ウィリアムは感嘆のため息をつく。

 エンテもベッドに腰掛け静かに天井を見上げている。


「……なぁ、エンテ。お前何か隠してるよな?」

「――――」


 唐突に問われたウィリアムの言葉に、エンテは大きく動揺したかのように瞳を揺らす。

 明らかな驚きの仕草に、問う彼は自身の疑問が確信へと変化するのを自覚した。

 ベッドに座るエンテは参ったと言わんばかりに両手を上げ、目を細めるウィリアムに向けて苦笑する。


「なんで分かったんだよ」

「お前、この街に来てから雰囲気変わりすぎでしょ。伊達に何年も親友やってないよ」


 どうやら親友には隠し事は出来ないようだとエンテは微妙な表情をして、頭をポリポリと掻いた。

 部屋を支配するのは静寂。

 ただただ、ウィリアムは自らの親友が何かを話しかけるのを待っているのだ。


(そうだ、そうだったな。お前はそういう奴だったよな)


 こちらに視線を向けつつ、それでも何も言葉を発しないウィリアムの姿にエンテは両手を握りしめる。


 緑の親友……ウィリアムは常に自ら隠し事を聞こうとはしない。

 相手側が話したいと望めば真摯に受け止め、一緒に悩んでくれる。

 けれど、話したくないと望めば彼はただ頷き元通りの空気へと戻してくれるのだ。


 ウィリアムの気遣いに自身は甘えているのだとエンテは誰よりも理解していた。


(そりゃまあ、9歳の頃からの親友だしな。分かってない方が可笑しいか)


 “ボロボロの姿”で9歳のとき、唐突にウィリアムは“たった一人”でエンテたちが住んでいた町にやってきたのである。

 初めは同情で彼と仲良くしていたエンテだったが、ある日理解した。


 ――どうしようもなく、ウィリアムという存在の生き方に憧れているのだと。


 それから、エンテはウィリアムと過ごすようになる。

 時には喧嘩をして、時には一緒に死にかけるような目にも合った。

 だから、“そういう日”が来ることはないのだと……心のどこかで安堵していたエンテ。


(アイツの気遣いに、いつまでも甘えてらんないな)


 大きく息を吸ってエンテは決心する。


「あのさ、ウィリアム」

「おう」


 ただ相槌だけを打ってウィリアムはエンテが話を続けるのを待つ。

 結局、今も彼に甘えているのだと理解しながらも、エンテは自身の右手の甲をウィリアムへ見せる。


「俺は『赤の騎士』になった。だから――」


 9年も共に生きてきた。

 その間、田舎よりである故郷は離れる用事も無かった為に常に一緒だったことを覚えている。


 けれどそれは今日までだ。


「――だから、お別れだ」


 禍族というのは神出鬼没である。

 出る頻度は一ヶ月に一度出れば多い方だが、その分与えられる被害はかなり多い。

 だからこそ、大陸の各地に『騎士』が配置される。


 一つの大陸の中で一定の間隔に『騎士』を配置することで、唐突に現れる禍族に早く対処しやすくするのだ。

 現在、“最前線”にて魔族を一人で抑えている『紫の騎士』を除きこの大陸には五人の『騎士』が大陸の各地に配属されていた。


 王都周辺を担当する『青の騎士』。

 大陸北部を担当する『橙の騎士』。

 大陸西部を担当する『藍の騎士』。

 大陸東部を担当する『黄の騎士』。

 ――そして、大陸中央を担当する『赤の騎士』。


 『赤の騎士』であったブランドンは、故にエレノアに住み周辺を禍族から護っていたのである。

 だが、現在ブランドンは『赤の騎士』ではない。

 今その役目を担っているのはエンテだ。


 故にエンテは大陸中央を護る為に、戻らなければならない。

 9年間、常に一緒だったウィリアムをここ……クェンテに残して。


 ウィリアムはそこまでを思い出して、咀嚼して、飲み込んで、理解する。

 つまりは親友との別れが近づいているのだと。


 ならばその親友へと向ける言葉は何が正しいだろう。

 「残念だ」、「寂しくなるな」、「一緒に行ってやれなくてごめん」?

 違うだろ。


「おめでとう」

「――――」


 一番エンテが望んでいる言葉は祝福のはずだ。

 確かに残念だし、寂しくなるし、済まないともウィリアムは思っている。

 けれど、その想いは誰よりもエンテが理解しているはず。


 だからウィリアムがエンテにかける言葉は、祝福。

 最強になりたいと、『騎士』になりたいと、全てを護る為に矛と成りたいと願っていた彼の夢が果たされる。

 その時に悲しんでどうするのか、親友だからこそ笑って送るべきだろう。


 ウィリアムはだから、今日一番の笑顔でエンテを祝福する。


「お前の望み、叶えて来い」

「あぁ、ご……いや、ありがとうウィリアム。その言葉が聞きたかったんだ」


 拳をエンテへ突きつけるウィリアム。

 笑って、赤の少年は親友の拳へと自らの拳をぶつけた。


「やっぱり、お前は最高の親友だぜ」

「当たり前の事言うなよ、親友」


 二人は笑う。

 互いの友情は確かなものだと、互いの望みの為努力するのだと。

 そう確かめ合うように。


「ウィリアム、お前は強く成れ。誰よりも強く……全ての人を護る為に」

「あぁ、だから約束しよう」


 深翠の瞳と、鳶色の瞳が交錯する。

 ただ真っ直ぐ見つめ合う瞳が向かう先は、逆方向だけれど心の行く先は同じ。


 ――“全ての人を護る”。

 彼らはその盾と矛になりたいのだから。


「「次会うとき、今よりも強くなってるって」」


 月明かりが差し込む部屋の中。

 緑色と茶色の髪が、穏やかな光に照らされる。

 その中で彼らが交わすのは……“再会の為の別れ”だった。

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