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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
1章 ―力求める破壊の赤―
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襲撃

出来たので、中途半端な時間ですが投稿します

 ウィリアムとエンテがそれぞれに特訓を始めてから一週間ほどが経ったある日。

 いつも通りに『騎士』が持つ能力が何なのか考えていたウィリアムの鼓膜に、轟音が響いた。


「――――ッ!?」


 特訓を筋トレしながら眺めていたブランドンにもその轟音が聞こえたらしく、その音に顔を驚愕で歪めながら音の方角へ振り向く。


「な、んで――」

「――こんなにも早く、現れやがるッ!」


 唐突に、誰もが平和を謳歌していた街に起きた死の影。

 まるで世界の裏側から来たかのようなどす黒い漆黒で塗りつぶされた巨体に、ぽっかりと空白が開いた瞳らしきもの。

 全長5mほどもある巨大な人型の禍族(マガゾク)が、またウィリアムの目の前に現れた。


「ウィリアム、来い!!」

「は、はいッ!」


 驚くほどにその顔を“恐怖の怒り”に変えたブランドンは、怒声を上げながら禍族の元へ全力疾走する。

 あまりの焦り方にウィリアムは一瞬眉を潜め……すぐに気が付く。


 あそこは“妻と娘が居る住宅街”なのだ。

 遠く詳細には分からないが、それでも今禍族が居る場所は住宅街にほど近い。


(出現する場所に悪意がありすぎる……!)

(ウィリアム、ここは『赤の騎士』を先に行かせた方が良いのでは?)


 バラムの提案にウィリアムは速攻で肯定すると、前で走るブランドンに声を張り上げた。


「ブランドンさん!先に能力で行ってくださいッ!後で向かいます!」

「――!あぁ、悪い、先に言ってるぞッ!」


 即座に火之刃斬(ファルガ)を展開したブランドンは、火を噴射する能力……“火よ、吹き進め(ジェット・オン)”を起動し空に飛び立つ。

 それを走りながら見届けたウィリアムは、遠ざかっていくブランドンの背中に心の奥で妙な違和感を覚えながら、それでも走り始めた。


「舞え、“風之守護(ウィリクス)”」


 ウィリアムも自身の得物を展開すると超強化された脚力で屋根へと飛び、誰も居ない不安定な足場の中駆ける。

 走りながら通路へ視線を向ければ、衛兵が混乱している住民たちを必死に誘導している姿が目に映った。


(エンテ、あいつも避難してくれるとありがたいんだけど)

(そんなことをする奴でもないのは百も承知だろう?ウィリアムよ)


 確かに、とウィリアムはバラムの言葉に苦笑して前を向き……気付く。

 漆黒で創られた禍族の周りに、火が飛び散っているのを。


(もうブランドンさんは到着したのか!)


 急いで加勢しなければとウィリアムは慌て、全力で禍族の元へ向かった。





 同時刻、偶然にも住宅街の近くの大通りで休憩を取っていたエンテは、禍族が現れるのを間近で確認していた。

 その後すぐさま自身では太刀打ちすら出来ないと判断して、批難誘導の方へ移っていたのである。


(まぁ、ブランドンのおっさんとウィリアムが居れば倒せるんだろうけど……)


 しかしながら避難をしなくても良いという結果にはならない。

 相手が5m近くもある巨体なら、近くの一般人がとばっちりで死んでしまっても文句が言えないのだ。


「エンテ君、君はブランドンさんの奥さんと娘さんの誘導に回ってくれ!急いでッ!」

「う、うっす!」


 避難誘導をしていたエンテに指示を出したのは、衛兵の中でも隊長格の中年の男性だ。

 何やら妙に焦った様子で指示され、エンテは驚きつつも頷きブランドンの家の方へ走り出す。


(なんでブランドンのおっさんの家族だけを名指しに……?)


 ブランドンの家周囲の人を誘導、ならまだ意味は分かる。

 けれど、さきほどの隊長格の人が言ったのはブランドンの家族“だけ”だ。

 まるでブランドンの家族に何かあったら、一般人がどれほど死ぬことより不味いことが起きるとでもいうのだろうか、とエンテは考える。


(……なんか嫌な予感がする)


 齢16歳にして完成された肉体を全力で稼働させ、エンテは急いでブランドンの家族の元へ急ぐ。


「ネリアさんッ!」

「……エンテ君!」


 大人顔負けの速度でブランドンの家にたどり着いたエンテは、外に出て心配そうに禍族を見上げるネリアを見つける。

 急ぎ駆け寄ると、息が荒いことすら気にせずネリアに避難することを勧めた。


「ネリアさん、批難を!」

「……えぇ、分かっているわ。でもそれより前にエンテ君かウィリアム君に伝えたくて」


 この時間が限られた状況で何を伝えるのだろうかと首を傾げるエンテ。

 しかし、その後語られた真実に徐々にエンテは表情を硬くしていったのだった。





「ブランドンさんッ!」

「らぁッ!!」


 禍族と戦うブランドンの元へ辿り着いたウィリアムが見たのは、以前と同じ表情のブランドンだ。

 ――いや、あれよりも酷い。


(まるで、羊みたいだ)


 ガタガタと震える身体を押さえつけ、脳に焼き付いた恐怖を取り除かんと必死に狂う羊の姿。

 それが今のブランドンだった。


 村の近くで出現した禍族のときはまだここまで狂ってはいなかったはずだと、ウィリアムは思い返す。

 以前と何が違うのか……そう考えたウィリアムの脳はすぐに原因に行き着く。


(家族、その存在か)


 狂う原因が掴みかけたウィリアム。

 だがその鼓膜にブランドンの叫びが聞こえた。


「がッ……!」


 思考を切り捨て現実に戻れば、戦っているブランドンの腹に禍族の巨大な腕が直撃する姿を目に映る。

 衝撃波さえ生み出しながら吹き飛ばされるブランドンに、ウィリアムは慌ててクッションになろうと受け止める姿勢になった。


「ぐっ!」


 凄まじい速度のブランドンがぶつかり、あまりの重たさに呻きながらも超強化された肉体でウィリアムは勢いを殺す。

 どうやら受け止めきれたようだと安堵したウィリアムは、けれど受け止めたブランドンの体に力が入っていないことに気付く。


「ブランドンさんッ!?」

「…………」


 まるで反応しないブランドン。

 だが、呼吸はしているようで静かに体を上下しているのがわかった。

 とりあえず大事には至っていないようで安堵したウィリアムは、気を失ったブランドンを床に寝かす。


「……ブランドンさん。貴方がどれだけ苦しい思いをしたのか、それは俺には分からない」


 異様な禍族への“恐れ”。

 その恐れから生まれた鬼のような狂気。

 今回は、周りに家族が居ることで更に“恐れ”が増えたかのようにウィリアムは思えた。


 ウィリアムはそっとブランドンの右手を握る。

 右手に在る、その“印”を。


「でも、一つだけ分かることが在ります」


 ウィリアムの中には、常に優しく器の広いブランドンの姿があった。

 人々の『騎士』として、人々の『英雄』としてあれ程の人格者はまずいないだろうと、そう思えるほど。

 ――優しすぎて、器が広すぎたのである。


 だから、ウィリアムには分かった。


「貴方は『騎士』に成るべきではなかった」

「あぁ、俺もそう思うぜ」

「――――」


 だから、不意にブランドンの右手から発せられる声にウィリアムは即座に対応できなかった。


 あぁだが、ウィリアムの脳はそれを簡単に処理してウィリアム自身にこう伝える――


「――貴方は、『赤の騎士の力』……そうですね?」

「おおよ、良く分かったな“素質ある者”」


 “素質”。

 それが意味することは、きっと『七色の騎士(セブンスナイト)』のことなのだろう。

 “巫女様”から教わっていたウィリアムには、それがすぐに分かった。


「どうして貴方が俺に?」

「ちょいと見せてやろうかと思ってな」


 ニヤついた顔が脳内に思い浮かぶような声色で、『赤の騎士の力』は話し……急激にブランドンの右手が赤色に光りはじめる。

 ウィリアムの視界全てが赤色に染まる時、『赤の騎士の力』はこう締め括った。


「“我が宿り主”の記憶って奴を」

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