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セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―  作者: 清弥
1章 ―力求める破壊の赤―
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望んだ力を叶える能力

「おーし。つうことで緑の小僧、お前の『騎士』としての特訓始めるぞ」

「お願いします」


 ウィリアムたちがエレノアに来てから二日目。

 その日は朝早くから起こされ、街にある訓練場にブランドンとウィリアムは来ていた。


 どうやらエンテは別の人……この街の衛兵が行う訓練に付き合う形となっているようで、ウィリアムとは別行動をしている。

 また、『騎士』が訓練するため何が起こるか分からないので、訓練場はウィリアムとブランドン以外誰も居ない。

 下手に『騎士』が本気を出したら訓練場自体が崩壊しかねないから、当然と言えば当然だろう。


「ま、『騎士』っつっても基本は普通の人間と変わらない。結局、自分の肉体が全てだからな」


 ブランドンもウィリアムも『騎士』ではあるが、扱う武器は大剣と大楯だ。

 逆に普通の人とは違い、状況に適した得物を選べないという点ではこちらの方が不利だと言える。


 その武器を扱うのは超強化されたとはいえ、ただの肉体。

 扱う本人が使用法を誤ればどれほど強くても簡単に死ぬし、向ける相手を誤れば味方でさえも殺してしまう。

 あくまで『騎士』というのは扱う武器であり、自意識で勝手に動く存在ではないのである。


「んでもって『騎士』の肉体の強化っていうのは、元あった肉体に応じて強化量が変わる……そこまで分かるな?」

「はい」


 もう少し分かりやすく説明するならば、『騎士』の肉体の強化は“足し算”ではなく“掛け算”だということだ。

 元々の肉体にある一定の分だけ“足す”のではなく、元々の肉体の力を何倍かに増やしているのである。

 つまりは元々の肉体が強ければ強いほど、『騎士』の強化の恩恵も十二分に得られるのだ。


「そこまで分かってるなら、訓練の内容もわかるだろ?一つは肉体を鍛えることだ」

「えぇ、俺もそこまでは想像できてます」


 けど、とウィリアムは周りを見渡す。

 『騎士の力』はそれぞれの得物……つまりは風之守護(ウィリクス)火之殺戮(ファルガ)を展開しない限り発動しない。

 つまりは素の状態のウィリアムやブランドンは、ただの一般人程の能力なのだ。


 だから、何故体を鍛えるのにわざわざ訓練場を貸し切ったのか、ウィリアムに何か他に理由があるようにしか思えないのである。


「一つ、ということはまだあるんですよね?『騎士の力』を行使しないと出来ないような訓練が」

「そうだ。体を鍛えるのも大事だが……『騎士』にとって最も重要なことをお前に教える」


 それだけ告げると、ブランドンは“印”がある右手をかざして叫ぶ。


「燃えろ、“火之殺戮(ファルガ)”!」


 火が周りに現れ、右手に集って形を成す。

 燃える火を象った大剣を両手で握り、ブランドンは肩に担いだ。


「今からお前に教えるのは、『騎士』が持つ得物……つまりお前の大楯のような武具の扱い方だ」

「扱い方、ですか?」


 首を傾げるウィリアムに、ブランドンは「そうだ」と頷く。

 だがウィリアムには目の前の大剣が、大剣以上の事を為し得るようには思えない。


「まぁ見てろよ、俺のは比較的判り辛いがお前なら悟れるはずだ」


 笑ってそれだけ言うと、火を象った大剣の刀身をウィリアムから見て後ろ側へ持っていくブランドン。

 いわゆる、大剣を持って走る時の構えだ。


 何をするのだろうと真面目な表情でウィリアムはブランドンを見続ける。


「“火よ、吹き進め(ジェット・オン)”ッ!」


 次の瞬間、ウィリアムの瞳に映ったのは“空を飛ぶ”ブランドンの姿。

 大剣の鍔の部分から火が吹き出し、それを推進力として空を飛んでいるのだ。


「“殺戮よ、伸び裂け(ロングレンジ)”ッ!」


 空を火で飛びながらブランドンが次に行ったのは、大剣の“刀身を伸ばす”ことである。

 2mほどまで伸びた刀身はそのまま振るわれるがままに、ただ空を裂く。


 目を大きく開け固まるウィリアム。

 それを苦笑で見届けながら、ブランドンは火の勢いを緩め地面に着地した。


「“殺戮よ、縮み裂け(ショートレンジ)”」


 最期に、着地したブランドンは2mほどの刀身になった大剣を元通りに戻し“ファルガ”を消す。


「とまぁ、こんな風に得物には必ず二つの能力があるわけだ」

「……ちょっと待ってください、目の前の現実が受け入れられないです」


 流石に現実では在り得ないことにウィリアムは思わず眉を潜めた。

 一般人としては確かに正しい反応なのだろう、だが――


「――『騎士』みたいな存在がまず不可思議そのものだしよ、別に今更気にすることじゃないだろ?」

「…………ぁ」


 長い時間をかけて、“考えるだけ無駄”という結論に収束したウィリアムであった。


「それもそうですね、確かに今更でした」

「おうよ」


 今更気にすることが無いのなら、あとは話を進めるだけだろう。

 別に理論を理解していなくても力が使えれば……もっと言うならば“皆を護れれば”ウィリアムにとって問題ないのだから。


「それでブランドンさん。さっき、“必ず二つの能力がある”と言っていましたよね?」

「あぁ、『騎士』と成るとき俺たちが欲した力によって、扱える能力は変わる」


 ブランドンの扱う能力は“火を噴射する能力”と“刀身の長さを変える能力”で間違いないはずだ。

 しかし、ウィリアムは自身が何の能力を持っているか全く理解していないどころか、欠片も知らない。


(バラム。お前は俺の持つ能力、知ってるのか?)

(……すまん、何故か思い出せん。確かに前は知っていたはずだが)


 『騎士の力』であるバラムならば知っているのではないか、そう考えてバラムに問うウィリアム。

 だが、バラムから返ってきたのは“思い出せない”という言葉だ。

 “知らない”ではなく“思い出せない”のは何故なのか、眉を潜め原因を考えようとしたウィリアムの鼓膜に声が届く。


「とりあず、緑の小僧。お前も試してみろ」

「え?あ、はい。でもブランドンさん、俺は何の能力を持っているか知りませんよ?」


 ブランドンはウィリアムの疑問にすぐさま苦笑いをすると、「俺も初めは知らなかったよ」と答えた。

 初めから知っているという大前提がまず間違っていたことに、ウィリアムは驚きで大きく目を見開く。


「そうなんですか?」

「あぁ。無意識的に判るもんでもないし、誰かが教えてくれる訳でもない……というか、お前“声”が聴こえるならソイツに教えて貰えばいいじゃないか」

「試しましたけど、“思い出せない”らしいです」


 まさか“思い出せない”なんていう間抜けな言葉で返されるとは思っていなかったのか、ブランドンはずっこけ掛ける。

 おっちょこちょいにも程がある、そう思われても仕方がないだろう。


「んじゃまあ、能力探しからだな」

「流石にヒント無しじゃ判らないんじゃ……?」

「お前が望んだ力を叶えるために能力がある。それを頼りに探せ」


 その言葉に、ウィリアムは無意識に“印”のある左手を見つめる。

 盾を中心に風が巻き起こる状態を描かれた“印”に、ウィリアムは自身が何を望んだのかを思い出す。


(全てを護る、力が欲しい)


 全てを護る力、それを叶えるための能力。

 一体それが何なのか、考えても考えてもウィリアムの頭には出てこない。

 ただ、とりあえず試してみないことには始まらないと、ウィリアムは左手をかざして叫んだ。


「舞え、風之守護(ウィリクス)ッ!」


 体中に力が張り巡る感覚と共に、ウィリアムの周りに風が巻き起こる。

 かざした左腕に風が巻き付き、一つの形を成した。


 創り上げられた大楯を構えてウィリアムは思う。

 一体何が自身の願いを叶える能力なのか。

 一体何が全てを護れるという能力なのか。


(例えば、盾が巨大化する……とか)

「何か強く“力”を感じたなら、それがお前の能力だ。良く考えろよ」


 反応なし。

 何かひらめくような感覚も無ければ、盾が大きくなるような雰囲気もウィリアムには感じられない。

 盾を巨大化させる能力ではないらしいと悟る。


(じゃあ風が俺自身を纏うとか)


 これも反応なし。

 風が巻き起こることも無く、ただそよ風が外から流れ込んできただけだ。

 虚しい風だったのは言うまでもないだろう。





 以降、何度も想像しては“力”を感じれず、予想以上に初手から躓いたウィリアム。

 ブランドンはその姿を見ながら、ただ筋トレをしていた。

 未だウィリアムが能力を得るのは先の話になりそうである。

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