エースの奮起
冥王星エースの加賀は苦悩していた。準決勝はのここまで、すずみやあきらにダイヤモンドを何千周もさせられているが、チーム成績はベスト4、前回出場するだけだった甲子園で優勝をも狙えるポジションに来た。
あの二人のような捨て身のマネージャーなど、全国にどこにもいない。昨日はあきらが15人もの選手に辱めを受けながらも、またこの準決勝のベンチに、かろうじてだが立っている。
我々男子部員は、ただただマネージャーに従うだけでここまでやってきた。メンバーの疲れはピークであるが、ここまでくれば、今日、そして明日の決勝を乗り越えるだけだ。
「ここからは俺たちも、何か協力をしなければ」
甲子園優勝、現代においてこれがどれだけの意味を持つか。
女性経営者、女性上司が9割を占めるこの日本で、高校時代でその擬似経験をし、全国優勝ともなれば、将来を約束されたも同然である。
「ここを踏ん張らなくては。すずみ姉さん、あっしはやりますぜ」
加賀はボールを握ると、投球練習を始めた。スパーン、スパーンとミットからいい音がする。ちなみに、この行為に意味はない。
今日の相手は、私立・不死鳥学園。男子校だが、女子マネージャーを立てて試合に挑んでいると聞く。
「大した学園だ、生徒が全部男だというのに、才能のある女子マネを育てているとは」
一回の表。今日の指揮はすずみ姉さんのようだ。あきらさんは少し調子を崩したらしく、奥に引っ込んでいる。
1球目、ストレート、ボール。
2球目、カーブ、ストライク。
3球目、スライダー、ボール。
4球目、ストレート、ファウル。
追い込んだ。すずみ姉さん、頼みます。
「バント?」
いやいやいや、それ、バッターにですから。
「バント?」
いやいやいや
「バント?」
加賀はバントのマネをする。
「ボーク!」
しまった、ランナー一塁。
「ストレート」
いやいや、今更遅いですから。
こんな調子で攻守は噛み合わず、6回までに3ー0で不死鳥学園のリード。指揮の要のあきらはまだ、下を向いてブツブツ言っている。
「タイム!」
加賀はタイムを要求するとすずみのところへ向かった。
「姉さん、ここはあまり指示を出さず、決めた通り行きましょう」
「わかったわ、もうわたしはタブレットをいじらない。よくわからないんですもの」
「そうそう、それでいいんです。バントバントでやっていきます。あきらちゃんの容体は?」
「今日はダメね、慰める時間もないから、放っておくしかないわ」
「3ー0です。バント作戦でいけば十分挽回できます」
「そうね、頼むわ」
加賀はメンバーにバント作戦を口頭で伝えると、すかさず部員はバントを開始した。
3ー1
3ー2
3ー3
ついに同点。バッターは加賀。今度は相手がタイムをとった。
「あの男、あの男を殺りなさい」
「わかりやした、アネゴ!」
不死鳥学園のピッチャーが頷くと、本物ボールを全力で暴投した。
「ダメだ、避けきれない」
気づくと加賀は、もう担架の上に乗っていた。チア部の部員が名前を呼んでいる。
「加賀くん!?」
「し、試合は?」
「安心なさい、継続してる。あなたが頭打っちゃったものだからすずみが泣いちゃっって、おかげであきらちゃんが目を覚ましたの。今は元の二人体制になったわ」
「そうか、この俺でも役に…」
そういうと加賀はガクッとうなだれた。
「あとは頼んだぜ、兄弟」
「試合を放棄したわ」
「ええ、放棄したわね」