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女子マネ甲子園  作者: ふじふじ
8/15

汚れたからだ

しくしく…しくしく…


準決勝、あきらはベンチでさめざめと泣いていた。昨日からずっと泣き止む様子がない。


「そんなに泣くぐらいなら、あの作戦はやめればよかったじゃない」


準々決勝の試合で窮地に陥った冥王星高校、作戦を指揮するあきらは、起死回生をするべく複数点ホームランを狙った。しかし今までの試合の無理な作戦で、少なくともダイヤモンドを10,000周以上回った選手たちにもうすでに体力はなく、ステータスを回復させる必要があった。少なくとも次にダイヤモンドを回る4人。


次の4人は全てすずみの婚約者。既にずすみとは甲子園終了後の結婚の申し込み権までは獲得している。


「すずみさん、お願いするわ、今すぐ」

「お断りします。試合中の婚前交渉は認めません」

「そこをなんとか」

「ダメよ、それをするなら棄権するわ」

「かたいこといわずに」

「ダメよ、絶対イヤ」


9回表ツーアウト満塁。点差は12点。通常であればまだまだ離れた点数である。ここで1発逆転を狙うには、初戦で覚えた複数点ホームランしかない。それはわかっていた。しかしここまででずすみの婚約者は12人、あきらとのデートは7人に膨れ上がっていた。選手の間ではあきらの元気づけは、すずみのそれに比べると重みがないと批判も出ていた。大会期間中にどこまでおあずけが効くのか、いやもう無理である。


意を決したあきらは攻撃の4人を集め、円陣を組むと、言った。


「おっ…」


「ええっ!おおっ!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


選手の雄叫びに驚いたすずみがタブレットを見ると選手たちの気力・体力ゲージが急に上がった。


選手たちには様々なセンサーが体に取り付けられ、興奮状態や体力の回復具合がマネージャーが持っているタブレットで確認することができる。


選手たちはガッツポーズをし、次々にハイタッチをしている。まるで優勝でもしたかのようである。


「あなた、何を選手に」

「言えない、言えないわそんなこと」

「おっぱいでも差し出したの?」

「……」


カキーン!


フィールドには心地よい打球音が、何度も何度も響いていた。


しくしく、しくしく


「で、この有様なわけね」


結果は56対58で、冥王星の辛勝。あきらの捨て身の攻撃が功を奏した恰好となった。しかし、あきらにはもう、そんなドラマティックな勝利などは見えていなかった。最初は次の攻撃の4人だけのはずだった。しかしその後、噂を聞きつけた部員から何人も何人も迫られ、ついには15人もの部員としてしまったあきら。


「あなたにはわからないわ、獣のようなおとこに次々と!…」

「そんなの、今なのか、終わってからなのかの違いに過ぎないわ。たった数日のこと。それに」

「それに?なんだっていうのよ」

「これからの準決勝、決勝で窮地に陥らないとも限らない。その時はどうせ私になってしまうのでしょう?」

「私はもう汚れてしまった」

「え?」

「もういいの、汚れ役は全て私がやるわ!あなたは綺麗な体のままでいればいい。優勝を勝ち取るため、私はもう全てを捧げる覚悟ができた。ありがとう、準々決勝!ありがとう甲子園!」

「あなた、ヤケになってはダメよ。心まで許してしまっては、ズルズルと」

「ふはははははははは、我が青春に悔いなーし」

「ダメだわ、心が侵されてしまっている。準決勝は私が頑張らないと。ええとまず、バントのやり方は」


いままでは野球のことはあきらに任せっきり、自分はアイディアをちょっと出すぐらいで、今でも野球のことはあまりよくわかっていないすずみであったが、ここにきてあきらが壊れてしまった以上、自分の知識で進めるしかなかった。


準決勝、相手は私立・不死鳥フェニックス高校。なんと男子校である。男子校なのに女子マネージャーをどう立てるというのか?


すずみはそんな疑問をいだきつつも、ルールブックを再度確認するのであった。

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