エスカレーション
そう、幼馴染。
あの、「一緒にお風呂」、「お互いのお部屋遊び」、「幼少の頃の洞窟冒険」、「ラッキースケベ」など、数々の取り返しのつかないイベントが盛りだくさんの幼馴染。すずみのようなショートカットで元気な子であっただろうと想像させる容姿の女子であれば、申し分ない。そんな女の子と、ニセとはいえ記憶が共有できるということだ。
「ふふふ、わたしの仲間になれば、一生言ってあげるわよ、幼馴染エピソードを!。恋人のようなこれから作り上げていく関係なんていう、不確定なことではないわ。もうすでに起きているものとして、実績を提供する。そして」
「そして?」
「いまでも「あっくん」(仮名)が好き、シュチュエーションもつけてあげる。わたしと甲子園に行くという約束ができた部員たちにはね!」
あきらは反抗した。
「それでも甲子園優勝を掲げたわたしにはかなわないわよ、恋人と喜ぶ一生の思い出として永遠に残るものよ」
「あらそんなの、わたしだってやるわよ、優勝したら結婚するんですもの!、ずーっと好きだったあっくん(全員)と」
うぉぉぉぉぉ!
すずみ派の部員どもが雄叫びをあげた。
「け、けっこん?。…あなた、たくさんの好きでもない人と結婚するの?」
あきらは初めてショックを受けた。自分は多数ある恋人の中から、「この人ならいいか」という人と結婚するようなこともあるかもしれないとは思っていた。まさか全員と結婚する女がいるとは。高校野球のマネージャーとはここまで覚悟がいるものなのか…。
このまま舌戦では勝負がつかない。それに下手すると公約のハードルがどんどん上がってしまう。行くところまで行ってしまったら、今すぐエッチなことをしなければならなくなってしまうかもしれない。
「わ、わかったわ。わたしの恋人契約と、あなたの幼馴染契約、どっちが優れているか、選挙日に勝負よ」
「のぞむところよ、あたしのあっくんが絶対推薦してくれるんだから!」
「まずい、まずいわ」
すずみは勢いで言ってしまった結婚について考えていた。一回戦負けした我が校がいきなり甲子園優勝することは考えにくいが、複数人と結婚する公約を掲げてしまった以上、優勝した場合、法律を曲げるしかない。今の女子マネ高校野球の優勝商品からすればできないことではない。できないことではないが、これからの人生を多数の夫と過ごさなければならない事態にもし、なったら。いや、考えるのはやめよう。女子マネージャを獲得すればどうとでもなることだし、いざとなったらすぐ離婚してもいい。いきなり十代でバツ十とかになってしまうが、そうなったとしても、「甲子園優勝女子マネージャ」の実績はゆるぎない。
「まずい、まずいわ」
あきらは生まれて初めて負けそうになった。口先三寸では絶対負けないつもりが、並々ならぬ覚悟で迫ってきた相手と対するのは今回が初めてだった。自分より強いカードを切ってくる相手など今まではいなかったのだ。口で負けたことなどない。しかし今回は、負けそうになった。いや、事実上負けたと言っていい。最後の最後に幼馴染になりきっていた名取すずみは異常である。あんな異常者がたくさんいるような甲子園で自分は戦っていけるのか。
いや、そんな弱気になってどうする。高校階級の一番上に立つことは入学時に決めていたことだ。今はそれに向かってやるだけだ。
すべては一週間後、一週間後の女子マネージャの選挙日までにかかっている。
選挙委員への立候補表明では、すずみとあきら、あと数名がいるが。事実上、野球部の同意を二分している二人の争いとなるであろう。
決戦は4月末のゴールデンウィーク前の全校集会。
すべてはそこで決まる。
いや、そこで決まるはずであったのだが…。




