決勝戦その3
「このままではまずいわ」
すずみが言った。珍しく試合の進行度合いについて疑問があるらしい。ここ甲子園ですずみも成長したということだろうか。
「めずらしいわね、すずみさんが試合について何かコメントするなんて」
「私が読んでた本によると、甲子園では’感動’が必要らしいわよ。みてこのグダグダな状態」
たしかに6回表終わって双方ともランナーゼロ、見事な投手戦といえばスコア上はそうかもしれないが、実際はチート持ち投手と打てない初心者連中という、恐ろしく見掛け倒しで中身のなかった帝国学園。投手でこちらを圧倒したかと思えば、打者はからきしである。
かといって我々冥王星学高校も、あのチート投手を打てる気配すらない。
すずみは自らをお茶の間と化し、試合を冷静に分析して、このままではチャンネルを変えられると危惧したのである。お茶の間の視聴者を釘付けにしなければ。
すずみは持論を展開した。
「女子マネージャーとは…あらゆる学園階級の頂点。そして甲子園はそのトップを争う場…野球ごっこのようなお遊びをしていいところではないわ」
「さすがすずみさん、原点に立ち返るというわけね」
「そうよあきら、そもそも何が問題か、そこから考えなければ、事態の打開は計れないわ」
「で、なにかわかったというの?すずみさん」
「ええ」
「どんなこと?」
「主導権。それが足りないわ。私たちは今からこの試合のイニシアチブを握るわ!、どんな方法を使ってもね」
「すずみさん、まさか」
「そうよ、あきら」
「そ、それは…」
「布面積よ!」
まさに捨て身の作戦。かつて冥王星内でマネージャー合戦を繰り広げていた時、すずみがチア部に外注して行った作戦である。
「ふぅ、今日はあついわねぇ」
夏の甲子園で白々しいセリフとともに、すずみは突然ユニフォームを脱ぎだした。中はタンプトップブラとホットパンツである。
「ぶっ」
チート持ち投手はすずみの18歳の艶かしい体を見ると、ステータスを大きく下げた。投球は大きくそれた。
「ふふふっ、この調子ね」
すずみは、ベンチの柵に足をかけて胸を突き出してメガホンを取ると、帝国学園ピッチャーの一ノ瀬に向かって言った
「ゆるーいの投げてくれたら、あたし、あなたのこと考えてあげてもいいわ」
「えっ」
投球はど真ん中にゆるーいのが行った。
「バント!」
あきらはすかさず指示。
こいーん!
両チーム、初めての走者が一塁に出塁した。
「あとはあきら、頼むわね」
「わかってるわ、すずみさん」
ランナーを許した帝国のナオミはピッチャーに怒声を送った。
「何やってるの、しっかりして、あんな女に騙されちゃダメ。あなたはストイックな投手ってキャラなんだから!」
気を取り直したピッチャーはまた例のチートモーション…。
その間に走者は悠然と盗塁。見送ると投球はボール!
しまった。こんどはクイックで。
クイックだと一ノ瀬のボールは普通である。
「バント!」
こいーん!
ランナーは一塁三塁。
「ターイム」
帝国・ナオミはタイムを取ると、ピッチャーに言った。
「何やってるの!ランナーは気にしないで!あなたは私のいうことだけ聞いてればイイのよ」
「いや、俺普通に野球したいっすから」
何なのこの普通の反応は?しまった、そういえばこの男は能力と引き換えに忠誠度が低いのだった。ちゃんとした野球セオリーで説明するか。それとも…。
「あ、ああああ、あんな女のど、どこがイイわけ?あたしだって色々考えてるわ。これが終わったらあんたとちゅー…」
ナオミは女としての対抗意識を高める方に転んだ。さらに目の前でユニフォームのボタンを外すと…。
「は、はいっ、アネさん、仰せの通りに!」
結果、正しかった。やはり普通の野球スカウトに行かず高校野球を選んだ男はどこかに欠点があるのだ。
しかし色仕掛けに卓越した冥王星高校は
「あきら、大事なのは布面積。あんなウブな女に主導権を渡しちゃダメよ」
「ええ、わかってる。バッターにスクイズを教えてくるわ」
あきらはユニフォームを脱ぐと、すずみと同様、スポーツタンクトップとホットパンツになって、バッターに体を絡め、手取り足取りバントを教えるふりをした。そしてピッチャーを見ると
「ん?あなた、やってほしい?バ・ン・ト」
帝国ピッチャー、一ノ瀬のステータスはめちゃくちゃに。かろうじて投げたボールはど真ん中に。
こいーん。
スクイズ!
冥王星の先制!色仕掛けで元気になる技術に長けた冥王星の野球は急に活気付く。お茶の間も女子マネージャーに釘付けとなり、主導権は冥王星のものになった。




