マネージャー
「あーっはっはっは、複数点ホームラン、複数点よ〜」
狂ったように叫ぶあきらをすずみは一生懸命静止していた。あきらは目をさますとタブレットを叩き壊し、ずっと同じことを叫んでいる。
加賀が倒れ涙目のすずみだったが、そんなこと言ってられない。
「あきら、あきら、もう無理なのよ。あなたがタブレット壊しちゃったから、作戦変更はできないわ」
「なんですって?あたしの!あたしの甲子園は!?」
ダメだ。自分が泣いたりするからあきらの心のへんなトリガーを引いてしまった。こんど自分が心折れたらどうなるかわからない。強くならなければいけないのだ。
すずみはグッと、胸に手を押し当てると。これ以上涙を流さないと誓った。
スコアは6ー3、相手は堅実なピッチングで攻めてくる。こちらが作戦変更できない以上、何か相手のウィークポイントを見つけるしかない。
バント、バント、バント
見えてこない。相手はマネージャーはわざと聞こえるようにメガホンをこちらに向けて叫んだ。
「おーっほっほ。あなたたち、バントしかできないのね。馬鹿の一つ覚え。バントバントバント。こちらは、ボール球で釣るだけよ」
バント、バント、バント
見えてこない。相手マネージャーの取る戦術は隙がなく、どんどんスコアが離されていく。
7-3
9-4
11-5
4点、5点、6点。ついに試合は9回の表。このままでは次の裏に大量得点を取らない限り、冥王星高校は準決勝敗退である。
残されるのは、心が壊れた2年生と、18歳にして大量の婚約者を抱えた結婚詐欺犯。
「ど、どうしよう」
すずみはオロオロし始めたが、もう、どうしようもないのである。
「おほほほ、もうおわりね。部員を手玉に取って今までやってきたらしいけど、万策も尽きたようね」
不死鳥高校のマネージャーは高笑いをした。
「手玉…」
あきらが言った。
「今の相手マネージャーの発言。手玉…のところ、再生して、すずみさん」
「えっ?」
突然我に返ったあきらにおどろいたが、すずみは審判に全方向カメラのビデオ判定の依頼をすると、先ほどのマネージャーの発言を再生した。
ビデオがシュルシュル言う。
「!@#$%…部員を手玉に今まで…%$#@!」
「間違いない」
「何が?」
「あれは男よ」
まさか!神聖なる野球場に男子マネージャーなんて!すずみは耳を疑った。
「あきら、どういうこと?」
「ほら、あの’手玉’のセリフ時、あのマネージャー」
「確かに、こ、股間に手を当ててるわ」
「あんな動作、女はしない。最後の最後にボロを出したわね」
「あなた、わざと狂ったふりを」
「相手のマネージャーが調子に乗るのを待っていたわ。もし相手マネージャーが男子だとわかれば…」
「私たちの勝ち…!でもどうやって…このビデオ判定を証拠に?」
「それでは不十分ね、決定的な証拠がなければ!…ピッチャー交代!」
あきらはそう告げると、ライトの名手’レイザービーム’横田をピッチャーにした。
「いいこと?牽制球のふりをして、あのマネージャーの前が開くところを狙って、股間めがけて本物ボールを投げるのよ」
「あきらさん。あなたのおっぱい、一生忘れません!」
「いいからそれはもう忘れて。あなた、すずみさんの婚約者なんでしょう?」
「わかりました!あきらさん、仰の通りに」
1球目、振り被るふりをして、牽制球!
ドカーン。ボールは一塁側ベンチにものすごい音を立てて飛び込んだ。
「本物…どこ投げてるのよ!、ヘボピッチャー!」
不死鳥高校のマネージャーはおもわず前に飛び出して、悪態をついている。
「チャンス」
2球目、走者はいないが一塁へ牽制球。ボールは一直線にマネージャーの股間めがけて…
「パシッ」
わかってないファーストの田口がボールをキャッチする。
「何やってるの!何やってるの!」
あきらは激昂しながらファーストを罵った。
「落ちついて、あきら、いい感じにカモフラージュになっているわ」
不死鳥高校のマネージャーはもう、ベンチの柵に足をかけて、指示を出している。
3球目、全力で投げた牽制球は一塁の田口を超え、相手マネージャーの股間に…
「パシッ」
なんと相手選手がベンチを飛び出てグラブを差し出し、マネージャーの股間の前でキャッチ。ニヤける相手選手。
気づかれた。
もうこうなったらベンチの指示は一つ、あきらとすずみは声をそろえて言った。
「あのマネージャーのスラックスを下せぇぇぇぇ!」
わあああああああ!
ナインとベンチの選手が一斉になだれ込んだ。逃げる不死鳥高校マネージャーを執拗に追いかける冥王星ナイン。
乱闘の末、トランクス一枚にされた、相手マネージャー。完全に男だとばれてしまった。
主審が、判定を告げる。
「えー、乱闘を仕掛けた冥王星ナインも悪いですが、”神聖なる球場”に男子マネージャーを仕立てた不死鳥学園は、球場を汚したとして、この勝負、冥王星高校の不戦勝とします!」
「やったぁ!決勝よ!」
あきらとすずみはハイタッチ。
決戦は、明日。
決勝の相手は、全国一の実力を持つ、私立・帝国学園である。




