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(新装)神様、ありがとう、僕に友達(?)をくれて♪

日も傾き夕焼けが眩しくも綺麗な夕暮れ時、終に俺は遠くに町の姿を望む分かれ道へと辿りついた。

・・・やったぜ、俺!

 未だかなりの距離が在る為にその姿ははっきりとは見えないが、遠く離れた距離から見る事ができる姿から、目指す町の規模が想像以上に大きい事を知る。

・・・よしっ、今度こそ本当に迷子から脱却だ!

 やっと目的通りに人里に辿りつける事に安心した所為か、これまでの疲労がどっと沸き上がってくる。

 その疲れの影響か、背負っていた戦利品で一杯の荷物袋が少し煩わしく感じられた。

・・・これで俺自身が恰幅の良いイケてるヒゲ姿の好好爺サンタさんとかだったら、まだ様になっているのだろうが、これじゃ、『砂男サンドマン』だよな……。

 出身地的には海を挟んでの隣国同志の両者であるが、寝ている間に贈り物をくれる聖人と、眠らない子供に眠りをくれる怪人とでは大きな違いである。

・・・寧ろ、「眠りを与える」より「眠りを与えられる」方になりたいです。神様、早く落ち着いた場所でゆっくり眠らせてください……(冗談抜きで、否、マジで)

 疲労の所為か妙な事を考え始める自分の姿に苦笑しつつ、俺は大人しく先を目指して歩みを続けた。

 しかし、一歩また一歩と歩くたびに、背負った袋にたいする煩わしさが増していく。

【問題解決の為に必要なスキルを発掘しますか?】

「っ!?」

 突如と聞こえた『天の声』さんの言葉に、俺は驚いて一瞬だけ硬直する。

【問題解決の為に必要なスキルを発掘しますか?】

・・・はい、お願いします。

 再び繰り返すように告げられる『天の声』さんの助け船に、俺は迷わず乗る事を選んだ。

【では、お尋ねします。今、貴方を取り巻く状況に於ける問題を解決する一番良い手段とは如何なるモノでしょうか?】

・・・うーん、荷物を重荷と感じなくなる程のタフ・ガイになること? ……違いますね。

 それだと『煩わしく感じなくなる』だけで『煩わしくなくなる』訳ではなかった。

・・・とすると、一番に理想的なのはこの荷物自身の存在が無くなる事ですね。しかし、それは物理的に難しそうなので、所謂、『背嚢』みたいに肩に掛けて背負うことによって、身体的な煩わしさが無くなるというのが、今の時点で望める理想でしょうか。

 祖父の教えとして、『武士たる者、いつ何時でも戦えるように腕は空けておく』という一つの心掛けが伝えられいる様に、実際、いつ何時、危険が起こるか分からない今の旅路では、両手が塞がっている状況を改善できるに越した事はないのである。

【了解を致しました。では、その理想とする『道具袋』の具体的な姿を想像してみてください】

・・・背嚢…、背嚢……、……駄目だ、映像とかで見たことはありますが、具体的に実際の姿をイメージ出来るほどに造詣が深くありません……。

 行楽用のリュックサックでも良いような気がするが、如何せん生前は十数年来の引き篭もり基完全インドア派だったので、それすら具体的に想像する事が出来なかった。

・・・背負う物、荷物袋、荷物袋……。

『お前は、生まれた時はとても大きな児だったから、背負って散歩するのも一苦労だったよ』

 必死に想像を巡らす俺の脳裏に浮かんだのは、何故か幼い頃の俺をあやした思い出話を楽しそうに語ってくれた祖母の言葉である。

・・・その節は、大変ご苦労をお掛けいたしました。

 とは言っても、細身に反して結構な力持ちだった祖母は、買い物とかの際にも重いはずの荷物を軽々と持ち運ぶ女傑であった。

 散歩に連れて行ってもらっては、すぐに疲れて駄々をこねた俺を、困ったように笑って背負ってくれた祖母の優しさが懐かしさと共に蘇る。

【おめでとうございます。スキル発掘により、《ユニークスキル・名匠の荷物袋》を獲得しました】

・・・ありがとうございます。俺、おめ! (パチパチっ!)

 『天の声』さんの声で夢想から現実に引き戻され、その驚きにそれまでの極度の疲労も加わり異常な興奮状態で浮かれる俺。

 そして、その興奮も醒めやらぬままに早速の鑑定(ポッチっとな!)


『《名匠の荷物袋》(ユニーク)、細身の身体に反した怪力で知られた女鍛冶師が、より良い素材を求め諸国を行脚した事で生まれた伝説の恩恵による技能。使用者の意思に従い様々なアイテムを出し入れできる空間を生み出す。最大収納数は100種類、最大収納限界量は約15000㌔』


・・・えーと15000㌔ということは……、15㌧ですか! 俺の体重が約50㌔だから、単純計算で約三百人分。伝説の女鍛冶師さんはどれだけ怪力だったのでしょうか。正に「ユニーク(素晴らしい)」なスキルです。

 素晴らしいスキルを得たのは良いが一つ問題があった。

・・・使い方が解りません。

【収納する際には、収納したいアイテムに触れてそれに対する収納の意思を念じてください。逆に収納したアイテムを取り出す際には、荷物袋をイメージすると収納物の一覧が表示されるので、そこから出したい物を選択してください。使用に慣れると対象アイテムをイメージする事で自在に出し入れしたり、任意の場所にそれを出したりする事が出来るようになりますが、触れていない物を収納する事はできません。

収納できる対象物に生物は含まれません。また、この技能を用いて窃盗等の犯罪行為が行われた場合、ペナルティーとしてスキルの使用制限が科されますのでご注意ください】

 『天の声』さんの丁寧な説明を頭の中で反芻しながら、試しに背負っていた荷物袋を意識して収納したいと念じてみる。

 すると、一瞬にして背中に在った重量感と共に袋自体が消えた。

 更に『荷物袋』の姿を想像してみると、消えた荷物袋のみがアイテム欄に表示される。次に欄にある「荷物袋」を意識するとそこに薄色の網模様が掛かったので、出したいと念じてみると足元に荷物袋が現れた。

 今度は、荷物袋の中から出した物を次々に収納していき最後に荷物袋を収納する。

 すると全てのアイテムが縦一覧状態で羅列表示された。

【「武器」、「道具」、「素材」等で収納物の分類を行う事も出来ますので是非活用してください】

・・・うぬぅ、『ソート機能』付きとは、正に至れり尽くせりですね。

 荷物が無くなって身の心もスッキリ状態になった俺は、調子に乗って《荷物袋(ストレージ》の性能を実験してみる事にした。

 道を歩きながら足元にある手頃な大きさの石を見付けると次々に収納していく。

 結果、分かった事。

①対象の大まかな大きさにより、「砂」、「小石」、「石」、「岩」、「大岩」といった感じで種類が分類される。

②各種類の最大収納数は99個迄で、それを超えると新たな種類が1個となって増える。

③99個の物を一度全部取り出した後、2個以上で再び収納すると分割収納が出来、それらを纏めたいと意識して念じると99個を上限に統合される。

④99個になった物を袋に入れて一纏めにすると、「○○×99個×1袋」と表示されて一種類の扱いとなる。

⑤100種類以上を収納しようとすると自動統合が行われ、それでも収納できない場合は警告メッセージが告げられる。

結論 凄いです。最高です。超絶の高スペックです。

・・・しかし、高性能であればこそ、それに対する制約の『犯罪に対するペナルティーとしの使用制限』というのが凄く気になります。

【基本、他者の権利及び権限を侵す行為が対象となります。例えば他者が所有する物を盗む窃盗行為、権威を象徴する重要アイテムの隠蔽・消失による権限の失墜を計る行為等が当て嵌まります】

・・・スキルを用いた良識の無い迷惑行為は止めましょうという事ですか?

【概ねそのような感じです】

・・・しかし、何時聴いても耳に心地よい素敵な渋メンボイスですね。

【ありがとうございます】

・・・あれ、先刻から何か会話が成立してませんか?

【はい、してますね】

・・・えーと、これって通常の仕様なのでしょうか?

【恐らくは《神すらも持て余す奇才》によってもたらされた特殊な事例ですね】

・・・そうですか。では、改めてよろしくお願いします(ぺこり)

 本当は俺が持つ究極のボッチ体質がもたらした憐れな幻聴とかではない事を祈るのであった。




「やっとこさ着いた! 犬のお巡りさん、ありがとぉ~~~!(意味不明)」

 感極まって自分でもワケが解らない事を叫ぶ俺の姿に、門番と思われる二人組の武装兵が奇異な眼差しをくれた。

・・・夜も更け深夜も近い時刻に訳のわからない事を絶叫する異装な旅人風の男なんて、不審人物以外の何者でもありませんね。

「こんにちは、今日はいつもに増して夜空の星が綺麗ですね!」

「……あ、ああ、そうだな。中に入るのか?」

 迷子からの脱却にハイテンションな俺の威勢に半ば引き気味で門衛の一人が尋ねてくる。

「はい、入ります!」

「では、身分証を出せ」

・・・えっ、身分証?

 前世なら運転免許証の一つで事足りる話だが、完全無欠の異世界旅行者である俺にそれを求められても無理な話であった。

・・・事ここに至っては仕方が無い、今こそ『アレ』を使う時だ!

「『身分証』って……、何ですか?」

 俺は三十六ある秘技のうちの一つ、「知らない振り」を行使した。

 この技は、微妙に小首を傾げつつ、一切の隙が無い真顔で使う事で最大の効果を生み出すのである。

「持っていないのか?」

「はい、済みません。持っていません」

 ここで「持っていたが無くしました」と言うと、後で色々と誤魔化す必要が生じた場合に問題が生じる可能性があるので、飽くまでシンプルな答えを返した。

「分かった。では、これに触れろ」

 そう言って門衛が取り出したのは、直径が10cmくらいの水晶玉(?)だった。

 それが何なのかを鑑定しようと一瞬考えるが、余り変な行動を取ると反って怪しまれると思い直し素直に従う事にした。

・・・最悪、問題が生じたら秘技の一つである「脱兎の如く逃げる」で逃走すれば良いだけだしね。

 冗談はさて置き、平然とした態度で門衛が差し出す形になっている水晶玉(?)に掌で触れる。

・・・何も変化がありません。取り敢えず一安心して良いのでしょうか?

「良し、犯罪歴がある者ではないな。では、通行料として1レイ銀を貰おう」

・・・『レイギン』? 『礼金』じゃなく『レイ銀』ですよね?

 多分、貨幣の単位の事だとは思うが、異界人である身元バレを防ぐ為に、それをリフィナ達に訊きそびれた身の上の俺は一瞬だけ困惑する。

「どうした、払わないと中には入れられないぞ」

「……済みません、持ち合わせが無いので、現物でも大丈夫でしょうか?」

 一応、懐にはサリーシェ達から受け取った魔石の謝礼金があるが、俺みたいな怪しい風体の人間がいきなり金貨とか出したら、怪しまれる可能性が大である。

 ここは一か八かで現物で誤魔化せないか試してみる事にした。

「ああ、それだけの価値がある物なら構わないが、その場合、換金の手数料として多少の割高になるが良いか?」

「ええ、勿論です。では、これでお願いします」

 俺は、懐から取り出す振りをして《荷物袋》から、一番大きな魔石を取り出し門衛へと手渡した。

「っ……!」

 渡された魔石を確認して一瞬ギョッとした門衛は、更にマジマジとそれを観察すると困惑気味に苦笑した。

「流れの冒険者だったら最初からそう言ってくれ。そうすればお互いに無駄な手間を取る必要も無いモノを……。分かったから、通って良い。もう夜が更けているから仕方が無いが、明日の内にはギルドで正式登録をし、身分証を手に入れる様にな」

「お手数を掛けて済みませんでした。では、お仕事がんばってください」

 門衛が告げる言葉の意味を計りかねながらも、俺は返された魔石を受け取り、謝罪と労いの言葉を返して門を通り抜ける。

 しかし、通行料が免除された上に『冒険者』という有益な情報を得られた事はかなりの幸運だった。

・・・神様、ご先祖の皆様、ついでに女神(?)様、ありがとうございます。

 異世界(?)に迷子同然となった時は、元凶の女神(?)を多少は恨んだモノだが、こうして無事に人里へと辿り着けた今なら、それも許す事が出来る心の広い俺だった。

「よし、取り敢えずご飯だ。『天の声』サンお勧めの食事処を教えてください」

【本日の業務は終了いたしました。尚、危機的事態の際には対応いたしますので、それまでは自力での隠れ家的憩いの場の探索をお勧めいたします】

・・・それって、餓死寸前レベルまで放置しますという宣言ですよね?

【本日の業務は終了いたしました】

・・・済みません。お疲れさまでした。

 『親しき仲にも礼儀あり』である。

 何でもかんでも他者ヒト任せにして甘えてはいけませんね。反省、反省。

 という事で、俺は自力で美味しいご飯を食べる為に行動するのであった。


 美味しいご飯を求めて彷徨さすらう事暫し、結果、俺は諦める事にしました。

 その理由は、異世界(?)に夜遅くまで営業しているお食事処など存在しないからです。

 俺は大人しく本日泊まる宿屋を探す事にしました。




 深夜に数多く出没する野良生物の『酔っ払い』に絡まれるのを避けるべく、目抜きの通りを一つずれた裏道を歩く俺は、直ぐに自分好みのちょっと寂びれた感じがする宿屋を見付け、その入口に吊るされた細い木を組んで作られたすだれに似た暖簾のれん(?)を潜り中に入る。

「こんばんはぁ~! どなたかいますかぁ~!」

 大小合わせて10卓のテーブルが並ぶ食堂風の造りの屋内は無人状態だったので、俺はその奥にある調理場に向け声を掛けた。

「はーい、いらっしゃい。食事だったら終わりましたよ」

「やっぱりそうですよね(しょんぼり)」

 俺の呼びかけに応えて出てきたのは、『宿屋の女将』というより『食堂のおばちゃん』という言葉が似合う、一昔前はそれなりの美人であったかもしれない恰幅の良い三十代半ばくらいの女性だった。

「自分一人だけなのですが宿屋の部屋の方はまだ空いてますか? それと何処かまともな食事ができる所も教えて貰えるとありがたいのですが……」

「泊まりの方はちょっと待ってて貰えるならすぐに準備できますが、、食事の方はこの時間だともう何処もやってないでしょうね」

「分かりました。一泊の代金はどれくらいですか?」

「明日の昼発ち朝食込みで3千5百イリルになります。夜明け発ちの朝食抜きなら3千イリルになりますがどうしますか?」

「連泊は出来ますか?」

「ええ、勿論大歓迎ですよ。一泊昼入り昼発ち朝夕二食付きで4千イリルですが、7日単位で泊まっていただけるなら7泊2万5千イリルで結構です」

「では、7泊でお願いします」

 俺はそう告げると懐に手を入れ、そこから金貨3枚を掴んで女将さんへと手渡す。

「あと済みませんがお釣りの内の千イリル分は、適当に全種類の貨幣が入るように細かくしてください」

 サリーシェと交わした遣り取りから俺の現所持金は30万イリルで、『レイ金貨』と呼ばれる金貨が30枚あるから、1レイ金貨は1万イリルである。

 後はお釣りとして貰った分の各枚数から、それぞれの貨幣の価値が分かるはずである。

「はい、分かりました。じゃ、ちょっと待っててくださいな」

 女将さんは、俺の面倒な頼みにも嫌な顔をせず、にこやかに笑って応えると、食堂と調理場の境にある接客台へと向かった。

 そんな女将さんを視線で追った先で、俺はちっこい生き物の存在に気が付く。

 それは食堂と調理場の境にある柱の陰に身体を隠し、頭だけを出してこちらを見詰めてる10才にも満たないくらいの小さな女の子だった。

 真剣ともいえる眼差しでマジマジと見詰めてくる少女の視線に、俺は森で野生動物に出くわした時の緊張感に似たモノを覚える。

・・・野山で野生動物に出会った時の基本的な対処法は、『刺激しない』だったな。

 俺は、そのセオリーに則り、取り敢えず少女と視線を交わしたまま後ろへと数歩下がる。

 その動きに反応して一瞬ビクッとした少女は、完全に柱の陰に身体を隠した。

・・・うぬぅ、怯えさせたか?

 自らの失策を懸念する俺の視線に、少女が再び頭だけを出す姿が映る。

 ネタアイテムとしてヌイグルミの一つでも持っていれば、三十六の秘技の内の一つ『エセ腹話術』でそのハートを鷲掴みに出来るのだが、無い物ねだりをする訳にも行かなかった。

・・・事ここに至っては致し方なし、我が最終奥義を使うしかあるまい。

『(にっこり)&(ぺこり)』

 俺は、自分が最も得意とするスルースキル『笑って誤魔化す(目礼バージョン)』でこの場を凌ぐ事にした。

「こんばんは(ぺこり)」

・・・おお、予想外の効果アリ?

 少女は俺の微妙な笑顔に対し、挨拶の言葉と共にあどけない笑顔でお辞儀を返してくれた。

 こうして俺は少女とのファーストコンタクトを無事に(?)果たしたのだった。

「お待たせしました」

 お釣りの用意を済ませた女将さんが俺に声を掛ける。

 俺は女将さんが差し出す木製の皿に載せられたお釣りの貨幣を皿ごと受け取った。

 その枚数を種類ごとに確かめる。

・銀貨×4枚

・大銅貨×9枚

・中銅貨×9枚

・小銅貨×10枚

 貨幣自体は全て金属製の硬貨であり、同じ素材のモノは大きさで区別されているようであった。

 それぞれの硬貨には、精緻とは言えないまでも精巧な紋章に似た模様が描かれていた。

「レイアスト銀貨が4枚、レイアスト銅貨が9枚、アリシスト銅貨が9枚、イリル銅貨が10枚の5千イリルにしましたが、それでよろしいですか?」

「はい、ありがとうございます」

 手間を厭わず更に気遣いをしてくれる女将さんに感謝の言葉を告げ、俺はお釣りの硬貨を掌に移し木皿を返した。

 今回の両替によって分かったこの世界における貨幣価値は次の通りである。

・1レイアスト金貨=10000イリル

・1レイアスト銀貨=1000イリル

・1レイアスト銅貨=100イリル

・1アリシスト銅貨=10イリル

・1イリル銅貨=1イリル

・今現在確認できる限りでは『十進法』に従い貨幣価値が移行する。

(おまけ)この世界では各貨幣の名称を短縮化する為に、例えばレイアスト金貨なら『レイ金』と略す風習がある。

・・・凄く分かり易い貨幣制度です。後、前世で俺が暮らしていた国と同様かそれ以上に最低価値硬貨の造幣コストが高そうです。


「それではお部屋の準備をしてきますね」

 女将さんはそう俺に告げると宿泊部屋があるのであろう二階へと階段を上って行った。

「ねぇーねぇー、お兄ちゃんは冒険者なの?」

 何時の間にか俺の傍らに来ていた少女が妙にキラキラした眼差しを向けて尋ねてくる。

「お兄ちゃん」という単語に俺は微妙な違和感を覚えるが、転生時に自分の年齢が19才に変更されていた事を思い出し納得した。

「否、正確に言うと冒険者ではないかな。世界を旅する侍だよ」

「『サムライ』ってなぁに?」

 侍という聞き慣れない言葉を聴き、少女は小首を傾げる。

 少女から投げかけられた当然の質問に、俺は少しだけ考え込んで答える。

「侍とは、困っている者を助ける為に戦う誇り高く勇敢な戦士だよ」

 それは物語の中に登場する幻想の侍の姿かもしれない。

 俺が生きた前世の歴史に於いて、侍或いは武士の身分に在った者の全てが正しい生き方をしたとはいえず、中には暴虐非道の行いをした者も確かにいた。

 その務めとして戦場に生きる事を求められ、時には身を置いた争いの中で多くの命を奪いもした。

 でも、俺が本当に知る二人の『侍』は、他者を遥かに凌ぐ程に戦いの術に長けながら、その強さを用いた暴力で他者を虐げる事無く、逆に何処までも穏やかで優しい心根をした好漢という言葉が相応しい存在であった。

 だから俺は、転生の時に女神(?)と交わした誓いを果たす意味も込めて、自らが理想とする侍の姿を答えとして語った。

「おサムライさん、かっこいいです。アーテも大きくなったら、おサムライさんになります」

「ありがとう。でも、侍でなくても人を助ける事は出来るから、もっと多くの事を知ってから答えを出した方が良いよ」

 自らの意思で選んだ事であれ、それが私欲で無く他者の為であれ、何かと戦うという事はそれだけで誰かを傷つけ、そして自分自身も傷つく事になる。

 それを良く知っているからこそ、俺には少女の憧れを諭す事しか出来なかった。


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