(新装)森でウサギに会いました。③
「サカキさん、どうされたのですか?」
リフィナの問い掛けが物想いにふけていた俺を現実に引き戻す。
「否、何でもない」
俺はその言葉の通り問題が無い事を示すように笑って応えると、地面に転がる戦利品を拾い上げた。
「これも君の物だから渡しておこう」
サリーシェの掌から重ねられるようにして先刻の魔石が手渡される。
「他に知っておくべき事としては、倒した敵の魔石と素材は直ぐに回収する事かな。死体状態で長く放置すると魔石や素材が劣化する上に、最悪、死体に死霊が取り付いてアンデット化する可能性がある。まあ、稀にだが態と倒した魔物の死体を放置してアンデット化させ、それによって強化された敵を倒して成長の糧にしたり、レアな魔石を手に入れようと考える輩もいるがな」
色々と思う所があるのか、サリーシェは複雑な表情でそう説明する。
「アンデット化すると敵が強くなるのか?」
「基本、アンデット化を果たした者は、死に対する恐怖を持たない狂化状態になって純粋な戦闘能力が上がる。しかし、知性とかは失われるから、その点で考えれば危険は増すが倒しやすくなるとも言える。だが一度死んでる存在を殺すのは不可能だし、普通の手段では倒す事が困難だ。そういう意味では強敵となる事は間違いないな。それでも態とアンデット化をさせる輩がいるのは、その理由は分からないが同じ魔物でもアンデットする前と後では、倒した際に得られる魂の経験値が大きく違うからだな」
「そういう点では、『異形種』という存在はアンデット化したモノと似ているのかもしれませんね」
リフィナが付け加えた言葉が先刻抱いた俺の『異形種』に対する認識を改めさせ、世界を存在させる理に反する不死の存在に近しい忌むべきモノなのだと再認識させた。
「とすると、俺が倒した残りの魔物達の始末を急がなければならないんじゃないのか?」
「ああ、それに越した事は無いが、アンデット化するのには多少の時間が必要だから、実際そう慌てる事は無い。まあ、油断してると他の誰かに横取りされる可能性はあるが、今回の場合は討伐隊として依頼を受けた者しか戦いに参加していないから、《断罪の審判》を恐れて悪事をする輩もいないだろう」
悠然としてるサリーシェの態度から、急がなくても問題は無いと判断した俺は、今の会話の中で気になった事を尋ねる。
「《断罪の審判》っていうのは何だ?」
「はい、簡単に言うとその言葉が指し示すように人の罪を暴く神聖魔法の一つです。その魔法を掛けられた状態で嘘偽りを口にすると、偽りを以って隠そうとした罪に対し天罰が下ります」
「具体的に言うと、そんな目に会うくらいなら素直に罪を償った方がマシというくらいの苦しみを与えられるな」
・・・と言う事は、この世界に於いては、悪事の隠蔽は極めて困難と言う事か。
リフィナ達の説明を聴いて極めて便利な魔法も在るモノだと感心させられる。
「但し、何事にも抜け道はあって、スキルや魔導器の中にはその効果を無効化するモノもあるから、勧善懲悪とはいかないのが現実だ」
「まあ、世の中そんなモノだな」
それは諦めではなく納得、だが今の俺は、前世で同じ言葉を口にして諦めたモノをこの世界では諦める積もりは無かった。
だから、俺は心の中で更なる言葉を続ける。
「(それが気に入らない、否、受け入れられないなら自らの意思で変えれば良い)」
努力した者が報われず、間違った事が正されなかった世界に絶望し、全てに投げ遣りになり堕落した自分。
『人間の世の事は人間が決めればよい』と嘯いて、『若き隠者』を気取って現実から目を背けた自分。
そして、自ら破滅し独り孤独にその最後の時を迎えた自分。
全ては、自分自身の弱さが招いた結果である。
傷つく事など恐れず、傷ついてもそれに耐えて戦えば良かった
戦わずに逃げて悶死するくらいなら、戦って戦って戦い続けて、無様でも惨めでもいいから自分の戦場で憤死でも戦死でもすれば良かった。
例え畳の上でも最後の最後まで戦い続けて、自らの天寿を迎えた生命があった。
例え志し半ばでも最後まで自らの信念を貫き通して、戦場に燃え尽きた生命があった。
彼らが示した生き方を知りながら、それから逃げ出した自分がいる。
そんな俺を彼らは責める事無く許してくれるだろう。
だから、俺は自分で自分を許さない。
努力した者が報われない世界なら報われるまで努力し続ける。
間違った事が正されない世界なら正されるまで戦い続ける。
絶望に満ちた世界なら自分が誰かの希望となって見せる。
それが多くの苦しみに耐えて努力し、戦い続けた彼らに俺が報いられる唯一の術だから。
『サカキは奢りと誇りが紙一重だからな』
・・・ああ、そうだな。
亡き友の揶揄の言葉が甦り、そして、俺はそれに対し不遜ともいえる笑みで応えた。
俺がこの世界に求めたモノは、『夢』であり、心優しき人達に愛された莫迦で愚直な『本当の自分』を取り戻す事であった。
『勧善懲悪の英雄』、幼き頃に求め、そして俺を救ってくれた存在。
それは物語の中ではなく現実の世界に存在し、そして、その理想は世界に裏切られる形で俺の前から消えて行った。
でも、彼が残した想いの欠片は今も尚、俺の心の中に在り続け、『例え世界が君を裏切ろうとも、君は世界を裏切らないでくれ』と俺を諭すのだろう。
だから俺は何度でもその深き想いに誓うのである。
『貴方が望み夢見た世界、理想郷の夢を俺は貴方の志しと共に受け継ごう』と。
「でも、だからこそ人間には、人間である為に曲げてはならない倫がある。全ての悪が正される訳ではないが、全ての悪が正されない訳でもない。曲がった手段で罪から逃れても、何時か必ずそれが正される時が来るはずだ。その罪が重い悪事であれば、尚更にな」
俺はそう在って欲しいという想いを込めて、目の前にいる二人にそう語った。
それに対しリフィナ達は何も応えなかったが、その表情に浮かべた笑みが全てを物語っていた。
「まあ、そういう事だ。まだ見ぬ悪を云々と考えるよりも今やるべき事をするとしよう」
俺は二人から向けられる眼差しに少しだけ照れ臭いモノを感じて、そう告げると促すように早足で歩きだした。
戦いの跡を辿るように鬼蛇百足の死体の所まで戻った俺は、戦っている最中には気が付かなかったが、反撃として受けた一撃でかなりの距離を弾き飛ばされていた事を知る。
その激しい戦闘を物語る戦場の様子に驚いているサリーシェ達の背後で何者かの気配が蠢く。
それが敵の残党であると気が付いた俺は、咄嗟に腰の同田貫の柄に手を掛けるが、それに先んじて最も敵の近くにいたリフィナが動く。
威嚇と攻撃、その両方の意思を込めて大きく口をあけ牙を剥く蛇百足。
それに対しリフィナは、二歩三歩と跳ねるように前へと躍り出ると、軽やかともいえる身のこなしで腰を捻り、豪快な音を従えた鈍器のフルスイングで迫り来る敵の頭を打ち払った。
見事な一振りで蛇百足を撃退したリフィナの姿に、俺は思わず「ナイスバッチ!」と叫びそうになる。
俺の視線に気が付いてか少し照れたように微笑むリフィナの姿を瞳に映しながら、俺は幼い頃に祖父と祖母が話してくれた『ネコ』のおとぎ話を思い出していた。
それは時には自らの身長と同じくらいに大きな棍棒を振るって戦い、時には道ですれ違う冒険者達を神から与えられた加護の力で支援しながら旅をした『ネコ』の物語だった。
多くの者達が畏怖する存在を「ちゃん」付けで呼んでからかって遊んだり、強大な力を持つ敵をそれと気付かずに倒してしまったり、何故か「イチゴ」を沢山食べると酔っぱらったみたいになてしまう変わった体質を持つ『ネコ』が活躍する物語。
強気なようで淋しがり屋、お茶目で健気、それでいて素直になれない不器用な自分を励まし旅を続けるその姿に、俺は時に笑い、時に泣き、そして何故か励まされた。
そんな懐かしい思い出の欠片を夢想する俺の視線に、リフィナは「どうかしましたか?」と小首を傾げる。
・・・どちらかというと彼女の場合、『猫』というより『兎』に似ているよな。
巨大な鈍器を軽々と振りまわすリフィナの姿に、俺は月でモチを搗く兎のイメージを重ねる。
「いや、リフィナは兎っぽいなと思って」
「「えっ!」」
何気ない俺の返事にリフィナ達は何故かハモッて驚きの声をあげた。
「えっ、兎っぽいなんてそんな……、いきなりこのような所で困りますぅ~」
「サカキ、君は想像以上の……、否、何でもない」
頬を染めてイヤイヤくねくねと照れデレするリフィナと、困惑と感心の眼差しで何かを悟るサリーシェ。
・・・えーと、先ほどの俺の言葉に、何か貴女達の琴線に触れるような要素がありましたか?
二人の反応の意味が全くさっぱり微塵も分からない俺は困って苦笑を浮かべるしかなかった。
俺が先刻口にした言葉が、この世界で深い意味を持つ事を知るのはもう少し先の事である。
「っ!」
自分達を取り巻く微妙な雰囲気をどうするかと思案していた俺は、再び背後に何者かの気配を感じ取る。
一瞬で反転し身構える俺の視線に映ったのは、戦装束に身を包んだ複数の冒険者達であった。
「お前達、無事だったか!」
「おお、サリーシェ、リフィナ、二人ともこんな所にいたのか! こっちも何とか生き残れたが、お前達も無事で良かった」
何者かを問うより先に、サリーシェと彼らが交わす言葉が敵ではない事を教えてくれた。
「あの……、トルスト兄さんは一緒じゃないのですか?」
「……済まないミリアーナ、彼は助からなかった……」
長衣のローブに身を包んだリフィナと同じくらいの年齢をした少女から尋ねられ、苦しそうにサリーシェは自らが知る事実を告げた。
サリーシェの言葉を受け一瞬茫然とした彼女は、次の瞬間、その場に泣き崩れる。
その傍らにいた一人の戦士と思わし青年が彼女へと寄り添い、慰めるようにその背中を抱き締めた。
「彼はその死の間際まで貴方達仲間の身を案じ、最後まで誇り高く在り続けた」
その最期を看取った唯一の者として、俺は彼の最後がいかに高潔であったかを彼の仲間達に告げた。
俺の言葉に冒険者達の視線が集まる。
「彼はサカキ。トルストの最後を看取り、彼の仇を取り、そして彼の最後の願いを聴いて私達を救ってくれた者だ」
俺に代わって仲間達へと説明するサリーシェ。
「そうか、彼の仲間を代表して礼を言おう。ありがとう、サカキ」
一番最初に声を掛けてきた最年長と思われる戦士は、俺に対する礼の言葉を口にすると、加えて自分が討伐隊のリーダーであるフィエリテスだと名乗り残りのメンバーの紹介をする。
互いに交わす挨拶と掛けられた感謝の言葉に俺は、サリーシェに告げたのと同じように礼には及ばないと応えた。
討伐隊の面々が手伝ってくれたお陰で倒した敵の解体も早々と片付いていく。
しかし、最後の残された敵の親玉であった鬼蛇百足の番になって問題が生じた。
鬼蛇百足の身体を包む甲革が硬く文字通り刃が立たないのである。
比較的軟らかい筈である腹の部分ですら突き立てた刃が毀れて切れ味を鈍らせていた。
「俺にやらせてくれ」
黙って見ているのも良くないので俺は一声かけると、鬼蛇百足の腹に同田貫の切っ先を突き立てた。
僅かな抵抗を感じるが問題無く腹の皮を突き破った刃を動かし、深く傷つけないように気を付けながら、更に一尺程斬って穴を広げる。
俺の作業を見守っていたサリーシェ達が「おお!」という歓声にも似た声を上げた。
「よし、後は任せろ」
サリーシェがそう俺に声をかけると、フィエリテスと先ほどミリアーナを気遣っていた戦士のファスが其々に鬼蛇百足の死体を真ん中に置く形で陣取り、俺の開けた腹の穴を手で掴み左右に分かれて引っ張るように広げる。
首を巡らし腹の中を探るように見渡したサリーシェは僅かに頷くと、肩口に至るぐらいまで深く腹の中に腕を突っ込み、気合いの呼吸と共に力を込めて腕を引き抜く。
サリーシェの手に握られ現れたのは、宝石のオパールに似た虹色に近い色を宿した大人の拳大くらいの大きさを持つ魔石だった。
「……すごいっ!」
サリーシェの手にある魔石を見た者達の口か驚愕ともいえる驚きの声が漏れた。
そして、核である魔石を失った鬼蛇百足の死体が灰塵と化した後には、『古成された蛇竜の硬革』という名の結構な大きさを持つ素材だけが残った。
俺は自分の足元近くに転がる形となったそれを両手で拾い上げると、掲げるようにして観察してみる。
一言で表すと渋い色合いをした表面は甲殻のごつごつとした質感を持ち、裏面は皮革の滑らかさを持つ奇妙ともいえる物体だった。
更に多少の力を込めてそれを捻ってみると、プラスチックにも似た硬く丈夫な革の感触を覚える。
その弄り心地から先刻の戦いで、最初の一撃を加えた時に感じた手応えを思い出す。
生前の記憶で言うなら、ゴムタイヤをバットで叩いた時などに感じる重く鈍い感触である。
その記憶が甦ると同時に、とあるストレスから半ば半狂乱でそれを繰り返した記憶までも甦り、俺は再びその若気の至りである記憶を封印する事にした。
「サカキ、不躾な事は分かっているが、無理を承知で君に頼みがある」
記憶の封印の為に精神統一をしていた俺をサリーシェが真剣な表情で見つめる。
精神統一の集中状態から現実に引き戻された俺は、少し乱れる心も隠して平静を装うと視線だけで話の先を促した。
「この魔石を私に譲って欲しい」
「無理を承知で頼むほどに貴重なモノなのか?」
単純な好奇心ともいえる理由で俺はその事を尋ねる
「ああ、普通に考えても高い価値を持つモノだ。そして、今回の討伐依頼を受けた冒険者である私達にとっては、それ以上に特別な価値を持っている」
「特別な価値?」
サリーシェの言葉に興味を覚えた俺は、更にその事を尋ねた。
「この魔石の元である君が倒した魔物は、先刻話した『異形種』であると同時に『希少種』という特別な個体でもある。普通、群れを作る魔物は縄張りの範囲内でしかそれを作らないが、その群れの中に『希少種』が生まれると通常の縄張りを超えた範囲に大きな群れを作る事がある。その中でも『異形種』という特殊な変異体から更なる成長を遂げて『希少種』へと進化したモノは、群れを統率する知性を持つ驚異的な存在になると言われている。それ故に『希少種』となった『変異種』の討伐を果たした冒険者は、一定の条件次第で冒険者ギルドに於ける評価ランクを一つ上げる事が出来る」
「その条件の一つがギルドから正式な討伐依頼を受けた冒険者であるという事だ」
サリーシェの言葉を補うようにフィエリテスが付け加えた。
「私達の為ではなくトルストの為に頼む。死んだトルストへの最後の餞として彼の冒険者としてのランクを上げて遣りたいのだ。その為にこの魔石を私に譲って欲しい」
サリーシェの言葉を聴いて彼女の仲間達は全てを納得した表情を浮かべた。
「サカキさん、私からもお願いします。どうかサリーシェさんのお願いを聴いてあげてください」
祈るような眼差しで懇願するサリーシェとリフィナの視線を受け、俺は迷う事無く自らの答えを口にする。
「先刻も言った通り俺はトルストに頼まれて戦っただけだ。その結果が今そこにある魔石なのだから元々それはトルストの物だな。彼がいない今それをどう扱うかは彼の代わりにサリーシェ達が決めれば良い」
俺が決して長くは無かった前世の中で悟った事の一つに、人間は他者に優しくされた分しか他者に優しくする事が出来ないという真理がある。
俺がこの世界に転生してからまだ一日とて経っていないが、その短い時間の中で沢山の贈り物をこの世界で出会った者達から既に貰っているのである。
だから、自分がここで欲深い事をしたらこの世界で出会った者達は勿論、今日この時まで俺に深い情けを示してくれた大切な存在達までも裏切る事となる。
それに何より、ライシンさんと似た名前を持ち、その生き方までも似た存在の名誉の為に譲れるモノがあるのなら、譲るのは当たり前の事であった。
「ありがとう、サカキ!」
サリーシェは彼女らしい喜びを堪えた笑みで俺に礼を告げると愛おしそうに自らの胸に魔石を抱いた。
「勿論、無料で譲って貰おうなんて思ってはいない。悪いが皆、少し貸してくれ」
「水臭い事を言うなサリーシェ、勿論、俺もトルストに報いるぞ」
「そうですよ、貴女程ではありませんが、私も彼には今まで何度も助けられました。そのお礼をしない訳にはいきません」
「サリーシェさん、トルスト兄さんの為に本当にありがとうございます。勿論、私も出します。出させてください」
「短い付き合いとは言え共に戦った仲間だ。俺達にも出させてくれ。それでいいよな、サラ?」
「ええ、勿論よクレヴォ。それが仲間の証というモノよ」
「私にも協力させてください、勿論、皆で平等に均等わりですよ」
サリーシェの頼みに苦笑交じりで応えたフィエリテスに続く形でファスを始めとする他の仲間達もそれに倣う。
「ありがとう、皆。じゃ、一人5レイ金ずつで頼む」
そう告げたサリーシェは、自らも懐から出した財布と思われる小袋から中身を五枚取り出す。
「全部で35万イリルある。充分な礼とは言えないが受け取って欲しい」
俺は、サリーシェから差し出された35枚の金貨を素直に受け取ると、そこから5枚を残し、戦闘衣の懐に作られたポケットに入れた。
「これは俺からトルストに対する弔いの気持ちだ。彼の墓を造る為の足しにでもしてくれ」
「君という男は、どこまでも恰好を付けるな」
俺が申し出と共に差し出した金貨を受け取り、サリーシェは穏やかな笑みを浮かべた。
「そうだな、格好付けのついでに一つ、彼の墓に刻む文言は『誰よりも高潔な魂を持つ戦士、ここに眠る』にでもしてくれ」
「分かった。その文言を使わせてもらおう。サカキ、本当にありがとう。この恩は一生忘れない」
真摯な眼差しで応えるサリーシェの瞳には、まだ晴れない悲しみが滲んでいたが、そこには確かに未来を見詰める希望の光が存在していた。
「あ、そうだ。早速の恩返しとして一つ頼みが在るんだが、近くの街までの道を教えてくれないか」
元々の目的を思い出しそれを口にした俺にリフィナ達は、苦笑にも似た笑みを浮かべる。
・・・だってマジネタの迷子なんだもん!
俺は半ばヤケクソ気味に自分の情けない状況を呪った。
「それじゃ、俺はそろそろ行くよ。リフィナ、サリーシェ、そして他の皆も元気でな」
森の入口まで案内され、目の前にある道を真っ直ぐに行き、枝道に分かれたら大きな道の方を選べば、大きな街に行きつけると教えられた俺は、リフィナ達に別れの言葉を告げる。
「ああ、また何処かで出会う事もあるだろう。それまで君も達者でな」
「私も今回の討伐の報告を終えたら、戦女神様の教えに従い各地を巡る修行の旅に出ます。だから、必ず何時か何処かで再びお会い出来ると信じております。サカキさんもそれまでお元気で!」
「ああ、その時を楽しみにしてるよ」
それが何時、何処であるかは分からないが必ず再会する事を予感し、俺はリフィナ達討伐隊の面々に最後の挨拶代わりに軽く手を振って歩き出した。
・・・目指すは迷子からの脱却! がんばれ、俺! 負けるな、俺! ふぁいとぉー! おぉ~!
祖父達から聴かされたおとぎ話の『冒険ネコ』のセリフを思い出して、俺は自らの心を奮い立たせるのであった。
・・・俺の戦いはまだこれからだ!