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(新装)森でウサギに会いました。①

『彼』との邂逅の後、盛り上がったテンションを糧に意気揚々と歩き続けた俺だが、結構というかかなりというか凄く一生懸命に歩き続けた筈なのに空の太陽は未だ大きく傾く事無く、日が暮れるまでにはまだまだ時間がありそうだった。

「うぬぅ、やはりこれまでの不節制が祟ってるのか……」

 この世界で気が付いてからここに至るまで半日どころかまる一日位歩き続けた気分なのに、殆ど時間が経過していないその事実に、俺は自らの体力がかなり衰えている事を意識しずにはいられなかった。

 幸い珍獣さん達との邂逅の場で飲んだ水のお陰か喉の渇きも無く、特別な空腹に苛まれる事も今のところ無かった。

 体力的には多少疲れたが精神的にはまだいける、そんな感じである。

・・・がんばれ、俺!

 自らを奮い立たせた俺は再び歩き出した。

 その頑張りが報われたのか日も暮れ始め、いよいよ精神的にも疲れを感じ始めた俺の目の前に希望の光が見えた。

 その『希望の光』は物理的なモノでもあった。

 高台となった丘から見下ろす先、生えた木々が密集し周囲に比べ一層に暗くなっている森の奥に、松明と思われる複数の人工の光が点在していた。

「やっと、人里近くまで来たみたいだ」

 その事実に安堵して独り言つった俺は、喜び勇んでその光の群れを目指し森の在る方へと駆け出した。

 森に分け入りおおよその目安で場所を記憶してある松明の一つを探す俺の耳に、探索が的外れではない事を示す人間と思わしき何人かの声が聞こえてくる。

 その声を頼りに歩みを進める俺は、近付く程に増す激しい喧騒にある種の嫌な予感を抱き始めていた。

 そして、声の主達を視界の内に捉えた瞬間、俺の予感は現実となる。

 そこには確かに望み通り人がいた。

 しかし、それと同時に人ならざるモノも存在していた。

 その状況を見て取りどうするべきかを考えた次の瞬間、俺の目の前に大きな塊が転がってくる。

 それがナニであるのか分かっている俺は迷うことなく受け止めた。

「大丈夫か?」

「……頼む……仲間を、仲間を助けてくれ……」

 最早、瀕死の体となっていた戦装束姿の男は、俺の姿を見て戦う意思持つ者だと理解すると、最後の気力を振り絞って懇願してくる。


『ホムラ、「義を見て為さざるは勇無き也」だ、漢なら、否、真の武士もののふなら決して困っている者を見捨てるな』

 祖父からは、人間として高潔に生きる事の大切さを教えられた。


『エン、君に他者を助けられる力が在り、そこに助けを求める存在が居たならどうかその存在を助けて遣って欲しい』

 嘗て他者に見捨てられ大切な存在を失った少年は、その痛みを優しさに変えて俺を救ってくれた。。


 そして、俺は先刻、『彼』に対し何を望み何を与えられた。


「分かった。後は俺に任せろ!」

「……ありがとう……頼んだ……」

 男は、俺の答えに安堵すると静かに息を引き取った。

 彼の亡骸を抱きかかえる様にしてその側から離れた俺は、それを近くに在った木々が生い茂る藪の奥の地面に横たえると、交わした約束を果たすべく同田貫を抜き放つ。

 暗く視界が悪い森の中を俺は躊躇う事無く全力で疾駆すると、一番先に彼の仇を討つ事にした。

 視線の先に映るのは正に化け物と呼ぶに相応しき異形の存在。

 半ば無意識に発動した鑑定眼がその正体を俺に教えてくれる。


真名  *** (鑑定未明)

種族  鬼蜘蛛 (妖獣族・異形種)

年歴  ? (未判定)

属性  邪悪

性格  狂暴

Lv  11


「『鬼蜘蛛』か……、どちらかと言うとでかいアリジゴクだな」

 身の丈は体長にして1.5m程、鬼蜘蛛という種族名の通りに角を生やした蜘蛛であるが、その姿は子供頃によく捕まえて観察した虫の姿に酷似していた。

『グギャシャッ』

 言葉だか鳴き声だか分からない奇異な音を出し、蜘蛛にしては短めの足を蠢かせて威嚇してくる化け物の胴体を、俺は短い気合いと共に手にした刀で薙ぎ払う。

 振るわれる同田貫の刃は、小気味良い風切り音と共に敵の身体を横一文字に斬り裂いた。

『グゲェーッ』

 悲鳴の鳴き声を上げ前のめりに倒れ伏す鬼蜘蛛。

 俺は、再び短い気合いを吐いて脇に倒れる敵の首を振り下した刃で打ち落とす。

 濁った体液を撒き散らすように転がる異形の首と、それを失って胴体を痙攣させる鬼蜘蛛の姿を俺はどこか冷めた感情で見詰める。

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

 頭に響く『天の声』が俺に戦いの勝利を告げた。

【各能力値に成長ボーナスとして獲得したポイントを振り分けてください】

 『天の声』の指示に従い、今の自分に足りてないと感じた筋力、体力、素早さ、器用さにバランス良くポイントを振り分ける。


名前  サカキ エン(改名)

年齢  19才 (真人族 前世年齢 39才)

性別  男性

属性  真善 (徳性値 1050 称号持ち)

性格  未定 (判定不可能)

職業  侍 (刀・槍・弓・暗器等多くの武器に精通)

Lv  3 (8%)

HP 95(95)

MP 49(49)

ステータス値

・筋力  46(28)(スキル+3)(武器+15)

・知力  39(24)      (書物+15)

・精神力 36(20)(スキル+1)(武具・書物+15)

・体力  25(22)(スキル+3)

・素早さ 31(28)(スキル+3)

・器用さ 27(24)(スキル+3)

・運   16


・・・まあ、こんなモノかな。

 成長による変化で多少の違和感を感じる自らの身体になれる為、軽く背伸びする俺の視線の先に禍々しい光が闇の中に浮かび上がる。

「新手か」

 新たな敵の出現を察知し警戒する俺の瞳に、一つ、又一つと紅の妖しい色を帯びる光の群れが増えていく様子が映った。

 薄闇に潜む異形達の姿は正に逢魔ヶ刻に相応しく、その群れが為す姿は怪談噺に語られる百鬼夜行そのモノであった。


真名  *** (鑑定未明)

種族  鬼蛇百足 (妖獣族・異形種)

年歴  ? (未判定)

属性  邪悪

性格  獰猛

Lv  25


 群れの中心を為す一際大きな異形に鑑定眼を向けてみれば、そこには種族名の通り頭に鬼を思わせる二本角を生やし、頭から上半身までを百足の如き甲革に覆われ、更に上半身から下半身の大半まで百足の腕足を持つ蛇の姿が存在していた。。

 そして、その周囲を護るように先刻の鬼蜘蛛や同種の蛇百足という妖獣達が取り巻く。

 群れの主である鬼蛇百足との間にあるレベル差、相手の数を考えれば、正に『勇気と無謀は違う』とか『衆寡敵せず』という言葉が相応しい状況であったが、不思議と俺の心には恐怖が存在しなかった。

「(嗚呼、そういう事か……)」

 人間は真の恐怖を抱くとそれを感じなくなるというヤツかと一瞬考えるが、先刻、相見えた『彼』に比べれば目の前にいるモノ達が恐れるに足りない存在である事に思い至った。

 前に立ちはだかる異形達の壁の奥から幾つかの戦いの喧騒が聞こえてくる。

 それが彼の言った『仲間』の存在だと察した俺は、手遅れにならない為の最善策を頭の中で練り上げる。

 所持する《軍神の天書》が知力に与える恩恵か、俺の頭の中は自分でも信じられない程に冴えわたり一瞬で求める答えを導き出した。

「要は全部の敵を倒す必要はない。頭を潰せばそれで良い」

 独り言のように呟き俺がイメージしたのは、先刻、『彼』が見せた技である《八薙ぎ》。

 大きく息を吸った俺は、そのイメージを自らの思考に刷り込むと迷うことなく駆け出した。

 俺の動きを察知した取り巻きの妖獣達が群れの主を護るべく俺の前に躍り出る。

 俺は短く吐く気合いと共に振り放つ連撃で、その壁を一匹、また一匹と薙ぎ払い、敵の頭である鬼蛇百足との距離を詰める。

【《戦技系スキル・八薙ぎ》を開眼しました】

 一つの成長を果たした事を告げる『天の声』の渋メンボイスの心地よさに俺は気分と戦意を昂揚させる。

 彼我との間に立ちはだかった最後の一匹の頭を踏み台代わりにして敵の親玉の頭上まで跳んだ俺は、渾身の力を込めて得物の同田貫を振り下した。

 狙うのは生物にとってほぼ確実に弱点となる首。

 俺は落下の勢いのままに身体を捻って敵の首元を視線に捉えると、裂帛の気合いと共に刀を叩きつける。

「くっ!」

 インパクトの瞬間に同田貫から伝わってくる硬い痛みに、思わず俺の口から苦悶の声が漏れる。

 そのイメージに反する手応えに、俺は敵の身体を護る甲革が想像以上に厚く硬い事を思い知らされた。

『グゥフゥッシャー!』

 唸りの声を上げて反撃とばかりに首を巡らし頭の角で串刺そうとする鬼蛇百足の動きを見て取った俺は、それを回避するべく着地と同時に地面を蹴るが一瞬間に合わず、腹を頭突かれる形で後方へと弾き飛ばされる。

 身に纏った戦闘衣の耐刃効果で身体を串刺されるのは免れるが、攻撃の勢いに圧された俺はかなりの速度で、背後にあった木の幹に背中を叩きつけられた。

 激しい衝突によって失いそうになる意識を俺は辛うじて保つと、必死の思いで痛みによって奪われた呼吸を取り戻す。

 嘗て、程度は軽いが同じような衝突の経験をした事がある俺は、戦闘衣の持つ耐衝撃効果によって再び救われた事に思い至った。

・・・『九死に一生を得る』とは正にこの事か。

 二重三重の意味で『彼』に助けられた事を感じながらも、今は目の前の戦いに意識を向ける時だと自分を戒める。

 取り巻きの半数以上を先刻の《八薙ぎ》で戦闘不能状態にしてあるとはいえ、到底、状況的に有利とは言えなかった。

 それを何よりも解ってるのだろう目の前で対峙する敵の眼には、狩猟者であり捕食者である者が持つ傲慢にして残酷な悪意が宿っていた。

 そして、その悪意を現実にするべくそれは大きく吠えて文字通り俺へと牙を剥いた。

『グゥフゥッシャー!』

 先刻と似ていて、それ以上に凶暴な唸り声を上げて俺を呑み込む為に大口を開く異形。

 俺は、その姿を間合いのうちに捉えるとそれを避けるべく空へと跳んだ。

 紙一重の差で俺を逃した鬼蛇百足は嘲るように眼差しを歪め、頭上より落下する俺を串刺しにしようと頭の角を繰り出す。


『戦いに於いて勝利を得る為の隙とは培った技量で造りだすもの』


『だが幾多の戦いに身を置く中では、時に戦場を支配する傲慢ともいえる一撃を繰り出さなくてはならない事もある』


『「柔よく剛を制す」とは言うが、いかに柔軟な相手でも撃ち破る剛も存在すのもまた然りとは思わないか?』


 脳裏に甦る『彼』の言葉。

 戦場における彼我の強さの差を超え、それを支配し強者を撃ち破る絶対の力。

 そんなものは『幻想』に過ぎないのかもしれない。

 だが、その片鱗は確かに俺の中に存在していた。

・・・出来るか出来ないかじゃない。今、生き残る為には何が必要かなのだ。

 目の前に迫る『死』という存在を前に、俺の心はその思考と共に冷たく冴えていった。

 その切っ先を以って天を指すように頭上へと同田貫を振り上げた俺は、自分でも驚く程に穏やかな心で迫り来る鬼蛇百足を見詰める。

 生命の遣り取りという両者の攻防に於ける一瞬と呼ぶにも満たない刹那、俺は祈るように瞬きすると迷う事無く自らの得物を振り下す。

 激しくぶつかり合う俺の刀と異形の甲革に護られた兜、先刻と同じように硬い抵抗を感じる衝撃に痺れる両腕を絞るようにして、俺は同田貫を振り抜く為に更なる力を込めた。

 図らずして睨み合う形で交差する両者の視線。

 そしてそのどちらもが驚きの色に彩られる。

 勝者は、それまでと大きく異なる手応えの変化に。

 敗者は、自分に死を与えた存在に対する恐怖に。

【《戦技系スキル・兜割り》を開眼しました】

 『天の声』が伝えるメッセージは更に続く。

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【各能力値に成長ボーナスとして獲得したポイントを振り分けてください】

 その指示に従いステータスを振り分ける。


名前  サカキ エン(改名)

年齢  19才 (真人族 前世年齢 39才)

性別  男性

属性  真善 (徳性値 1050 称号持ち)

性格  未定 (判定不可能)

職業  侍 (刀・槍・弓・暗器等多くの武器に精通)

Lv  6 (48%)

HP 98(134)

MP 61(61)

ステータス値

・筋力  48(30)(スキル+3)(武器+15)

・知力  39(24)      (書物+15)

・精神力 36(20)(スキル+1)(武具・書物+15)

・体力  30(27)(スキル+3)

・素早さ 36(33)(スキル+3)

・器用さ 30(27)(スキル+3)

・運   16


【偉業の達成により、《亜竜殺し》の称号を獲得した】

 告げられた『偉業』の意味は図りかねるが、最初に貰った(半強制的に)モノに比べれば至極まともなその称号は快く受け入れる事ができた。

「(おっと、『勝って兜の緒を締めよ』だ)」

 一つの戦いの勝利に浮かれかけた心を引き締め、俺は残る敵に視線を移す。

 親玉という存在を失った狂乱による暴走を警戒して身構える俺の予想に反し、敵は恐慌状態に陥ったように散り散りに逃げ始めた。

 正に「蜘蛛の子を散らす」という状態に苦笑を覚えたが、それが正しい生存本能だろうと思っておく。

「どうやら、完全に決着が付いたみたいだな……」

 周辺から聞こえていた緊張感に満ちた喧騒も消え、不思議なまでの静寂が訪れた事に気が付いた俺は、事態に収拾が付いたのだろうと判断し安堵の息と共にその場に座り込んだ。                    

 戦いの緊張から解放されて俺が一番に感じるたのは、強烈な疲労感であった。

 自らの死という危険と隣り合わせに他者の生命を奪う行為、それが安易なモノではないと頭では解っていても実際に経験してみれば、「安易」という言葉が余りにも安易であった事を思い知らされる。

 そして、それに対し抱いたモノが「恐怖」ではなく、「疲労」である自分の本質を思い知り、複雑な感情を抱かずにはいられなかった。

 否、自らの心を偽らないなら、俺は初めて経験する『本当の戦い』に『熱い昂ぶり』を感じていた。


『真の武士もののふは、自らの刃に誇りと責任を持ちそれをたやすく抜くことはない。しかし、大切なモノを護る為にそれを抜くと一度決めたなら、目の前にいる敵に対して情けを掛けないのも又、真の武士である』


 武士の心構えとしえ祖父から教えられたそれは、侍が生きられなくなった世界に於いては古風に過ぎる考え方ではあったが、自らの行動に責任を持つという一人の人間としての生き様としては決して容易なモノではなかった。

 懐かしい想い出に浸るように瞳を閉じた俺は、疲れた心を癒す為、ほんの少しだけこの場で身体を休めることにした。


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