(新装)異世界(?)でさっそく(物理的に)道に迷った俺がいる①
「……うんぅ……っ、ここは……?」
目覚めて先ず感じたのは、寝過ぎた時に感じる二日酔いの時にも似た頭の鈍痛。
俺は、鈍く重い頭をすっきりさせるべく、二度三度と深呼吸を繰り返すと、更なる脳の覚醒を求めて軽く屈伸運動をしてみた。
その甲斐あって調子を取り戻した俺は、改めて自分の周囲の様子をぐるりと見回して確認する。
覚醒前の体験が夢でなければ、ここが『新世界』という異世界(?)の筈である。
しかし、どんなに周囲の様子を見回しても、俺の視界の先には、「見た事がある」とは言えないが、「見た事がない」とも言えない風景が広がっているだけで、本当にここが『新世界』であるという確証を得る材料が見つからなかった。
「これで、完全な異界生物とかが空を飛んでいてくれたら、バッチリなんだけどな」
そう独りごつって、空を見上げてみるが、そこに飛んでる鳥らしきモノにも、特別な異世界感は存在していなかった。
「ここでボケッとしてても仕方ないし、取り敢えず人里でも探しに行くとするか……」
実際問題、ここが本当に異世界(?)だった場合、無闇に野宿などしたら生死に関わる事態になる可能性が大である。
まず、するべき事を決めた俺だったが、今度はそれで問題に突き当たる。
そう、今自分がどこに居るかが分からない以上、どちらに行けば人里が在るのかも当然分からなかった。
・・・山などで道に迷ったら無闇矢鱈に動かない方が良いとはいうが、異世界で迷子になったらどうすれば良いのでしょうか?
当然、誰も答えてはくれなかった。
「よし、あれだ! 『人事を尽くして、天命を待つ』ってヤツ(あれ、なんか違うっぽ?)に賭けよう」
そう決断した俺は、「ソレ」に使う枝を確保するべく、足元に転がっていた同田貫を拾い上げると、居合風に颯爽とした一振りを放つ。
「シュパッ」という小気味よい音と共に、切り裂かれた一本の枝が俺の足元に転がる。
「あれっ?」
俺は、その現象に微妙な違和感を覚える。
・・・なんで、「切れる」?
そう、我が愛刀の同田貫クンは、真剣ではなく模造された練習用の居合刀である。
その刃の鋭利さは刃付きに近いとはいえ、到底、「切れる」レベルでは無い筈であった。
不思議に思い、マジマジと愛刀の刃を見詰める俺。
【《神明の鑑定眼》を発動させますか?】
「はい」
システムボイスである『天の声』の渋メンボイスに反射的に応える俺。
【スキル発動。尚、スキル発動の確認等に対する返答は、声を出す必要はありません。又、スキルを使用する際も心の中で念じれば、基本的に発動可能です】
・・・了解しました。ですよね、一々声に出してたら変人丸出しですよねぇ(あー恥ずかしー)
『《真打・藤原正國(同田貫)》(レア S級)、所持者であるサカキ エンの強き想いを、《管理者》の理力によってその刃に宿らせた逸品。「折れず、曲がらず、鈍らず」というそこに込められた純然たる願いが昇華された刃は、破壊不能・耐久度不滅・性能劣化無の特性を誇る。攻撃力(筋力)補正+15。戦技系スキル使用時、攻撃力・命中率等の上昇効果を得られる』
・・・パネェっ! 正直、パネェ過ぎる。
「はっ……、まさか!?」
俺は、愛刀の超進化に驚き、そして、思い至ったもう一つのモノの真価を鑑定する。
『《軍神の天書》(レア S級)、嘗てその偉業から、伝承を伝説から神話へと昇華させた《真なる英雄》が、生前に自らの異名である《軍神》を受け継ぐに相応しいと認めた英傑の為に遺した兵法書。「天知」「地生」「人尊」と名される三巻から成り、その神髄を見極めし者に大いなる軍才を授ける奇書。知力補正+15、精神力補正+5。内容の習熟度に応じて複数の軍略系スキルを習得可能』
・・・マジですか!
正にその性能から、『神器』とも呼べる二つのアイテムを手にした俺は、真摯な心に立ち返って再び刀と書巻を見詰め感謝の気持ちで一杯になる。
自分にとって掛け替えのない大切な存在達が遺してくれた想いが、形となって自分に報いてくれている事が嬉しくて、俺の眼からは自然と涙が零れていた。
俺は暫くの感動に打ち震えた後、頬を濡らす涙を掌で拭うと、今度は自分自身の能力を鑑定してみる。
名前 サカキ エン(改名)
年齢 19才 (真人族 前世年齢 39才)
性別 男性
属性 真善 (徳性値 50 称号持ち)
性格 未定 (判定不可能)
職業 侍 (刀・槍・弓・暗器等多くの武器に精通)
Lv 1 (0%)
HP 63(63)
MP 36(36)
ステータス値
・筋力 44(26)(スキル+3)(武器+15)
・知力 39(24) (書物+15)
・精神力 26(20)(スキル+1)(書物+ 5)
・体力 23(20)(スキル+3)
・素早さ 27(24)(スキル+3)
・器用さ 25(22)(スキル+3)
・運 16
スキル
・天賦の武才 Lv1+s(初期・ユニーク)
・至高の万能導く縁 (初期・ユニーク)
・邂逅の良縁 (初期・ユニーク)
・晩成の大器 +s(初期・レア)
・異世界言語習得 Lv3+s(初期・レア)
・神明の鑑定眼 Lv3+s(初期・レア)
・武士道の心得 Lv1(初期・ノーマル)
称号
《神すらも持て余す奇才》(初期)
所持アイテム
《真打・藤原正國(同田貫)》(レア S級)
《軍神の天書》(レア S級)
・・・しかし、この何処からとも滲み出る『厨二』感は、鉄板というか通常仕様なのですか? 後、特別仕様とおもわれるユニーク枠のスキルに『縁』『良縁』とかが在るのは、いい歳しても未婚で『ぼっち体質』だった俺に対する『彼女』の嫌がらせ、もとい思い遣りなのでしょうか?
不満はないが抵抗はあるという微妙な感情を抱きつつも、俺は取り敢えず先に進む事にする。
先ほど切り落とした枝を拾い上げ邪魔な部分を切り落とす。
そして、その切っ先を地面に着ける形で真っ直ぐに立て、手を離した。
古式ゆかしき(?)道に迷った時に使う運命の神様に丸投げする占術である。
「よしこっちだ!」
全く何の根拠もないが、俺は倒れた枝が示す神の意志を信じ、それが導く方向へと歩き出した。
・・・歩くこと暫く、自分では結構な距離を歩いたつもりですが、人里らしきモノは勿論のこと、そこに至る為の道すら見つかりません。体力的には多少疲れるくらいには歩き続けていますが、空を見上げると太陽はいまだ頭上高くに存在します。そろそろゴールしても良いですか? というか、人里にゴールさせてください、神様。
という阿呆な気分に満たされた自分の心を癒すべく、俺は一時の休憩をとる事にした。
という事で、なんか良い感じの休憩場所が無いか周囲を見渡す俺の耳に、爽やかな雰囲気を感じさせる水のせせらぎが聞こえてきた。
迷子の緊張から忘れていた喉の渇きを感じつつ、俺はその音に誘われるように歩き出す。
その先に在ったのは、小さな滝のように石清水が集まり、更にその地下から水が湧き上がる最高の水飲み場であった。
『生水には気をつけなさい』という祖父か祖母の謂いつけを思い出し、水場から掬いあげた水を鑑定して、その安全を確認してから飲む。
美味い、正に甘露であり、「生き返る」とはこういう事を言うのだろう。
喉を潤し一息ついた事で少し気持ちに余裕ができた俺は、取り敢えずもう少し身体を休めつつ、この迷子状態から抜け出す良い方法を考える事にする。
水場の側に生えた大樹の下にちょうど良い日陰を見付けて寝転がる俺。
「(さてと、本気でどうするかな……)」
正直、考えたところで答えが見つかるモノでもなかった。
周囲の環境とかを考えれば、一応、水分補給はできるので一時の生命の危機は脱したし、《鑑定眼》のスキルで食べられる木の実でも見付けれれば、食料も何とかなる可能性は高いので一日二日位なら普通にしのげるだろ。
今一番の問題である進む先も単純に考えれば、水場の水が流れる先である下流に行けば解決する可能性は高い。
となれば、今やるべき事は、気力の回復を含めた意味での休息だろう。
と、適当な理由を見付け、俺は疲れた心の欲求に従い『お昼寝』という安息に身を委ねるのであった。
『ホムラは、何だかんだといって動物好きなんだよな。というか、お前自身が動物っぽいよな。自由気ままというか自分を大切にするホムラのそういうトコ嫌いじゃないし、正直、羨ましく感じるくらいだな』
・・・それ、多分、否、絶対に褒めてないよな?
『否、本当に「お前らしい」と思うし、それがお前だと思ってるよ。だから、ずっと変わらずそのままでいてくれよな。その方が見てるコッチも楽しいし』
・・・貴方の中での俺は、『珍獣』扱いですか。
それは酷く懐かしく、そして、酷く残酷な夢。
俺は『変わらない』のではなく、『変われなかった』のであり、『アイツ』は『変わりたくても変われなくなった』のである。
「優しいヤツほど長生きできない」という言葉は、物語か何かのセリフで聞いたが、現実は「優しいヤツだから長生きできない」と言う方が正しいような気がする。
その優しさで他者を思い遣ったが故に長生きできなかった漢達。
そんな存在を『俺の世界』は、残酷にも裏切った。
生きるべきは『彼ら』の方だったはずなのに、それを『世界』は許さなかった。
本当に、酷く残酷な『悪夢』だった。
・・・ツンツンっ、ツンツンっ、ツンっ!
何か柔らかいものが俺の肩を突っつくようにして揺り起こそうとしている。
正直、寝ているのを無理やり起こされるのは好きじゃない。
・・・ツンツンっ、ツンツンっ、ツンっ!
寝たふりを続けようとする俺の心を見透かすように、『ソレ』は更に突っついてきた。
不機嫌に鈍い痛みを抱く脳みそを宥めつつ、俺は半眼気味な視線で安眠妨害の主の正体を確かめる。
そこに居たのは、本当の『珍獣』だった。
頭には根元近くで折れた角らしきモノ、顔はイケ面仕様なワニというか『竜(アジア系)』、体は鹿か馬のようで背中に模様の代わりに鱗が生え、尻尾は牛みたいである。
一言で言うなら、正に『合成獣』ってやつだ。
しかし、その『キマイラ』という自らの表現に微妙な違和感を覚える。
というか、何処かでこれとそっくりなモノを見た事があった。
それもごく最近である。
テレビの動物番組? 『オカピー』とかそれっぽいが、それを見たのはかなり以前の事である。
必死に思い出そうとする俺、しかし、思い出そうとすればするほど、不思議な頭痛の記憶が頭に浮かび、同時に胃がむかむかして気分が悪くなってくる。
「(この感じ前にもどこかで……!)」
・・・ゴツンっ!
その感覚の正体に思い至ろうとした瞬間、俺の後頭部を物理的な意味での頭痛が襲った。
「痛ッ!」
その痛みによって、涙腺ユル系である俺の目に涙が浮かぶ。
脳内でもなんか苦い汁系が分泌してるんじゃないかと疑いつつ、俺は後頭部にきつい一撃をかましてくれた相手の正体を確かめるべく背後に振り返る。
そこにいたのは、第二の『珍獣』、正確には言うなら『珍鳥』であった。
首から上は白鳥に似ており、そこに鶏くらいの嘴とクジャクの尾羽みたいなモノが生えた鶏冠を持ち、体は落ち着いた色合いを持ちながら、派手で立派な形をした尾羽をもつ鶏か孔雀のような雉系である。
一言で言うなら、『エレガントにしてゴージャスな孔雀モドキ』だった。
半ば睨むように見つめる俺に対し、その『珍鳥』は、「どうしたの?」といった感じの無害そうな表情で小首を傾げる。
これで、人を小馬鹿にした顔とかしていたら、問答無用で同田貫の餌食にして焼き鳥にするところだが、『珍鳥』にも『珍獣』にも敵意はおろか悪意すら微塵も感じられなかった。
「(うぬぬぅぅ)」
・・・こつんっ!
いまだ残る後頭部の痛みによる怒りの矛先を如何に収めるかで悩んだ俺は、取り敢えず目の前の珍鳥の頭に軽くチョップをかます事にした。
『クェッ~!』
見事にチョップを喰らった『珍鳥』は奇声を上げると俺の周囲をぐるぐると走り回る。
そして、それに釣られるように興奮した『珍獣』が嘶きを上げて一緒になって走り出した。
・・・このカオス状態は何ですか?
威嚇とは明らかに違い、まるではしゃぐように走り続ける二匹の興奮状態に困惑しつつ、俺は成り行きを見守った。
そして、暫しの時の経過と共に二匹は落ち着きを取り戻すと、『珍獣』の背中に『珍鳥』が乗るという形で俺と対峙する。
『クェ~!』
『フホォ~』
何かを訴える二匹だが、当然何を言ってるのかは分からなかった。
【《異世界言語習得》を適応発動させますか?】
・・・おお、ナイスアシスト!
勿論、答えは『イエス』である。
【無事に《異世界言語習得》が適応発動されたました。尚、このスキルは発動後、常時使用状態となりますので、不要の際には発動解除を行う必要があります】
・・・了解しました。
スキルの発動により、特別、何かが変わったという感覚はないが、俺は『珍獣』達のほうへ意識を戻すと共に二匹を鑑定してみる。
真名 ****** (鑑定未明)
種族 聖獣 (麒麟族)
年歴 253周
性別 ? (未判定)
属性 真善 (徳聖値 35956)
性格 温厚
Lv 202
真名 ****** (鑑定未明)
種族 霊鳥 (鳳凰族)
年歴 79周 (転生済 379周)
性別 ? (未判定)
属性 真善 (徳聖値 30329÷4)
性格 友愛
Lv 67 (転生済み 297)
・・・ああっ、『ビール』だ!
鑑定により、『珍獣』の姿を見て抱いた「どこかで見た」の答えが判明する。
その姿は、某酒造メーカー『キ○ン』(今更、名前を伏せる意味も無いような気もする)が造ってるビールのラベルに描かれているモノに酷似しているのである。
そして『珍鳥』の方も良く良く考えれば、生前の世界で使われていた硬貨にも描かれている有名な歴史的建造物に、そのまま名前が使われている程にその筋の人間にとっては、メジャーな存在そのモノであった。
俺自身、夢中になったゲームの世界等でお馴染みの存在達であったが、まさか実物に逢うなんて予想もしてなかったので、そうだとは思いも至らなかった次第である。
その正体が分かった今、色々な意味で態度を測りかねる相手であるが、『知らない相手でも他者にあったら先ず挨拶を』と祖母から躾けられている俺は、精一杯に友好的な表情であいさつの言葉を投げかけた。
「こんにちは」
『コンニチワ、コンニチワ』
『コンニチハ』
・・・おお、会話成立!
「はじめまして」
『ハジメマシュテ、ハジメマシュテ』
『ハジメマシテ』
・・・会話が弾んでる?
「良い天気ですね」
『ヨイテンキデシュネ、ヨイテンキデシュネ』
『ヨイテンキデスネ』
・・・あれ、オウムならぬ鳳凰返し状態?(鳳凰さんの方は、微妙に噛んでいるし)
あと、ボッチ系でややコミュ障な俺には、やはりここから会話を弾ませる機能が無さげです(困惑)
『ニンゲン、ココ、ワレラノオキニイリ。オマエ、ナニシテル?』
・・・ああ、縄張り問題ですか? 『情けは人の為ならず』ですよ麒麟さん。まぁ、取り敢えず質問に答えておくか。
「昼寝です」
『……ナルホド、タシカニ、ココ、ネルノキモチイイ。オマエ、タダシイ』
「では、そういう事で、お邪魔しました」
虎口を脱した俺は、自分でも爽やかだと思う最高の笑顔を浮かべてその場を立ち去る。
『ニンゲン、マチュ、ニンゲン、マチュ』
・・・鳳凰さんに呼び止められました。
「何でしょうか?」
・・・ショバ代とか必要でしたか? まさか代価が『オレサマ、オマエ、マルカジリ』とか言わないですよね? そこは少し譲って『オレサマ、ハラぺコ、オマエ、HP、スワセロ』くらいでお願いします。
やや緊張気味で尋ねる俺に、鳳凰さんは笑顔(?)を浮かべる。
『ニンゲン、アタマ、ナデル。ニンゲン、アタマ、ナデル』
・・・?
要求① 自分で自分の頭を撫でる。
要求② 俺が鳳凰さんの頭を撫でる。
要求③ 鳳凰さんが俺の頭を撫でる。
・・・正解はどれだ!
「(要求①、俺の頭に何か付いてる。要求②、求めに応じて手を伸ばした瞬間、その手を齧られる可能性あり。要求③、②と同じ感じで、差し出した頭を齧られる可能性あり)」
無難なのは、①だが俺の答えはこれだ!
・・・撫で撫で、触わ触わ。
俺は、躊躇う事なく麒麟さんの頭を撫でた。
要求者である鳳凰さんではなく、敢えて第三者の麒麟さんを撫でる事で、その場を凌ぐ作戦である。
因みに、麒麟という存在の伝承によれば、気易くその頭を撫でるのは、竜の『逆鱗に触れる』レベルの死亡フラグである。
『ニンゲン、オマエ、ヘン。デモ、オマエ、オモシロイ。オレ、オマエ、キニイッタ。オレ、オマエ二、コレヤル』
・・・何をくれるのですか? 召喚用アイテムですか? 仲魔になってくださるのですか?
某RPG的なノリを期待する俺に、麒麟さんは自らの体に生えた鱗を一枚噛み抜いて渡してくれる。
「ありがとうございます」
それを受け取り鑑定しようとした瞬間、鱗は虹のような煌めきと共に形を崩し、俺の掌の中へと吸い込まれていった。
『ニンゲン、アタマ、ナデル。ニンゲン、アタマ、ナデル』
再び繰り返された鳳凰さんの要求が、目の前で起きた不思議な現象の意味を測りかねる俺の意識を引き戻す。
・・・撫で撫で。
要求通りに頭を撫でると、鳳凰さんは気持ち良さそうに目を細めた。
その表情が、幼い頃に飼っていた鶏(烏骨鶏)に似ていて、少しだけ懐かしい気持が甦る。
『ニンゲン、コレアゲル。ニンゲン、コレアゲル』
やや興奮気味に羽をバタバタさせつつ、鳳凰さんはいつの間にか抜いて咥えていた一本の尾羽を俺に差し出す。
「ありがとう」
お礼の言葉と共にもう一度、鳳凰さんの頭を撫でてから、俺はそれを受け取った。
そして、その尾羽はやはり先程の麒麟の鱗と同じように、光と共に形が崩れ掌の中に消えて行った。
「では、もう用事も無さそうですし、これで失礼します」
麒麟さん達に軽く挨拶すると、俺はその場を去るべく歩き出した。
『ニンゲン、マイゴナラ、ソッチジャナク、アッチニイクトイイ』
・・・色々な意味でお心遣い痛み入ります(ぺこり)
俺は恥ずかしさを抑えつつ振り返って軽く頭を下げると、親切な麒麟さんが鼻先で指し示している方角へと進む先を修正する。
『ニンゲン、サヨナラ、ゲンキデネ。ニンゲン、サヨナラ、ゲンキデネ』
・・・鳳凰さん達も元気でね。
鳳凰さんの見送りの声を背に受け、俺は迷子脱却の為の一歩を踏み出した。