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(新装)閑話笑題1・『お狐サマが見ていた』

・・・嗚呼ああ、空はまだあおいけれど、真人族ゴミムシ共が沸いて来ていないから、空気が綺麗で気持ちが良いです。

 ワタシは、黎明れいめいの空を見上げて、大きく深呼吸をする。

 本当であれば、このゴミ溜のような場所から外に出て、もっと澄んだ空気に触れたいところだが、まだそれを許される時刻ではないので、仕方なく諦める事にした。

・・・他者ヒトの自由であろうという意思を、身勝手な規定ルールで縛るなんて、本当に、真人族クソムシが考える事は、全く理解ができません。

 そうなげいた私は、こんな場所からでも無事に届く事を願いながら、日課である精霊神様への祈りをささげる。

 いましばらくの間は、害虫共も湧かないはずなので、私は、このファシアンと呼ばれる『虫共の巣窟』を探索する事にした。


「しかし、族長様のお言葉に従って、こんな所までやって来たけれど、石を積んで造った家に平気で暮らしているなんて、本当に、奇妙というか異様というか、理解しがたい異常さね……」

 私達のように優れた叡智えいちを活かして自然との融和をはかり、豊かな文化と文明を築き上げた存在から見れば、ここに暮らす連中など同じ『世界の養い子』である事が恥ずかしく感じる程に、低劣な存在である。

 街の周囲を取り囲む石の壁による抑圧が、精神に更なる大きな負荷ストレスを与えてるのか、段々と気分が悪くなり始めた私は、負荷の原因から離れる為にも、進路を変え街の中央へと向かう形で歩いて行く。

・・・うにゅ、『アレ』は何かしら?

 虫共の巣窟の中心である大通りが交差する場所の一歩手前まで来た私の目に、こんなゴミ溜には似つかわしくない大樹の存在が映った。

 その姿に故郷の森を守護する『精霊樹』が重なり、少し懐かしさを憶えた私は、それに引き寄せられるように再び進路を変えた、

「中々、いえ、凄く立派な樹ね。それにとても澄んだ聖氣オーラを感じさせる……」

 その姿を間近に見た私は、感動し涙すらこぼしそうになる。

・・・これが『郷愁』というモノなのかしら……。

 一族の未来の為に故郷である『精霊樹の森』を旅立ってから、まだ数日しか経っていないが、目的を果たす為に『冒険者』を名乗るいけ好かないクソ虫共におもねり、その仲間パーティーに入れて貰うという死の苦痛すらともなう苦行に堪えた昨日の負荷ストレスが、私にそんな感情を抱かせたのだろう。

 その時、私の長耳ちょうじに、『バシャーっ!』という不自然に大地を打つ水の音が聞こえてきた。

 研ぎ澄まされた感覚で、その音が聞こえた先にある何者かの気配を感じ取った私は、浮かべた涙をクソ虫に見られたくなくて、慌てて掌で拭いさる。

 まだ少しだけ涙で滲む視線の先に、その人間ウジムシの姿を見付けた。


 どうやら『ソレ』は、大樹の幹によってさえぎられた死角の先に、ずっと以前から居たみたいだった。

 だがそうだとすると先刻さっき先刻さっきまで、全く私にその気配を感じさせなかった事になる。

 種族の特性として、鋭敏な感覚を持つ私は、その存在が持つ特異性に興味と好奇心を抱いて、昆虫観察する事にした。

 姿形は他の虫共と大差がないというか、昨日会い、望まぬながらも今日から関り続ける事となる『冒険者パーティーメンバー』達と比べると、線が細いというか華奢きゃしゃですらある。

 しかし、その身にまとうモノは、彼等とは全く異なっていた。

 穏やかにして繊細でありながら、それと同時に鋭い何かを内にはらんだ空気を身に纏ったその姿は、気安く触れる者があれば、時に容赦ようしゃなく斬り払う貫身ぬきみやいばの様であった。

・・・あんな危険なケモノを平然と放し飼いにしているなんて、本当にゴミ虫の脳ミソの中には寄生虫ベツのムシでも沸いているのかしら……。

 私は、益々、理解不能になる思考を持て余しながら、ケダモノの観察を続ける。

 手にしていた水桶を木の台に置いた獣は、少しの間を開けた後、台の前で僅かにかがみ込む。

 一体、何をしているのかと思い、その場から数歩移動して目を凝らして見ると、どうやら鏡をのぞき込んでいるみたいであった。

 その行為だけなら特別変わった事でも何でもなかった。

 しかし、時間的な制約に捉われにくい種族特性であるが故に、ゆったりとした性質たちをしている私から見ても、尋常ではないという程度レベルの時間を掛けて、『ソレ』は、自分の姿を鏡に映し続る。

 かなりの時間が経過した後、鏡の前から身体を起こした獣は、満面の笑みを浮かべたかと思うと、更に、見ているこっちの方が辟易へきえきするぐらいに『ウザい』表情で空を見上げる。

 それからこちらの精神を崩壊させる呪いの舞踊の類だとうかがわせるような、トチ狂った踊りを踊ると、私の視線の先から姿を消した。

 持てる精神の全てをぎ込んで、獣の観察を果たし終えた私は、『アレ』に対し最初に抱いたモノが全くの的ハズレであった事を切に悟る。

・・・そう、『アレ』は、完全なる『病的自己陶酔患者ナルシスト』以外の何者でもない!

 その見事な結論に達した私は、件の獣に対する興味を完全に失って、その場から立ち去った。


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