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(新装)思えば遠くに来たモノだ…。

「ねぇーねぇー、おサムライさん、何かおもしろいお話をきかせてください」

 侍として生き侍として死んだ一人の英雄の事を懐かしみ夢想する俺をアーテのおねだりが現実に引き戻す。

 自分の事を「おサムライさん」と呼ぶ少女から請われた事により、俺はふと一つの失態に気が付いた。

 『衣食足りて礼節を知る』とは言うが、まだ目の前の親切な母娘おやこに名乗っていなかった。

「名乗り遅れましたが、俺は、サカキ・エンといいます。自らを鍛える為に故郷を離れ修行の旅をしている身です」

 流石に「転生してこの世界に遣ってきた異世界人です」とは名乗れないので、そこの部分は『真実に近い偽り』で誤魔化しておく。

「こちらこそ申し遅れました。この宿の女将で、カルミアーナです。そして、この娘は、アーティファです」

・・・なるほど、アーティファだから、愛称は『アーテ』と言う訳ですね。だとすると女将の愛称は、『おカアさん』といった所ですか。

 後にこの想像ネタが現実に絡んで女将に一本取られる事になるとは露知らず、そんな益体も無い事を考えて苦笑する俺だった。

「サカキさん、お話! お話!」

 再びアーテにおねだりされて、『御恩と奉公』という言葉に従い、ここは三十六の秘技の一つである『スペシャルトーク』を使った話の一つや二つするべきだと考えるが、如何せん異世界(?)転生初日の身の上である以上、下手な話で襤褸ボロを出す訳にもいかなかった。

 という事で冷静に今日一日の自らの体験を大まかに振り返ってみる。

① 儚くも死亡して女神(?)に導かれ新たなる世界への転生を果たす。

② 異世界(?)に転生の後、直ぐに迷子となる。

③ 運を天に任せた結果辿り着いた先で、『麒麟さん』と『鳳凰さん』という不思議な存在と出会う。

④ 迷子から脱却するべく道を歩いていたら、『何かヤバい存在』と偶々出会い、半強制的に修行を付けられボコボコにされかかる。

⑤ 人恋しくて向かった先で、異形の生物と相見え、死闘の結果これを撃ち破り勝利する。

⑥ 色々な意味で身も心もすり減らしながらも何とか街へと辿り着き今に至る。

・・・うぬぅ、我ながら中々『濃い』一日である。

①考察 『俺は神(?)に会った』←『……』(気の毒な存在を優しさに満ちた眼差しで見詰める母と娘)

②考察 態々(わざわざ)、自分の失態を語るのは自虐マゾ過ぎです。

③考察 女性や子供には一番好まれそうな話題である。

④考察 話の仕方によっては、街の外にある恐怖に無駄に怯えさせる可能性あり。

⑤考察 大切な家族を亡くしてる母娘の身の上を考えれば安易に語るべきではない話題である。

⑥考察 『感動のフィナーレ(?)』

 回顧と考察によって確認された事実に脚色を加え推敲し、そこに多少の奸智を足した結果、俺の頭の中で一つの壮大な冒険譚が生み出される。


 敬愛する祖父の死によって天涯孤独となった俺は、亡き祖父と心の師である存在との約束を果たす為に故郷を旅立ち、修行の為に遠き異国の地を目指す。

 しかし、その船旅の途中で船が大嵐に巻き込まれて転覆、死を覚悟するが運良く見付けた船の残骸に助けられ海岸にたどり着いた。

 見知らぬ異国の地であるが故に行く先が分からず人里を目指して彷徨い続け、時に心優しき聖なる獣たちと出会い助けられ、時に自分と同じ修行の旅をする剣士に勝負を挑まれ、時に侍として異形の魔物達と戦い苦戦する冒険者を颯爽と助け、そして、終に今ここへと至った。


・・・おおぉ、我ながら中々良く出来た物語である(えっへん!)

「すごいです! 大冒険です!」

「ええ、本当に凄いですね。特に『聖域』に辿り着いた上に、そこに棲む守護獣とうなんて、幸運という言葉では済まない偉業ですね」

・・・済みません、只『う』だけじゃなくその片方にチョップまでしちゃったんですが……俺。まあ、当の本人……じゃない、本鳳ほんおおとりは喜んでたみたいだし、特別な問題も無いですよね?

 それよりも俺は女将の言葉に興味を覚えてそれを尋ねてみる。

「俺みたいにその『聖域』に行ったり、そこで守護獣達と出会う事って珍しのですか?」

「えーとねぇ、『セイイキ』には、『シンジュウオウ』様っていうとっても強くて怖ーいケモノノの神様がいて、悪い人が来ると怒って食べちゃうんだよ」

・・・えっ、マジですか、ソレ?

「私も主人から聞いた話でしか知りませんが、『聖域』には、『神獣皇』と呼ばれる強大な力を持つ守護獣達の王が居て、『神の恵み』である宝を護っているそうです。そして、その守護獣の王は、悪しき心を持つ存在がその宝を奪う為に『聖域』に足を踏み入れようとすると、その者を喰い殺すと言われています」

・・・えーと、知らぬ事とはいえ、俺はそんな危険に満ちた場所で呑気に昼寝してたんですか……。

 今明かされる驚愕の事実に唖然とする俺を見て、女将は苦笑を浮かべる。

「きっとサカキさんが宝を狙う悪い人ではなかったので、守護獣も危害を及ぼさなかったのでしょうね。或いは、守護獣とは本来は心優しい生き物だと言われていますので、困っている貴方を憐れに思い情けを抱いたのかもしれませんね」

「なるほど、きっと女将の言う通りなんでしょう」

 本当の事は分からないが、少なくとも麒麟さん達が俺に対し好意的だった事は事実だったので、あの時に受けた親切は決して忘れない事にしようと誓った。

「アーテもキリンさんやホウオウさんに会ってみたいです」

「俺も叶うならもう一度逢いたいな」

 そして、ちゃんとしたお礼の言葉を伝えたかった。

「しかし、何日も飲まず食わずの状態で『天の峰』と『魔障の森』の境界を踏破し、この街に辿り着くなんて、サカキさんは余程優れた冒険者なのですね」

「?」

 以前にリフィナ達と出会った際に聞いた『マショウの森』に続き『天の峰』という名前が挙がって、土地勘が全くない俺は返答に困るが、それ以上に『何日も飲まず食わず』と『優れた冒険者』という部分に違和感を覚える。

 俺がこの世界を彷徨っていたのは、昼前から深夜前のおよそ半日位である。

 先刻の冒険譚の辻褄合わせとして船が難破し漂流した期間を含めれば、当然『何日も飲まず食わず』という事になるが、『優れた冒険者』ならちゃんと食料を確保し、彷徨う事無く普通に人里に辿りついている筈である。

 結果として考えられるのは、『天の峰』と『マショウの森』という二つの秘境(?)の境界を踏破したという事実に対する評価である事。。

 俺はある意味良い機会を得たと考え、『異国流れ』の身の上であるという自身の設定を活かし、目の前の母娘からこの世界の情報を集める事にする。

「少し前に出会った冒険者の口からも聞いたのですが、『マショウの森』とか『天の峰』とか、あと『マカイ』とかいうモノについて少し教えて貰えますか? ああ、それ以前にこの街についても良く知らないので、良ければその辺も含めてお願いします」

 まあ、正確に言えばこの世界についても全く知らないが、それを口にすると流石におかしいと思われるので、それは別の方法で調べる事にしよう。

「はい、それは構いませんが、折角の料理が冷めてしまいますので、先に食事を終えてしまいましょう」

 女将の言う通りだと思い俺は、少し冷めてしまったがそれでも美味さが損なわれていない料理をじっくりと楽しみながら食べる事にする。

 食後のデザートという扱いで縦割り状態に切って差し出された赤いゴーヤモドキは、見た目のゴツゴツ感に反し、上品な甘さと僅かな酸っぱいさを持つ素敵な味でした。


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