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(新装)・・・俺の戦いは、今始まったばかりだ!①

 懐かしい夢を見た。

 それは、二度と会えない大切な人達を懐かしむ夢。


 哀しい夢を見た。

 それは、二度と会えない大切な人を悼む夢。


 辛い夢を見た。

 それは、愚かで憐れな自分を思い知る夢。


・・・嗚呼、これが世にいう走馬灯というヤツか……


 どうやら俺はここで死ぬみたいだ。


 麻痺するみたいに重く氷のように冷たい自分の身体に戸惑いながら、ふわふわするような熱を帯びた頭の中で、俺はやがて訪れるであろう自らの死を冷静に受け止めていた。


 幼い頃に両親を亡くし、唯一の身内として親代わりとなり育ててくれた祖父母も既に他界している俺は、天涯孤独な身の上として今日最期の時を一人で迎えるみたいだ。

 それを寂しいと感じるかといえば、正直そんな事は無かった。

 それが自分に相応しい最期だから。

・・・俺の葬式を挙げてくれる奇特な方、面倒を掛けて申し訳が無いが俺の屍の顔は厚い布で覆ってください。俺のことを信じてくれたあの人達にあの世で合わせる顔が無いので……。

 俺は命の灯が消える時を間近に感じながら、懐かしく哀しい夢を見ていた。




 嘗て、とある島国に侍の末裔を自負する一人の戦士がいた。

 彼は暴君の悪政によって生じた内乱に乗じ、神の名をかざして国を掠め取ろうとした侵略者達の暴力によって虐げられる無辜の民を救う為に、単身で敵地に乗り込み義勇兵として戦い死んだ。

 彼の死が知らされた時、彼の国は『他国に対する戦争行為を禁ずる』という国法を以って、彼の行為を犯罪とし罪人として裁いた。

 後に彼が救おうとした国の混乱が『国境なき騎士団』と世界中に喧伝される義勇軍によって鎮められると、その『騎士団』を率いた大将である『騎士長』を名乗る者は、一つの碑を彼が命を落とした場所に残した。

 その勝利を祝い復興を願った碑には、弔意を籠めた一文が刻まれていた。

『この国に平穏を齎した戦いの勝利と栄光の全てを真なる正義を貫きし我が友である粟生頼信に捧げ、彼の魂が残りしこの国に再びの繁栄を取り戻す事をここに誓わん 

              国境なき騎士団団長 シキ・S・サッペンハイム』


『エン、君は本当に強く、そして不器用だ。君は孤高であろうとして孤独になる人間なのだろな。だからこそ俺は君にもっと強くなって欲しい』

 そう言って彼は困ったように笑った。

『焔、お前は本当に良い漢だ。だから自分を大切にして真っ直ぐに生きろ』

 そう言ってあの人は嬉しそうに笑っていた。

 憧れた存在を裏切った者達が許せなくて今も変わらぬ世界の身勝手さを恨み呪った。

 思い遣ってくれる存在を失ったことを言い訳にしてかたくなに自分の信念を貫くことだけに拘った。

 そして、その絶望を理由にして託された想い注がれた優しさに甘え、俺は掛け替えのない大切な存在の願いを裏切った。

・・・叶うならもう一度生き直し、今度こそあの人達に胸を張って(まみえられる自分になりたい。

 そんな身勝手としかいえない願いを抱いて自らの最後の時を迎えた。



 姓名 さかき ほむら

 享年 40才

 死因 栄養失調及び飲酒による肝臓障害での衰弱死     

 

 それは、俺が不惑の歳を迎える数日前の出来事であった。




 次に意識を取り戻した(?)時、俺は奇妙というか微妙というような空間にいた。

「ここが……あの世?」

 それは想像と全く掛け離れたモノだった。

 さらに言うなら『あり得ない』というレベルのモノである。

 そもそも『空間』という表現も不適切な場所に俺は立っていた。

 

 そこに存在するモノ

 ・ちゃぶ台(上に、ハイソな感じの抹茶茶碗が乗っている)

 ・座布団(二枚)

 ・テレビ(?)

 ・ゲーム機みたいなモノ(コントローラー付き)

 ・ゲームソフトみたいなモノ(多数)

                        以上


 『あり得ない』及び『空間という表現も不適切』と思った最たる理由は、『ゲームソフト(?)』の数とそれが占める割合である。

 一言で言うなら、『ゲームソフト(?)』が目視できる全空間の九割以上を占めているのである。

 更にもう一言を付け加えるなら、目視できない部分までを推察すると極めて百パーセントに近い数字をソレに占められている可能性すら十分にあった。

『こんにちは』

「っ!」

 天高く積み上げられた『ゲームソフト(?)』の頂きを見極めようと目を凝らしていた俺は、突然掛けられた挨拶の声に驚いて一瞬硬直する。

「こんにちは、お邪魔してます」

 正気を取り戻した俺は取り敢えず無難な挨拶を返しつつ、声の主である『彼女』に視線を向けた。

 その視線の先に居たのは、状況的にいえば相応しく、場的にいえば相応しくない正統派純和風女神といった姿をした若い女性であった。

「天照様でしょうか?」

 色々な意味での『雑学』的知識から導き出した答えに従い、俺は目の前に現れた存在に対しその正体を訪ねてみた。

『違います』

・・・うぬぅ、ハズレですか。

 正直かなりの自信があり且つ違っていた時、正解となる別の答えを持たない俺は内心で、「間違いとは言え神道の最高位に位置する名を挙げたんだし、神様、信心深き私をお助けください」と神(?)を前に神に嘆願してみる。

「失礼いたしました。しかして何れの女神様でしょうか?」

 俺は不正解による傷口が致命傷になる前に、素直に尋ねる策に打って出た。

『えーとワタシは正確には女神とかそういう存在ではありません。うーん……』

・・・えっ、じゃ何? まさか『只のコスプレ趣味のゲームオタクな男の娘です』とかいうオチじゃないですよね?

 何気にあり得そうだと思った俺は、次の瞬間、女神(?)の視線が冷たく尖っている事に気が付く。

『貴方、今、凄く失礼な事を考えませんでしたか?』

 その問いと共に女神(?)の視線が更なる鋭さを帯びる。

「はい、考えました。すみません(ぺこり)」

 俺は向けられた視線に怖じる事無く正直に答えた。

『あ、そう、それなら良い……っ! って、何を素直に認めてるのよ!』

 俺の返事に女神(?)は、ノリ突っ込み(?)っぽい反応で柳眉を逆立てた。

・・・えーとこの場合、失礼な事を考えたのと素直に認めた事のどちらを謝るべきだろうか?

『……あぁ~、もう良いわ。しかし噂に違わないというか何というか、本当、奇人とか変人とかいうレベルじゃないわね貴方。全く理解できないわ……』

・・・うぬぅ、ここは褒められたと解釈しておくべきか?

 ため息混じりに呟き呆れる女神(?)の視線に笑顔で応える俺の脳裏にふと懐かしい記憶が蘇る。

『君は幼いのに何時も悠然というか泰然としてるな。きっと将来は大物になるだろう』

 『彼』はそう言って何時ものように困ったような笑顔を浮かべていた。

 俺はそれを懐かしく感じると共に彼が自分に向け続けていた笑顔の理由に気が付いた。

・・・彼は俺の本質に気が付いて、ずっと心配してくれていたんだな。

 そう、それは俺の心の奥にある破滅的願望という名の自虐心。

 俺は年端もいかない子どもの頃からそれを抱いていたのだろう。

 ある時、俺は『冒険』という子供なら一度はする危険を伴う遊びとして独り近所の里山に繰り出した。

 そして、そこで一匹の『敵』に出会った。

 それは〈ヤマカガシ〉或いは〈ヤマカジ〉などと呼ばれる餌として食べたヒキガエルの毒を蓄えて利用する毒蛇だった。

 俺はそれが危険な毒蛇である事を祖父から教えられていながら、蛮勇と嗜虐心によって素手で捕まえようとした。

 そして、それを果たした事に興奮した俺は、手の中にある命を支配したことに奢りその命を奪って満足した。

 その話を自慢げに語った俺に対し、祖父は危険な遊びをした事を激しく怒ると共に、無為に生き物の命を奪った事を深く嘆いた。

 祖父に怒られ、それを反省するように促された俺に、『彼』はある話をしてくれた。

 それは、とある国の昔話、その国では双頭の蛇を見た者は呪われ、近い将来命を失うという言い伝えが存在していた。

 ある時、一人の男の子が双頭の蛇を見て、その呪いの為に死ぬと怯えて母親の前で泣きじゃくった。

 その男の子に母親はその蛇をどうしたのかと尋ねた。

 男の子は、「他の人がそれを見て呪われてはいけないと思い、打ち殺して穴に埋めました」と答えた。

 その話を聴いた母親は、「人の運命を定めるモノは、人間を差別する事なく正しい行いをした者を助けます。他者の為に尽くした貴方が呪われて死ぬ事などありません」と男の子を慰めた。

 そしてその後、男の子は無事に大人になって一国の大臣となった。

 その話を聴いて、「じゃあ、僕は悪い事をしたからもう直ぐ死んじゃうんだね」と言った俺に、彼はやはり少し困った笑顔を浮かべるとこう言った。

『若し、君がその罪によって何者かに命を奪われるというなら、例え、それが神と呼ばれる存在であろうとも俺が必ず護って見せるよ』

「どうして?」

 武道の師である存在の孫とはいえ、それだけでしかない自分の為に何故そこまで言ってくれるのかが解らなかった俺の疑問に対し、彼は唯一言だけ答えた。

『そうしなければ自分が許せないからだよ』

 そして、彼は最後に俺を諭すために、何時もとは違う何処か自嘲にも似た笑みで告げる。

『奪った命を償い許される方法なんて何処にも無いのだろうね。だから、例えそれを傲慢と言われようとも自分で自分を許すために、出来る全てを尽くして奪った命を贖うんだよ』

 その言葉は幼い頃の俺には理解するのが難し過ぎたけれど、彼の穏やかで優しい眼差しが、何時か解るようになればいいと語っている事だけは理解できた。


「……結局、俺は彼に心配だけさせて、彼が望んだような大物には成れなかったのだろうな……」

 そんな自らの言葉で、俺は短くも長い夢想から覚めた。

『しかし本当になんであの人は、こんな奇妙な人間をああまで気にかけて、ワタシの事なんて……っ!』

 どうやら、いつの間にか俺同様に夢想状態にあった女神(?)も自分の夢想から覚めたようである。

『えっと、本題に入りましょう』

 真顔になった女神(?)は本来のお仕事をするべく本題(?)を切り出した。


 取り敢えず立ち話もあれだと座布団を差し出された俺は、素直にそれに従い女神(?)とちゃぶ台を挟んで挿し向う。

 しかし、座った事で更に周囲から押し寄せる圧迫感が増したという事実は、目の前の存在には内緒である。

『おめでとうございます。貴方は幸運にも末期まつごの願いを叶える権利を獲得しました! つきましてはその権利を以って《**・*****》の地にて新たなる人生の一歩を踏み出してもらいます』

「えっ? 何処ですか?」

『ですから《**・*****》です。《**・*****》』

「すみません。地名(?)が聴きとれないのですが、それはどこかの外国か何かですか?」

『ええ、そう理解してもらって問題はありません。正確に言えば「異世界」みたいなものです』

「あの、『みたい』という事は異世界とは違うのですか?」

『概ね、「異世界」だと思って貰えれば良いです』

「えーと『概ね』という部分に凄く引っかかるのですがそこの所を詳しく説明してもらえますか?(ぺこり)」

『しつこい男は女性にモテませんよ(にっこり)』

 何故か逆切れ気味な笑顔を浮かべる女神(?)の態度に、俺はそれ以上の追求を諦める。

「分かりました。お願いします!」

『うっ! その物分かりの早さが逆に怖いわよ貴方』

「ありがとうございます(ぺこり)」

『……あの褒めてないわよ、ワタシ……』

 やや引き気味になる女神(?)に、俺は視線で話を先に進めるよう求める。

『まあ、良いわ。では早速、貴方の新たな人生を祝福する《ギフト》の選択と、新世界での生活設計に移りましょう。「《ギフト》の選択」と「生活設計」のどちらを先に行いますか?』

「質問されている事の意味は解るのですが、『ギフト』と『生活設計』の内容がよく分かりません。説明お願いします」

『えーと、先に確認ですが「スキル」とか「ステータス」という言葉になじみはありますか?』

「質問に質問を返すご無礼をお許しを。それは『外国語』としてですか? それとも『ゲーム的雑学用語』としてですか?」

『今回の場合は後者に当たる「ゲーム用語」としてですね』

「はい、バッチリです」

 自慢にならないが、数少ない(正確な数字としては片手の指の数で足りる程度である)友達の一人にして唯一無二の親友であった存在から、『真性のゲーマー』と太鼓判(?)を押される程度には、遊興に励んだ経験値が俺にはある。

『では話が早いですね。「ギフト」=「スキル」、「生活設計」=「ステータス等の決定」と認識して貰って良いです。では改めてどちらから行いますか?』

「生活設計からでお願いします」

『了解しました。先ず名前ですね。変更は可能ですが変更した際には、ペナルティーにより基本ステータス等が多少変化する可能性があります。これは「カルマ判定」というモノが関係していて、生前の様々な行動が影響し、主に各ステータスの高低・取得できるスキルの限定等に関わっています。ステータスは筋力・知力・精神力・体力・素早さ・器用さ・運の七つの要素で構成されますが、生前に運動を全くしなかったという人間なら、それに関する筋力・体力・素早さ等の初期設定の限界値が低くなってたり、後々の成長時に上昇し難くなっています。生前、読書を全くしなかったという場合は、知力・精神力等に大きく影響する可能性があります。それと同様、スキルに関しても生前に経験した事の有無が影響し、それによって取得できなかったり、取得できてもスキルがレベルアップし難くなってる事があります。しかし、これは飽くまで生前の行動による制限なので、新世界での努力や行動次第では救済措置が取られて、改善される可能性もあります。ここまでの説明は大丈夫ですか? 質問等あれば受け付けますよ』

「はい、では質問を。最初に『ペナルティーにより、多少変化する可能性がある』と言われましたが、それは変更すると悪い方に影響すると考えて良いのですか?」

『はい、基本そう考えてもらって良いです。しかし、場合によっては良い方に影響する可能性もあります。特に貴方の様に新たなる人生の一歩を踏み出したいと強く想う方であれば、それが良い方に影響する可能性もあります』

 女神(?)が最後に口にした一言が、俺に迷う事無き決断をさせる。

「では、氏姓は『さかき』のままで、名前を『ほむら』から『エン』に変えてください」

 嘗て『ほむら』という名前を「おかしな名前」と心無い悪童達にからかわれて泣いてた俺に、『君に良く似合う良い名前だと思うけれど、君が嫌ならこれからは「エン」と呼ぶよ』と言って慰めてくれた『彼』の優しさを蘇らせる。

 そして『彼』は言った。

『では、俺も今日から名を「よりのぶ」から「ライシン」に改めるとしよう。という事で、よろしく、エン』


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