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恋煩い  作者:
君の思い出
3/5

3 Distance between you

糸織との間に距離が出来てから一ヶ月が経った。最初の数日は、二年もクラスが違っていたにも関わらず、昼休みに何度か話しかけに来たり、メールをくれていた糸織も、俺の態度に愛想を尽かして、もう挨拶すら交わさなくなった。糸織のことを好きなのだと意識してしまうと、どう話せば良いのかわからなかった。それどころか、糸織を見ることすら恥ずかしくなってしまった。

それから毎日、どうすればいいのだろうと考えているうちに、1ヶ月が経ってしまったのだ。糸織はきっと俺が急に避け始めた訳がわからなかったと思う。そんな関係のまま、中学二度目の夏休みに突入した。

先輩が引退し、自分の代の部活の最初で最後の夏休みの練習。副キャプテンを任され、練習が楽しくて楽しくて、その時だけは糸織のことを忘れてバスケに熱中できた。夏休みが始まって一週間程はテニス部と遭遇することもなく、もしかするともう糸織と前のように話せるかもしれないという気すらしていた。しかし、そんな甘い願望はすぐに粉々に砕けた。練習を終え、くたくたになった汗臭いチームメイトと帰っている道の先から、糸織と、実咲が現れたのだ。これから練習なのだろう。糸織は実咲に笑顔を向けながら、ラケットを振る動作をしていた。しばらく歩いて俺がいることに気がつき、糸織は笑顔を失くして反対側に目を逸らして通り過ぎて行った。

俺は、何をしているんだろうか。勝手に好きになって、勝手に避け始めて、勝手に苦しんでいる。その結果、糸織に迷惑をかけている。なんてバカなやつなんだ。そう思っても、行動には表せなかった。糸織との話し方を忘れてしまったのだ。それに、糸織は俺がいなくても楽しそうだった。

その日から、楽しかった練習にも身が入らなくなった。些細なミスを繰り返し、チームに迷惑をかけることが多くなった。そのせいで俺はスタメンから外されることになり、夏休みの練習試合すら出番が減っていった。チームメイトから最初は心配の声がかけられたが、その調子が続くといい加減にしろという言葉に変わった。練習に集中しないといけないとわかっていても、頭の中は糸織でいっぱいだった。

夏休み最後の日、練習を終え、家に帰ってすぐに風呂に入った。湯船に浸かるようになったのは、中学に上がってからだった。

「湯船に入って疲れ落とした方がいいよ」

中学に上がって、毎日部活で筋肉痛になっていた俺に、糸織がそう言ったのがきっかけだった。いつも糸織は俺のことを気遣ってくれていたんだろう。きっと俺が気づいていないだけでもっとたくさんのことを、くれていたはずだ。生まれてから今まで、俺は糸織に何かしてあげられただろうか。糸織に与えられてばかりじゃないか。

「何してんだよ……」

自分への苛立ちが声に出た。行き場のない感情を拳に乗せて静かな湯を叩いた。大きな波紋が収まろうかという時、俺は糸織に会いに行くことに決めた。何を話すか、そんなことは何も考えていなかった。ただ、今のままは嫌だという強い思いが俺を動かした。

髪をろくに乾かさず、服を着て家を飛び出した。外はもう日が沈んでいて、空は雲一つなく、綺麗な群青に染まっていた。玄関を曲がって糸織の家の方へ歩こうとした時、目の前に糸織がいることに気がついた。思いもよらないことに俺は立ち竦んだ。糸織も同じ様子だった。

何か、言わないと。何か。


「髪も乾かさずにどこ行くの?」


糸織は俺の目を見て、困ったように笑った。

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