惑星トライデント
銀河を巡航速度で進む一機の古ぼけた宇宙船があった。
輸送船レディラック号である。
輸送船と言っても改造が施され戦闘もこなせる
古いが万能なタイプの宇宙船に仕上がっていた。
船長はハリー スピアーノ。
年齢は65歳だがまだまだ現役である。
船長とは言え機関士も操舵手も全てこなす。
船員など少ない船では当たり前だ。
ロマンスグレーな出で立ちで紳士的な印象が強い男だ。
乗組員はカイン マックベル。本編の主人公である。
まだ13歳の少年だが機械いじりが得意で
身寄りのない彼を船長のハリーは面倒をみていた。
もう一人と言うかもう一台と言うか乗組員と言うか
ロボットのバケット。
船の自動運転や遠隔操作もできる頼りになるやつである。
この物語はこの者たちによる大宇宙を舞台にした冒険物語である。
「ビービービービー」
やかましく船内にブザー音が響き渡る。
自動操縦で目的の星に近づいたようである。
眠そうに目を擦りながらカインは操舵室に続く通路を歩く。操舵室にもうすでに来ていたハリーに挨拶をする。
「おはようハリー…眠いね…」
「なんだ?カイン寝てないのか?また機械いじりか?」
会話を交わしながら二人は窓の外に見える惑星を眺めながらバケットを労う。
「ごくろうさんバケット。もう充電してていいぞ。」
充電はバケットにとっては食事である。
「ハイ 了解シマシタ~」
バケットはスリープモードに入る。
しかしスリープモードでもレーダー機能は働いているし、緊急の場合なども自動操縦に移行する。
「ハリーここはどんな星なの?」
カインが訊ねると眼下に広がる惑星を覗き込んだ。
「残念ながら人は住んでいない。水がないんだ。
川も海もない。岩と砂だけの惑星だな。一応トライデントって名前の惑星だ。」
そう言いながら焼きたてのバタートーストをかぶり付きながら同じものをカインに渡してコーヒーを注いだ。
「着いたらさっさと終わらせよう。遺跡は砂に埋もれてるかも知れんがすぐ見つかるだろう座標も解ってるしな。」
食べながら簡単にブリーフィングを進める。
彼等の仕事と言うか生業はトレジャーハンター。
簡単に言うと宝さがしだ。
昔話に、聞いたことがあるような迷信くさい宇宙海賊のお宝を探して旅をしている。
そうそう見つかるはずはないお宝なのだが、このハリー船長じつは昔、連合国政府の調査隊の隊長だった経歴があり引退後の為にお宝の一部を残したと言うか隠しておいたのだ。
昔話の宇宙海賊ボイドはあちこちの惑星の遺跡に上手く宝を隠していてそれを利用したハリーは全部見つけた振りをしていくつか残しておいたのだ。
残しておいたと言ってもそんなに高額の財宝ばかりではなく少しずつで楽に遊んで暮らすためには多くの惑星を巡ってお宝を回収しなければならなかった。
けれど少額ではあるがそのお陰で割りと簡単にお宝に有り付ける。少額であるから怪しまれずに済んだのだった。
今回の旅でもう3箇所目の惑星になる。宇宙船は中古の貨物宇宙船を改造して退職金と残りはローンで手に入れたのだ。
「レーダーにはなにも反応なしだな。連合国政府には見つかるわけにいかんからな。」
ハリーはレーダーモニターを見ながら、操縦はカインがしている。
惑星全体をレーダー探知できるわけではないが、一応補足範囲内には何も反応がないことを確認する。
「降下地点付近にもレーダー反応なし。大気圏突入するよ。」
「ああ…行ってくれ。」
宇宙船レディラック号は大気圏に突入していく。
かなりの重力がかかるこの瞬間は気分のいいものではない。二人とも歯を食いしばり少しの間耐える。
やがて大気圏を抜けると地表の赤茶けた地面が視界いっぱいに広がる。ハリーの言う通り岩と砂だけしかないように見える。
「進路そのまま…高度をもうちょい下げるか。その方が地表が見やすい。」
ハリーは目標地点を確認しながら指示をだす。
カインは黙って頷きながら操縦に集中する。
しばらく低空飛行をしながら目標地点に近付くと
ハリーは適当な平らな地点へ着陸するように合図する。
「あの辺がいいな。岩の影になって船も見つかりにくそうだ。」
ハリーは下に見える地面を指差しながら指示を出す。ここからはカミオンに乗り換えて遺跡を探すことになる。
カミオンとはレディラック号の格納庫に搭載された
貨物車両である。6輪駆動で作業ができるロボットアームも搭載されている。
レディラック号は惑星トライデントに着陸した。
予定の着陸ポイントに着陸をするにはしたがまだまだ荒い。着陸の振動が大きく船全体が軋む感じがする。
「おいおい…もっと優しく扱ってくれよ。俺と同じでこいつももう老体なんだからな。」
笑いながらハリーはカインの操縦を冷やかす。
「ごめんよ。おじいちゃん。」
当然これくらいで壊れる船ではない。
ジョークだと解ってカインも笑いながら言葉を返した。
「よし。バケットお前の充電と船のワープエネルギーのチャージ忘れないでくれよ。留守は任せる。
指示があれば迎えに来てくれ。」
「了解ボス。」
スリープモードになっているロボットのバケットに
指示をしながら格納庫デッキへ降りていく。
ワイヤーで固定されているカミオンのワイヤーを外してエンジンをかける。
一応船外作業用のスーツを着込む。惑星トライデントには酸素があるのだが年中砂嵐のような風が吹き荒れていて呼吸が困難であるからだ。
準備を終えた二人はカミオンに乗り込みリモコンで
レディラック号の格納庫のゲートを開ける。
「出発進行!」
勢いよく走り出すカミオン。操縦はまたカインだが
カミオンの操縦は馴れたものだ。目標地点は800メートルほど離れた地点らしい。すぐ近くだ。すぐに見えるはずの遺跡があるはずなのだが視界には何もない。
「やっぱり埋まってるか…」
目標地点らしき場所をロボットアームで掘り進んで
探すしかないようだ。目標地点の記録の誤差もあって完璧に正確ではない。こう言うことも想定済みである。
「ここら辺からあっち側へ掘ってみてくれ。」
ロボットアームの操縦をカインがやるのでカミオンの運転はハリーが変わる。ロボットアームの操縦もカインの方がうまいのである。
カミオンのロボットアームは掘り進む。しばらくの間、掘ったりエアー噴射で砂粒を吹き飛ばしたりしながら探索を進める。だがなかなか遺跡は見付からない。
「本当にここであってる?間違えてない?」
カインはハリーに聞きながら掘り進める。
そのとき何か固い反応があった。すぐエアー噴射で砂粒を吹き飛ばす。するとそこには遺跡の一部、入口の天井であろう部分が見えてきた。
「やった!あったよハリー。」
若いカインは嬉しそうにハリーに言った。
「当たり前だ。あるに決まってるさ。昔に来たことがあるんだからな。」
そういうハリーも嬉しそうだ。
「中に入れるようになるまで掘り進めるんだ。慎重にな。」
二人は夢中になって遺跡を堀続ける。
しかし同時刻、レディラック号のレーダー上に未確認な宇宙船の反応を捉えていた。