表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星くず英雄伝  作者: 新木伸
EP2「パンドラの乙女」  第二章 5000馬力の〝虎〟

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/333

虎の館へ(前編)

「ええと――3・7・5・6・4(みなごろし)、っと」


 細い指先でエレナが5桁のコードを打ちこむと、門の脇に備えつけられた小さなコンソールに灯がともった。


「おう、誰だ?」

「秘宝館の者ですけど……」


 3人を代表して、エレナが答える。


「おう、ちょっと待ちな」


 そんな声が聞こえるのと同時に、上空から何かが近づいてくる。

 複合センサーとレーザー・ガンの埋めこまれたボール状の浮遊メカだ。


 高い塀を飛びこえてきたアイ・ボールは、彼女たちの目の前まで降りてくると、ぴたりと空中に静止した。


「ちょいと調べさせてもらうぜ」


 複合センサーの一部分から、赤い光が投射された。

 ひとりずつ、頭から足の先まで撫でるようにして、帯状の光が体を走査スキャンしてゆく。


「武器は持っていないようだな。だがちょっと待て――」


 赤い光が、彼女の胸に注がれる。


「お前――名前は?」


「ジ、ジェーンよ……」


 彼女は言った。

 娼婦でいるあいだはジュエルという名前は使わない。またひとつ偽名が増えてしまった。


「ふぅん……。ところでお前、本当にあるんだろうな? Dカップ?」

「失礼ね!」


 彼女ジークは怒った。本気だった。


「まあいい、入りな――」


 鉄のきしむ音とともに、大きな門は左右に開いていった。


    ◇


「いいか、粗相のないようにしろよ。旦那の言うことにゃ、どんなことにも従うんだ。わかってんだろうな――どんなことにもだぜ?」


 廊下の先に立って歩きながら、男は念を押すようにそう言った。

 新顔(、、)の娼婦たちに、親切にも心構えを教えてくれているのだ。


「酒と料理がなくなったら、同じ階の台所に置いてある。それから赤い缶に入ってるのは、旦那専用の()だからな。おめえらは間違っても飲むんじゃねぇぞ――おい、聞いてんのか!」


「あっ、はいっ! 聞いてます」


 彼女ジークはあわてて前を向いた。


「まぁそんなに怖がるこたぁねぇよ。なにも取って食われるわけじゃねぇ。寝た子を起こすようなマネさえしなけりゃ、旦那はあれでけっこうおとなしいもんさ」


 建物の構造を覚えこむのに懸命だっただけなのだが、男はべつの意味に受け取ったらしい。


「しかし今夜は3人かよ……まあ、なんとかなるかな」

「あのぅ……どうして5人でなくちゃいけないんですか? なにか困ることでも?」


 男の言葉に触発されて、彼女ジークは先ほどからの疑問を口にした。


「困るだって? ああ――困るのは俺たちじゃねぇ、おめえらのほうだろ?」

「はぁ? わたしたちが……困るんですか?」


「まぁだめだと思ったら、早めに誰かを呼ぶんだな。壊されちまう前によ。そうしたら、姐さんに出てきてもらうからよ……。まったく! 姐さんの体を休ませてやりてぇから、おめえらを呼んでるっていうのに……。頼むぜ、おい。明日は5人以上、きちんと守ってくれよな」

「は、はぁ……伝えておきます」


 いまひとつ意味がつかめずにいたが、差し障りのない返事をしておく。

 そんなことよりも、心はリムルのことに向けられていた。この屋敷のどこかにリムルが捕らえられているかもしれないのだ。


「ところであんたら、ふたりとも美人だな。昨日までの女だちとはえらい違いだぜ」

「えっ、その……どうも」


 複雑な心境ではあるが、ほめられて悪い気はしない。


「あんた、歳は? 名前は? この仕事は長いのかい?」


 歩くエレナに、男が声をかける。


「エリーゼと申しますの。24で、もう10年にもなりますかしら……」

「こんど店に寄らせてもらうぜ。たっぷりサービスしてくれるんだろ?」

「ええ、もちろん。お待ちしていますわ」


 エレナはにっこりと男に微笑み返した。

 10年の年季という話が本当に思えてくるような、淫靡な微笑みだった。


 いくつものドアの前を通り過ぎてゆく。

 やがて男は、ひとつのドアの前で足をとめた。


「さて……と。ここが旦那の部屋だ。じゃあな、頑張れよ」


 このまま立ち去ってくれれば仕事は楽に運ぶのだが、男は彼女ジークたち3人が部屋に入るまで見届けるつもりらしい。


 あまり渋っていても怪しまれる。彼女ジークは仕方なく、ドアをノックした。か細い声で問いかける。


「すいませーん、あのぅ……いらっしゃいますかぁ?」

「おぉぅ、入れー」


 太い声が返ってきた。


 酒に酔ってでもいるかのように眠たげな声だった。

 エレナとジリオラ、ふたりの顔を順番に見つめてから、彼女ジークは意を決してノブを掴んだ。ライオンの檻に足を踏みいれる心境で、ドアを開け放つ。


 むっと、異臭が鼻をついた。


 それがなんの匂いなのか、すぐには理解できなかった。

 酒の匂いではない。料理の匂いとも違う。野獣の匂いではないかと一瞬考えもしたが、そんなものとも違うらしい。


「あら……、これってディーゼル・オイルかしら?」


 ドアの向こうに広がる大きな部屋に足を踏みいれながら、エレナは空気の匂いを嗅いだ。


「ディーゼル・オイル? なにそれ?」

「化石燃料の一種よ。ガソリンみたいなものね。昔は車の燃料に使っていたらしいわよ」


 聞いたこともない。

 ガソリンというものさえ彼女ジークは知らなかった。車といえば、何百年も昔から水素で走るものと相場が決まっている。


「あんた、娼婦のくせにもの知りだなぁ」


 まだそこにいた男が、感心した顔でそう言った。


「おーい、なにやってるぅ? はやく、こっちこーい……」


 またあの声だった。部屋の奥から聞こえてくる。


「あら、いけない。それじゃあ、またあとで……」


 エレナは男にウインクを送った。内側から、ドアをぴたりと閉じる。


「おーい、なにやってるぅ~ぃ……」

「はいはい、いままいりますわよ。お館様……」


 入口の近くに踏みとどまっている彼女をよそに、エレナとジリオラのふたりは、なんのためらいもなく部屋の奥に歩いていってしまう。


「ま、待ってよ、エレナ姉さん……」


 部屋は2間続きになっていた。

 入口からすぐに続く手前の部屋には、酒と料理が山と積まれたテーブルのほかに、絵画や彫刻、その他ありとあらゆる美術品が無造作に置かれていた。

 純金製と思われる女神像もあった。おそるべきことに等身大だ。


「おおぅ、今日のオンナたちは美人だぁなぁ~」


 奥の部屋から、幸せそうな声が聞こえてくる。

 彼女ジークはあわててエレナのあとを追いかけた。


 4、5メートルはありそうな、円形の巨大なベッドがひとつ。ゆっくりと回転しているそのベッドの上で、男は大の字になって寝転がっていた。


 大きい――。


 余裕で2メートルに達しそうな身長もさることながら、胸部の厚みがもの凄い。

 大樽の厚みを持った上半身から、丸太のごとき2本の腕がつきだしている。


 それだけではなかった。

 この男はサイボーグでもあるらしい。はだけたジャケットの胸元で、精巧なメカニズムが金属光沢を放っている。そうかと思えば、血の通った肌が筋肉を包みこんでいたりもする。顔に無精髭がはえているところをみると、完全な機械体というわけでもないらしい。半分は機械で、半分は生身なのかもしれなかった。


 男の呼吸に合わせて、胸の中央にある半球形のランプが脈動する輝きを刻んでいる。


 おそるおそる覗きこむと、男はぱちりと目を開いた。

 半開きの眠そうな目と、ばっちり視線が合ってしまう。


「おう、もうひとりいたのかぁ。どうれ……」


 巨体とは思えない身軽さで、男はベッドに起きあがった。

 パワード・スーツと同じくらいの大きさを持った手が、ぬっと彼女ジークに向けて伸びてくる。

 腕を掴まれた――と感じたときには、もう男の膝の上に抱えられていた。


「乳のほうはどうだぁ――おおぅ、こりゃいい具合だぞぉ」

「あっ――」


 見かけからは想像もできないほど繊細なタッチで、男の手が胸を揉んでくる。

 いつぞや体験した力まかせの愛撫とは、まるで別物だった。どこか体の芯のほうから、切ない感覚がこみあげてくる。


「むーぅ、手頃でいい大きさだぞぅ。86のDってとこかぁ」


 大当たりだ。

 ひとしきり胸を揉みまくってから、男はようやく彼女ジークを解放した。

 息遣いも荒いまま、彼女ジークはエレナの背後に逃げこんでいった。頬と耳たぶが、火でもついたように熱い。


「おおう、どうしたぁ? なんで逃げる? 痛くしちまったかぁ?」


 男は目をぱちくりとまばたいた。


「あらすいませんわ、お館様。この娘って、今日が初めてのお仕事なんです。だからちょっとばかり緊張しているみたいですの」

「そうかぁ、そりゃあ優しくしてやらないとなぁ」

「ええ、ですから――」


 エレナの話が終わらないうちに、男の手がにゅっと伸びてくる。


 抵抗など何の意味もなかった。

 またしても軽々と持ちあげられてしまう。今度は膝の上ではなかった。広大なシーツの海に、ぽいと投げだされる。男の巨大な体躯が、彼女ジークの上にのしかかってきた。


(「虎の館へ(後編)」に、つづく)

次回、エロいシーンは一部ダイジェストとなりまーす。

ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ