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星くず英雄伝  作者: 新木伸
EP10~12「鏡像宇宙の英雄達」 第四章

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自由への羽ばたき……

 そろそろ……、終わりだろうか?

 すっかり抵抗しなくなった二人を、冷たい眼差しで見つめながら、ジェニーはそう思った。


 ちょっとは面白かったのだけど。


 圧倒的な力量差があるのに、あがく相手をいたぶることは、けっこう楽しかった。


 あの二人。おもしろいのだ。


 戦闘宙域の近くに浮かんでいた――なんか変な人工物体をかばうような素振りをみせていた。一度など、放り投げたエネルギー球に、避けないで、わざわざ当たりにいっていたので、なにかと思えば――。進路上に、その人工物があったわけだ。


 ジェニーは自由だった。


 この宙域において、彼女が気にかける存在は、ただ一人の人物だけ。そしてその人物は、この宇宙において最強で、限りなく不滅に近い存在だった。


 どのくらいの力を持つ存在かといえば――。肉体が消滅した程度ではビクともしないほど。素粒子一個さえ残さず消滅したとしても、精神の力だけで、体を再構築して、あっけなく蘇ってくることだろう。


 よって、ジェニーが気にかける必要はない。


 そもそも――。彼女がどれだけのエネルギーを放出しようと――。たとえ体内爆弾を爆発させようと――。


 〝彼〟に対して、毛ほどの傷を与えることさえできないだろう。


 ジェニーは、なにも気にかける必要がなかった。自由だった。


 なのに、あの二人といったら――。


 人工物を気遣い、さらには――あろうことか、ジェニーの身まで気遣っているのだった。


 ふざけんな。


《来なさい――》


 人工超能力をほとんど失い、単なる物理的なアンドロイド・ボディでしかなくなった二人の、髪を引っ掴んで――、二人がなぜだか守ろうとしていた人工物のところに向かう。


 面倒だったので、相対速度を殺さず――隕石の速度で激突していった。


 脆い。脆い。脆い。構造物は紙のように、ぐしゃぐしゃと潰れた。衝撃で千切れた部分が、何万トンか、何百万トンか、漂っていったが、まだ大部分は残っている人工物の上に――ジェニーは立った。


 スペース・チタニウム製の船殻を、両脚で踏みしめる。廃船を繋ぎ合わせて作った都市は、どこもかしこも、元は宇宙船の船体だ。


 スペース・チタニウムは、宇宙最高強度とされる金属であるが、いまの高揚している彼女にとっては、アルミ箔と同じだ。


 身から噴き上がるエナジーを止めることができない。


 もうずっと――。〝あのひと〟にキスされて、長い長い眠りから目覚めてからは、ずっとイキっぱなしだった。恍惚が止まらない。生物でいえば、オルガスムスに等しいエネルギー放出が止まらない。


《エネルギーを……、抑えろ……、ドクターの計画に、支障が……》


 足下に転がしておいた二人が言ってくる。


《まだ言うの?》


 その顔を踏みつけた。なにか――胸の奥で、ちりっとノイズが走ったが、痛みにも似たそのシグナルを、ジェニーは無視することに努めた。


《そういえば――。貴方たちには、不要な〝もの〟があったわね》


 ジェニーは言った。自分の邪魔をしてくる、この二体を始末することは容易いが――その前に、やっておくべきことがある。


《――!》


 彼女がなにをするか、わかったのだろう。


 二人は死にものぐるいで抵抗をはじめた。


 ジェニーは、殴った、殴った、殴った。


 アンドロイド体にも深刻となるダメージを与えて、二人の活動を弱まらせる。


 髪を掴んで吊り上げて、自分と同じ高さになるように、相手の顔を持ってくる。


 アンドロイドは苦痛の色というものは浮かべない。だがダメージの深刻さは、表情をつかさどる制御機構に影響を及ぼして、顔や首の各所が不随意にこまかく痙攣を繰り返していた。


 それを見ていると、なぜか――胸の奥に、再びジジっとノイズが走った。ノイズの正体を突き止めたくはなかったので、彼女は同型機たちの解体作業を急いだ。


 必要な〝もの〟を抜き取って、この二人を始末さえしてしまえば、もう考えなくて済む。


 まずは片側から。鷹の翼を持つほう――〝ドーラ〟とかいう個体名を思い出してしまった。不要な情報だ。もうすぐいなくなるのに、覚えておく必要などない。


 下腹に手を突きこんだ。


 彼女たちのアンドロイド体は、単純な機械機構ではなくて、変幻自在のマテリアルがベースとなっている。ジェニーは腕のマテリアルを変化させて、同型機の体内に侵入させていった。浸食して同化させて、かき回す。


《や――、やめ、やめっ――》


 吊り上げたドーラの体が、びっくんびっくんと跳ね回る。


 かなり強引に侵食しているので、巨大な負荷がかかる。生物でいえば〝苦痛〟に近い感覚を感じているはずだ。


 ジェニーは相手が壊れようが構わない。目当ての〝もの〟を抜き取ることさえできれば――。


 あった。


 下腹部の奥――人でいうなら〝子宮〟の位置に存在する〝それ〟を、彼女はしっかりと掴んで、引きずりだした。


《やめ――!! やめて!! やめて!! やめてえええぇぇ!!》


 ドーラは絶叫した。


 体外へと、引き出した、〝それ〟は、淡い光を放つ、高エネルギーの結晶体だった。


 爆発物だ。つまりは爆弾だ。


《やめて――、やめて――、おねがい――、返して――》


 ドーラが懇願する。表情を必死に作って訴えかけてくる。アンドロイドのくせに。


 何本かのチューブで、まだ体内に繋がっている、〝それ〟を――ジェニーは容赦なく引きちぎった。


《ああああ……、ぁぁぁぁ……、…………》


 ドーラが悲嘆の声をあげる。この瞬間、ドーラは〝機雷〟ではなくなった。


 思考機雷としての出自を持つ彼女たちは、体内に爆発物を持っていなければ、レーゾンデートルを保てない。


 それをジェニーは奪い取ってやった。


 新しく手に入れた爆発物は――自分の体内に収めた。ずぶずぶと皮下に沈んでいった高エネルギー結晶が、子宮の位置に収まった。


 ジェニーはうっとりと指先を舐めた。


 これで自分の爆発力は二倍にあがった。〝機雷度〟があがった。


 そして爆発物は、もう一つある。


 ジェニーは傍らに倒れ伏す、もう一人――ミランダに、目線を下ろした。


《やめて――、やめて――、おねがい――》


 動かないボディをびくびくと痙攣させて、必死に、逃げて行こうとする。スペース・チタニウムの船殻の上をのたうって、まるで芋虫のようだ。笑える。


 ――痛い。心のどこかがノイズを発する。


 それを早く消し去るために、ジェニーはミランダも、その手に掛けた。


 爆発物を抜き取る。泣こうが喚こうが、やめない。


 三つの爆発物を、体内の子宮の位置に収めると――。もの凄い自己実現を感じた。


 わたしは、いま――機雷だ。ものすごく機雷だ。激しく機雷だ。もはや機雷以外の何物でもないといえる。


 そして〝あのひと〟は――。優しくないひと。容赦のないひと。理性のないひと。目的のためなら手段を選ばない、強いひと。


 あのひとは、きっと――。わたしを――使ってくれるひと。爆発させてくれるひと。失いたくないから、愛しているから、爆発させない――なんて、わたしの存在意義を否定しないひと。


 そのはず。


 そういうひとがいる世界を求めて、この世界に接続した。


 薄暗い格納庫で泣き続けていたあの子の面影を持ち、ドクターのように苛烈なまでの目的意識と、強い意志を持ち――。そういうひとのいる世界を、無限分の一の確率の中から選び取った。


 ジェニーは、自分がなにをしたのか。この世界がなんだったのか。すべてを思い出していた。そして理解した。


 ふふっ。ふふふっ……。


 そう。あのひとのところに行かなくちゃ――。


 足元でまだうごめいているドーラとミランダの二人を残して、とどめを刺してやる慈悲さえも忘れて――。


 ジェニーがこの場を立ち去ろうとした、その時――。


『ジェニー!』


 聞き覚えのある声が、電波帯域で飛びこんできた。

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