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星くず英雄伝  作者: 新木伸
EP10~12「鏡像宇宙の英雄達」 第四章
330/333

脱出

「さあ――、ジークさま。そのまま――、前に――」


 ラセリアの繊手によって、誘われる。


 彼女の両腕は、ジークの背中に回されていた。両脚のほうも、がっちりと腰を挟みこみ、背中側でクロスまでしている。


「さ。ジークさま。早く。焦らすのはもうおやめになって。もうわたくし。待ちきれませんの」


 間近から甘い声を囁かれる。彼女が主人のはずなのに、呼びかたが〝様〟とかになっている。


「ジークさまのそこ、もう凄いことになっておりますわよ?」


 指摘される。自覚はある。十六年の人生において未体験ゾーンだ。


 ジークの衣服は、いつのまにかすっかり剥ぎ取られていた。メイドたちの手によって、気づかないうちに一枚ずつ持ち去られ、もうほとんど半裸である。


 メイドたちも半裸だった。


 ジークの背中に覆いかぶさるように、数人がかりで、ラセリアに向けて、押さえつけにかかる。


 ジークは踏ん張って耐えてはいた。だがどれだけ頑張ってみても、数人がかりの少女たちの裸体の重みには抗しきれず……。


 もう、先端が、熱いぬかるみに埋まってしまいそうだ。


「さ――、ジークさま。卒業▽いたしましょう▽」


 ラセリアが、かき抱く腕と脚とに、力を込めてきた。


 ジークは、いよいよ――。


 ――と。その時だった。


 部屋全体が揺れ動くほどの衝撃がやってきた。


「きゃあっ!」

「なんだなんだっ――!?」


 宇宙生まれで、宇宙育ちのジークは、〝地震だ〟などとは思わない。なにかの事故か攻撃か。


 現在いる場所は、宇宙であり、人工の構造物だった。都市だった。大小さまざまな廃船を繋ぎ合わせて巨大構造物にした、このイカダ都市は――本当に〝都市〟と呼べるサイズを持っている。それが揺れ動くとなると――。相当の――。


 考えているうちにも、また衝撃がやってくる。


 ジークは腕の中のラセリアをかばった。悪女であっても、いま襲われかけていたところでも、彼女は女性だ。守らなくては――。


 揺れはしばらくは続いた。


 そして一段落したときには、ジークの周辺にあった女体の群落は、すっかりほぐれてしまっていた。


 香でぬるぬると滑るおかげで、揺れの続いているあいだに、あっちに一人、こっちに二人――と、集団は完全に生き別れになっている。


 ラセリアの体を抱き締めて守っているのは――ジークだけだった。


「あ――。ごめんっ」


 気がついて、すぐに離れる。


 裸の胸が離れてゆく感触は、名残惜しくはあったが――。


「え? あ――。あのっ。あ、ありがとうござ……います」


 ラセリアは全裸を恥じるかのように、胸と下腹を隠していた。


 顔をうつむかせて、つっかえながら、そう言った。


 妖艶な魔性の笑みしか、これまで見たことがなくて――。彼女も年頃の女の子で――。人間なんだ――と。ジークはそう思った。悪女で毒婦ではあるけれど。


 ジークはすっくと立ちあがった。


「じ、ジーク様っ? ――ど、どちらへ?」

「船に戻る! 俺は船長――じゃなくて! 副長だからな!」


 そこらに落ちていた自分の服を拾い集めて――。ジークは部屋を飛び出していった。


    ◇


「ハイ! 操縦系、立ちあがったわよ――そっちどう! カンナ!?」

「アイアイ。だいじょうぶだワサ。――規格は一緒だ。しかもフル調子で完璧だ」

「機関……ノー・プロブレム」

「|《にょろQ》とのデータリンク完了しましたわ。これで連携動作が可能です」


 ブリッジの各所から声があがる。ブリッジ中央のキャプテン・シートに座った黒ジークは、きょとん、と見回した。


「なんでおまえら……、来てんだ?」

「一人じゃ飛ばせないでしょ。この船」

「いや。飛ばせないこともない。ずっと一人で飛ばしてきたが……」

「あたしらいたほうが、いいっしょ」

「いや……。なんでおまえら、そんな、自分らの船みたいに……、できるんだ?」


 アニーは、にやっと笑いを浮かべた。


 黒ジークが、呆然としている様は、おかしかったが……。いまはやるべきことがある。


 アニーは黒ジークと直接、こちらの船にきた。残りの三人はアニーの現在位置を調べたのだろう。呼んでもいないのにやって来た。なぜ、などとは、問わない。いちいち言葉を交わさなくてはならないような間柄ではない。


 高性能なセンサーが、すべて生きてるこちらの船――《ブラックドレイク》に移って、衝撃の原因がはっきりとした。


 なにか三体の高エネルギー体が戦っている。イカダ都市を破壊しようとしているのではないようだが、戦いの巻き添えで、被害はどんどん拡大していっている。それを止めなくてはならない。


「エレナさん。|《にょろQ》に連絡して――二隻で戦闘中の三体を挟むように移動」

「おい。俺の船だぞ」

「じゃあ……、指揮してよ、船長?」


 アニーはシートのバックレスト越しに、振り向きつつ――そう言った。


    ◇


「遅くなった!」


 ジークはブリッジに駆けこんでいった。緊急事態だったせいか、ブリッジは全員揃っていないようだった。だがそういうときのための正副要員制度。各席には、どっちか一人は座っている。


「え? あの? ――どっちで?」


 船長席に座るセーラが、なにか、幽霊でも見るような目をして――ジークを見ている。


「は? 呆けてんじゃないぞ! 出航準備は出来てるか?」

「できてるよ。エンジンもあたたまってる」


 答えてきたのは姉のかわりに妹のほう。


 ジークの副長席――実質〝船長席〟――に座っていたテレサが、小さなお尻を、ぴょんと持ちあげた。


 あちこちの席を狙っていたテレサであるが、いない間に、ジークの副長席まで占領されていたとは――。


「テレサ――座っとけ」


 ジークはテレサの肩を押し下げると、お尻をシートに戻させた。そして自分自身は、本来アニーがいるはずの操縦士席に行く。


「――しっかりセーラをサポートしろよ」

「やった!」


 テレサの声を背中で聞きながら、ジークは苦笑いをした。


 操縦桿を握る。アニーの好みで〝バリ固〟に調整された、遊びのまったくない鋭敏すぎる操縦系を、再調整している暇などないので――そのまま使いこなす。


「航法データ来てます」


 通信士席のアマリリスが言う。


「――当船と連携を希望する船が一隻。船名は――《ブラックドレイク》?」

「なんですの? 知らない船ですわね。役に立つのかしら」


 船長席でセーラが言う。口では毒を吐きながらも、手ではやることをやっている。コンソールを叩いて、データにアクセスをかけている。背中についている目で、ジークはそれを感じていた。


 そして前のほうについている二つの目では、操縦士代行のための各種チェックで忙しい。


「情報士――アリエルさん? 戦闘している三体のデータの詳細は、まだ、出ないのですか。なにやっているんですの!」

「えっと。あのその。センサーの分解能の関係で――」

「要点をお言いなさい。出るのか出ないのか。出るならいつまでに?」

「あのっ――〝アレ〟を! アレを使ってもいいですかっ!? 一部動かせるようになったから――、光学干渉計として使えば――」

「許可する」


 ジークは言った。アリエルが言う〝アレ〟とはなにか、わかったからだった。


「ちょ――ちょっ!? アレってなんですの!? アレって!?」


 アリエルは目を閉じていた。近隣の銀河ネットワークの一部分に接続しているのだろう。


「画像。――出ます」

「えっ! もうですのっ!?」


 天井に並ぶモニターに映像が出る。


 間近からアップで撮ったかのような、鮮明な画像が映し出される。


「えっ――? ジェニー――?」


 テレサが息を呑んで画面を見つめた。


 自分の親友がそこに映っている。真空中に素肌をさらして高機動戦闘をやっている。そして背中からは、光の翼を生やしている。


 髪の毛の色こそ、漆黒であったが――それは確かにジェニーだった。


「じ、ジェニー……?」


 テレサは口をぽかんと開いていた。


「とりあえず――発進するぞ!!」


 コンソールのチェックを途中で投げやって、ジークは、船を発進させた。

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