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星くず英雄伝  作者: 新木伸
EP10~12「鏡像宇宙の英雄達」 第四章
328/333

アニー、マジぴんち

 船内を探して、見あたらず――。


 乗降ゲートのところにいた年少組に聞いて、外に出て行ったことを突き止め、あんにゃろ、と、つぶやきながら、アニーは街へと出た。


 港湾ブロックを出て、生産区か、居住区か、歓楽街かと、三つの分岐路のところでは、迷うことなく、一つの方向に進んだ。


 歓楽街だ。一択だった。


 最初にあいつを見つけた酒場に、まず向かおうとしていたら――。


 ビンゴ!


「なーにやってんのよっ!!」


 見つけたその背中に、アニーは跳び蹴りをかました。――はずだった。


 だが、足首を掴まれて、ぶらーんと、吊り下げられている。


「おまえは口で話しかける前に、脚で蹴るのか」


 男は腕一本で、アニーの足を掴んでいた。体を逆さまに宙吊りにしている。


 一Gの環境下だ。アニーは痩せてはいるものの、それでも体重は四十キロは超えている。それを片腕で――。こいつって、意外と――力持ち。


「って! ――いつまでぶら下げてるのよ!」

「こっちは弱いほうの腕だ」


 にやりと笑い、ぱんぱんと肩を叩く。


「きーてない!」


 自由になる片足で、アニーは男の顔を蹴った。だが簡単にかわされてしまう。


「ふむ。いい光景だな。――もっと蹴ってこい」

「ちょ――!? 見るなーっ!」


 あろうことか――スカートの裾を押さえている自分がいた。アニーの穿いているものは、かなりのミニスカートだから、下着は当然、丸見えだ。


「隠すな。見せろ。――見られて減るものでもないだろう?」

「ば――ばかっ! へ、減るっ!」


 あれれっ? ――これっていつも、ジークに対して言ってることなのでは? なんであたし、言われてんの?

 見られて減るようなものでなし、見たけりゃ、ぱんつでも下着でもショーツでも、見ればいいでしょ。――というのが、クールな不良少女アニーさんの口癖だったはず。


 なんでそこらの小娘みたいに、真っ赤になって、スカート押さえて、半ベソかいてんの?


「――あ? おい。泣いてるのか?」


 ようやく地面に下ろされた。


 下ろされたのは路地の奥だ。逆さまにされて運ばれているうちに、こんなところまで連れこまれてしまった。


「――ンなわけないでしょ! あたしを誰だと思ってんのよっ!!」


 立ち上がりざま、アニーは叫んだ。


「俺の女」

「誰がだっ!」

「じゃあ、かわいい女」

「だっ、だっ、だっ――だれがっ!!」


 か、か、か――かわいい? 誰が! あたしが!


「まだ不満なのか。なら――ヤリたい女ってことで、どうだ?」


 男は壁に手を突いた。頭のとなりに手を突かれて、一方向にしか逃げられない。なので、そっちに逃げようとしたら、もう片方の手も、どん――と壁に突かれた。


 もはや、どちらにも逃げられない。


「な、な、な、な――なによ、やるの!? やるわけっ!!」

「ああ。ヤろうぜ」

「ばかっ!! その〝ヤる〟じゃ、なあぁぁぁーい!!」


 話している間に、いつのまにか、あいつの膝が、脚を割り入ってきていた。

 やだ。ばかっ。濡れるっ。


「いいじゃないか。セーラとは違って、はじめてってわけでもないんだろ?」

「あたしはヴァージンだっ!!」

「うそつけ」


 一言のもとに否定された。うう……。悔しい。膜あるだけでヴァージンだとか、さすがに、自分でも、ちょっと苦しいかなー、とは思っていたけれど。


「ヤらせろよ? な?」


 男が顎の下に手を添えてくる。アニーの顔を上に向かせ、唇を――。


 アニーは避けた。こっちはだめ。ぜったいだめ。


「なぁに? そんなにあたしと、ヤリたいわけ?」

「ああ。ヤリたい」


 男はずばりと言う。なんの臆面もなく言う。真顔で言う。


 これほどまでにシンプルに求められて、悪い気がしようはずがない。ましてや、男は――ジークと姿も顔も声まで一緒なのだ。


 わかってはいても、つい、錯覚してしまいそうになる。


 もしも、〝あいつ〟から、こんなふうに、ストレートかつ直接的に求められていたなら――。アニーには、きっと、はぐらかすことも、拒むこともできないだろう。


 てゆうか。むしろ。あたしが犯す。


「あんたがヤリたいっていうのは、すごくよくわかるんだけど……」


 お腹のあたりに押しつけられる固い物体を意識しながら、アニーは言った。ほんとカッタい。めっちゃカッタい。信じらんないくらいカッタい。


「……あたしはべつに、ヤリたいわけでもないのよね」


 アニーは言った。強がってみた。


 ――と。


 男の手が、スカートの中に突っ込まれた。


「ちょ――!! ちょ――!! ちょおおっ!! ばかあっ!」

「おまえだって発情してるくせに」


 〝証拠〟を掴んで、男は自信満々にそう言った。


 ばか。ほんとばか。死んでいい。


「でも! だめなの! ほんとだめなんだってば!」


 胸に手をついて押しのける。やだ。けっこう胸板の筋肉が――。


「おまえだって。もう我慢が効かなくなってるんじゃないのか?」


 それはそうだけど。いや――そんなことないっ。


 男は、どうにも止まりそうにない。


 こんな表通りから数メートル入っただけの場所で、本気で性行に及ぼうとしている。


 ――てゆうか! もうベルト外してるしっ!?

 そういや。こいつ。影武者やってる何日間か。ずっと禁欲してたっけ? 一人エッチするようなタイプじゃないし。してたらマジ笑えるし。


 ということは。何日も女を抱いていなくて。飢えてて。しかも溜まってて――。


 ヤバイヤバイヤバイ。犯されるうぅっ!?


「舌噛んで死ぬから!」

「舌っていうのは――これのことか?」


 口に指先を突っ込まれた。舌を挟んで、しごかれる。


 やだ。舌だけでイッちゃいそう。


「あの――」


 少女の声がした。

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