アニー、マジぴんち
船内を探して、見あたらず――。
乗降ゲートのところにいた年少組に聞いて、外に出て行ったことを突き止め、あんにゃろ、と、つぶやきながら、アニーは街へと出た。
港湾ブロックを出て、生産区か、居住区か、歓楽街かと、三つの分岐路のところでは、迷うことなく、一つの方向に進んだ。
歓楽街だ。一択だった。
最初にあいつを見つけた酒場に、まず向かおうとしていたら――。
ビンゴ!
「なーにやってんのよっ!!」
見つけたその背中に、アニーは跳び蹴りをかました。――はずだった。
だが、足首を掴まれて、ぶらーんと、吊り下げられている。
「おまえは口で話しかける前に、脚で蹴るのか」
男は腕一本で、アニーの足を掴んでいた。体を逆さまに宙吊りにしている。
一Gの環境下だ。アニーは痩せてはいるものの、それでも体重は四十キロは超えている。それを片腕で――。こいつって、意外と――力持ち。
「って! ――いつまでぶら下げてるのよ!」
「こっちは弱いほうの腕だ」
にやりと笑い、ぱんぱんと肩を叩く。
「きーてない!」
自由になる片足で、アニーは男の顔を蹴った。だが簡単にかわされてしまう。
「ふむ。いい光景だな。――もっと蹴ってこい」
「ちょ――!? 見るなーっ!」
あろうことか――スカートの裾を押さえている自分がいた。アニーの穿いているものは、かなりのミニスカートだから、下着は当然、丸見えだ。
「隠すな。見せろ。――見られて減るものでもないだろう?」
「ば――ばかっ! へ、減るっ!」
あれれっ? ――これっていつも、ジークに対して言ってることなのでは? なんであたし、言われてんの?
見られて減るようなものでなし、見たけりゃ、ぱんつでも下着でもショーツでも、見ればいいでしょ。――というのが、クールな不良少女アニーさんの口癖だったはず。
なんでそこらの小娘みたいに、真っ赤になって、スカート押さえて、半ベソかいてんの?
「――あ? おい。泣いてるのか?」
ようやく地面に下ろされた。
下ろされたのは路地の奥だ。逆さまにされて運ばれているうちに、こんなところまで連れこまれてしまった。
「――ンなわけないでしょ! あたしを誰だと思ってんのよっ!!」
立ち上がりざま、アニーは叫んだ。
「俺の女」
「誰がだっ!」
「じゃあ、かわいい女」
「だっ、だっ、だっ――だれがっ!!」
か、か、か――かわいい? 誰が! あたしが!
「まだ不満なのか。なら――ヤリたい女ってことで、どうだ?」
男は壁に手を突いた。頭のとなりに手を突かれて、一方向にしか逃げられない。なので、そっちに逃げようとしたら、もう片方の手も、どん――と壁に突かれた。
もはや、どちらにも逃げられない。
「な、な、な、な――なによ、やるの!? やるわけっ!!」
「ああ。ヤろうぜ」
「ばかっ!! その〝ヤる〟じゃ、なあぁぁぁーい!!」
話している間に、いつのまにか、あいつの膝が、脚を割り入ってきていた。
やだ。ばかっ。濡れるっ。
「いいじゃないか。セーラとは違って、はじめてってわけでもないんだろ?」
「あたしはヴァージンだっ!!」
「うそつけ」
一言のもとに否定された。うう……。悔しい。膜あるだけでヴァージンだとか、さすがに、自分でも、ちょっと苦しいかなー、とは思っていたけれど。
「ヤらせろよ? な?」
男が顎の下に手を添えてくる。アニーの顔を上に向かせ、唇を――。
アニーは避けた。こっちはだめ。ぜったいだめ。
「なぁに? そんなにあたしと、ヤリたいわけ?」
「ああ。ヤリたい」
男はずばりと言う。なんの臆面もなく言う。真顔で言う。
これほどまでにシンプルに求められて、悪い気がしようはずがない。ましてや、男は――ジークと姿も顔も声まで一緒なのだ。
わかってはいても、つい、錯覚してしまいそうになる。
もしも、〝あいつ〟から、こんなふうに、ストレートかつ直接的に求められていたなら――。アニーには、きっと、はぐらかすことも、拒むこともできないだろう。
てゆうか。むしろ。あたしが犯す。
「あんたがヤリたいっていうのは、すごくよくわかるんだけど……」
お腹のあたりに押しつけられる固い物体を意識しながら、アニーは言った。ほんとカッタい。めっちゃカッタい。信じらんないくらいカッタい。
「……あたしはべつに、ヤリたいわけでもないのよね」
アニーは言った。強がってみた。
――と。
男の手が、スカートの中に突っ込まれた。
「ちょ――!! ちょ――!! ちょおおっ!! ばかあっ!」
「おまえだって発情してるくせに」
〝証拠〟を掴んで、男は自信満々にそう言った。
ばか。ほんとばか。死んでいい。
「でも! だめなの! ほんとだめなんだってば!」
胸に手をついて押しのける。やだ。けっこう胸板の筋肉が――。
「おまえだって。もう我慢が効かなくなってるんじゃないのか?」
それはそうだけど。いや――そんなことないっ。
男は、どうにも止まりそうにない。
こんな表通りから数メートル入っただけの場所で、本気で性行に及ぼうとしている。
――てゆうか! もうベルト外してるしっ!?
そういや。こいつ。影武者やってる何日間か。ずっと禁欲してたっけ? 一人エッチするようなタイプじゃないし。してたらマジ笑えるし。
ということは。何日も女を抱いていなくて。飢えてて。しかも溜まってて――。
ヤバイヤバイヤバイ。犯されるうぅっ!?
「舌噛んで死ぬから!」
「舌っていうのは――これのことか?」
口に指先を突っ込まれた。舌を挟んで、しごかれる。
やだ。舌だけでイッちゃいそう。
「あの――」
少女の声がした。