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星くず英雄伝  作者: 新木伸
EP10~12「鏡像宇宙の英雄達」 第四章
316/333

SSSの井戸端会議

 ブリッジの片隅では、アニーだけでなく、エレナとカンナとジリオラとリムルと――『SSS』の人間ばかりで固まっていた。


 遠くから、マギーがうさんくさそうな目を向けている。その目線から隠れるようにして、皆でこそこそとなにかを話しあっている。その秘密の会合に、アリエルも『SSS』の社員として出席することにした。見れば――天井からファイバーが一本下がってきている。


『メモリィちゃんも、いるれすよ』


 明るく響き渡る声に、しいっとやって、アニーは暗く秘密っぽく微笑んできた。アリエルは首を抱えこまれて、円陣に引っぱりこまれていった。


「オマエさん、っとに、天然だわナ。触らぬ神に祟りナシっていうだロ。ほっとけほっとけ」

「けどセーラさんに、心配いらないって――」

「あれはね。ジークを心配してるんじゃなくって、自分の心配してんの」

「えっ? ええっ?」

「人の心配できるほど、余裕ないんだってば」

「そうね。まだ愛ではなくて、恋でしかないのね」

「えっ? 愛って? 恋って?」

『アイとは捧げることなのれす。与えるものなのれす。コイとは求めることなのれす。奪うものなのれす。メモリィちゃんはすべてを捧げていて、なんにも求めてないれすから、それは百パーセント純粋なアイなのれす』

「よくわかんないです」


 アリエルは言った。データライン直結してくれたら、わかるのに。メモリィの言葉は、いつもどこか変なのだ。


「だーら、ほッとけっての、ほっとけほっとけ」


 アニーとエレナとカンナと、よってたかって丸めこまれる。


「はぁ……」


 アリエルは納得しないまま、うなずいておいた。


「ところで……。なんの話、してたんですか?」

「セーラじゃ役者が足りてないって、そーゆー話っ」

「役者が……足りない?」

「ジークがブリッジにいないと、しまらないね――って、アンタ、そう思わない?」

「あっ。思います」


 アリエルは同意した。それについては、激しく同意だった。


 しかし肩越しにセーラを見やると、まだ爪を噛んでいて――。セーラが気の毒に思えてきてしまって、アリエルはフォローを入れることにした。


「でも仕方ないですよう。だって――、ジークさんと比べちゃったら――。だって、ジークさんって、最高の船長さんなんですし」

「は?」


 アニーに変な顔を向けられる。アリエルは説明を加えることにした。自分がわからないときには、相手はたいてい説明してくれないものなのだけど、自分のほうは説明をしていこうと、そう思う。


「ですから、ジークさんより、いい船長さんって、宇宙のどこにもいやしませんよね? いくらセーラさんが優秀だからって、それと比べられたら――」

「なに? なんで? だってジークはノビタで。――えっえっ? 最高? なんで?」


 不機嫌にも聞こえる声が出てくる。アニーは激しく混乱しているようだった。


「ジークはねっ。カッコいいんだよっ」

『メモリィちゃんもそう思うのれす。らのれ、すべてを捧げているのれす』


 リムルとメモリィの援護射撃を受けて、アリエルは自信を持ち直した。


 今回は、自分は変なことを言っていない。


「こりャいいや。ノビタが出世したもんだ。言うに事欠いて、銀河最高の船長だッて?」


 カンナがそう言う。


 これで三対二。アリエルたちの意見はまだ多数派だ。


 ――と、エレナがこっそり手を挙げていた。


「わたしも……、お兄ちゃん、カッコいいと思うから……」


 なぜか、ばつの悪そうな顔で言ってくる。なんでだろ。


 エレナの隣では、ジリオラも、こくりと深くうなずいている。


「信頼できる」


 これで五対二。圧倒的優勢だ。


「えっえっえっ?」

「あっテメーらこの裏切りモン」

「裏切っていないんだよ。ジークは最初からずっとカッコいいんだよ」

「んだヨ、私ら、少数派かよ」

「あの。……じゃあ、ジークさん、カッコよくて、最高の船長さんだってことで……、いいでしょうか?」

「よかないけど……、まあ、いいんだけど」

「多数決なのかヨ。ま。いいけど」

「しかしセーラのやつもさぁ。あいつに頼りすぎるからいけないのよね。甘えてんのよね。きちんと一人でやれるくせに」

「甘えるのはいけないと思います」


 アリエルは断固として、そう言った。


「お兄ちゃんに甘えるのは、それはいいとして――」

「いいんですかっ」

「――船長がぐずぐずになっちゃっているのは、船内の雰囲気にも、たしかによくないわよねぇ……。こんなに浮わついていたら、なにかあったときに困るし。でも花瓶の刑ってどういうのかしら?」

「なんで甘えるほうは、いいのよ?」

「アニーも甘えてみればいいのよ。もっと素直に」

「ば、ばっ――ばっか! 馬鹿そんなの。なんであたしが」

「カンナもね」

「ナッ、ナッ、ナッ――なんで私マデ」

「なんで甘えるのはいいんですか? どうやって甘えたらいいんですか」

「うるさい。黙りやがれ」

「コロスぞ」


 アニーとカンナと、二人して怖い顔して言ってくるので、アリエルはぶるぶると首を振って縮こまった。


「ど……、どーせ船も動いてねーから、どーでもいいんだけどサ。ミロ、ほれ、尻叩きできるヤツがいねーもんだから、テレサのやつなんか、図にノリやがって」


 ブリッジの反対側から聞き耳を立てているテレサは、隙あらば、こちらにやってこようとしていた。


「あんたもマリリンの手綱、しっかり引いときなさいよね。あの子ってば、最近、船の中で自分が二番目だって、絶対そう思ってるから」

「アタマの良さじゃ、その通りだろうサ。――ま。私がいるから、船のナカでも、宇宙のナカでも、二番目以下が、永久決定だがナ」

「あの。セーラさんの精神安定の件なんですけど……」


 アリエルは手を挙げて、皆の視線を引き寄せた。ずっと考えていたことを、いま、発表する。


「あの。私、思ったんですけど……。副長席に、ジークさんのぬいぐるみでも置いておいたら、どうでしょうか? セーラさんの膝の上に置いたほうが、もっといいかと思うんですけど」

「アホ。却下」

「でもでも。私、それで、すこし……、だいぶ、落ち着きましたけど。前、惑星連合に置き去りに――いえ、出向になってたとき」

「うわっ。マジ? 痛っ」

「そりゃ! アニーさんは――! ……ずっとジークさんと一緒でしたけど。私は……、ずっと、ひとりだったんですよ?」


 言っているあいだに、どんどん恥ずかしくなってきて、アリエルは黙った。


「あ、あたしだって……、あいつと、離れてたことくらい……、あるわよ。一ヶ月……だけど」

「一ヶ月だけじゃないですかあ――私なんて二ヶ月もっ」

「あたしのときは今生の別れかと思ったの! あんたなんか、ただの置き去りってだけじゃない」

「置き去り……だったんですか? あれって? やっぱり?」

「あ。いや。ごめん。ほんとごめん」

「まァそれはいいからこのコムスメども」

「そ、そういやさァ……。ヌイグルミよりもいいヤツを見かけたんだけど。このあいだ、街でさぁ――」


 急に重たくなってしまった場の空気をなごませるように、アニーが軽い調子で話しはじめる。


「――あいつと、超そっくりのやつ、見かけたんだけど」

「あいつってジークさんのことですか?」

「ほかに誰がいるの?」


 聞かれてうなずく。そりゃそうだ。


「ジークさんの……そっくりさん?」


 と、そうつぶやいてみて、アリエルは首を傾げた。そっくりさんというからには、Ω人のはずだが――。そもそも数が多くないのだ。Ω人は。|《にょろQ》のクルーを除くと千人くらいしかいなくて、全員のきちんとした名簿ができているぐらいなのだ。


 名簿の中に、歳や顔つきが似ている人は――頭脳のデータバンクを検索してみたが、やっぱりいない。そもそもオジサンばっかりで、若い男の人自体が、ほとんどいない。


「それってやっぱりジークさんじゃ、ないんですか?」

「まっさかぁ。だって口説いてきたのよ? あたしのこと」

「ええっ」

「あと髪の色も違ったし。ジークってばブラウンでしょ。でもあいつは黒髪だった」

「髪は、染めた……、とか? あと、えっと、えっと、あの、えっと、アニーさんを口説いたりしてきちゃったのは、なにかわるいものでも食べちゃったとか」

「あんたあたしに喧嘩売ってる? エンピツと空き缶がいい? それとも花瓶になってみたい?」

「いえあの。ごめんなさい」

「あんたの場合、どうしても本人だってことにしたいらしいけど。ありゃ別人よ、別人」

「そうなんですか……」


 アリエルは肩を落とした。考えてから、アニーに訊く。


「ダッシュついてました?」

「ついてない」

「このバカメ――っ!!」


 突如、カンナが大声をあげる。


「なっ――なによ」

「カンナさん。カンナさん」


 怒鳴り声がアニーに向けられたものだと知って、ほっとしたアリエルだが、ブリッジの注目を浴びてしまっていることに気づいて、カンナを抑えにかかった。


「――なんでソイツ、引っぱってこなかッたんだヨ。そんなダイジなヤツ」

「大事って……、な、なんでよ」

「おまえだって、まさか他人のそら似だって、ホントにそう思ってるワケじゃねーんだロ?」


 小声に返って、カンナが言う。


 六人の女と一本のケーブルとは、頭を寄せ合うようにして話しこんだ。ますます怪しい一団である。


「いや……、その……、まあ……ね。銃とかも、おんなじやつ、持ってたし」

「ラセリアのニセモノもいたんだしヨ。ジークのニセモノだって、いたって不思議はねーわけサ。私らのニセモノだって、どこかにいるカモよ?」

「どうして来てもらわなかったんですか?」


 アリエルはアニーにそう訊いた。


「そうサ。――口説かれるなり、たらしこむなり、なんなりしてヨ」

「や――、だって、ほら、あたし、いまその……、つまり、バージンだしぃ。なんかあったら、なんかあっちゃうじゃん?」

「いいじャン。なんかあったッて。べつに減るもんでなし。男なんか、いっぺんヤッちまえば、あとは言いナリだろうが」

「いや、そうだけど。……やっぱ、困るし、それは、ちょっと」

「なんかってなんですか? やるってなにを?」

「アニーがやらないなら、わたし、行ってきちゃおうかなぁ~。ねえどこにいたの? その黒いお兄ちゃん」

「あの。私、行ってきましょうか。ジークさんに似ている人を見つけて、お願いして、来てもらえばいいんですよね?」


 よくわからないなりに、遅れを取ってはならないと、アリエルは口を挟んだ。がんばって自己主張してみた。そのくらい自分にもできるだろうと思った。


「ううう……。どーしても、連れてこないと……だめ?」

「アニーがやらないなら、ぼく、やっちゃうよー。ジルも行く?」

『メモリィちゃんも、やるれすよ。られかカラダ貸してくださいなのれす』


 リムルとメモリィ、二人もそう言っている。


「だめっ――だめっ! でもっ……。やっぱ、だめ」


 二人のことを牽制しつつ、アニーは踏ん切りがつかないようだった。なんで自分だけは無視されてしまうのか。


「ココがいわゆるパラレルワールドのひとつだッつーコトは、オマエさんにだって、わかってンだロ?」

「そりゃ。まあ……」


 アニーがうなずく。


「パラレルワールドだったんですか」


 アリエルも言ったが、誰も顔を向けてくれない。


「しかし単なる時間分岐の世界線の一つとしちゃぁ、出来すぎなんだヨ。それこそ狙ったように、見事に配役が逆転してるワケだ。あのラセリアが悪で――」

「――黒いお兄ちゃんがいて」

「そうそう。ノビタじゃないヤツな。オンナを口く甲斐性のあるヤツな。よし――ソイツのこと、いま、デビルジークって命名しとこうぜい」

「デビル……って、悪い人なんですか?」

「ワル……には、見えなかったなぁ」


 アニーが答えてくれた。やった。


「おッ――なんだなんだ。たらしこまれてきたのは、ナンダ、おまえさんのほうかヨ?」

「会えばわかるよ」


 カンナがからかうが、アニーは短く答えただけだった。


「ま……。こっちの世界でも重要人物だってことは、間違いねーだろうナ。やっぱ《ダーク・ヒーロー》っつーカンジ?」

「たぶんね」

「とにかくそいつ見つけたら、有無を言わさず、連行してくるコト。手段は選ぶなヨ」

「選んでもいいのかしら」

「選んでもヨシ」

「どんな方法、選べばいいんでしょう? あの。きちんとお願いして、来てもらうっていうのは……」

『られか、カラダ貸してくれないれすか?』


 そのときだった。


「――大変です! 船長っ!」


 床のハッチが突然開かれて、急を告げる声が飛びこんできたのは。

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