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星くず英雄伝  作者: 新木伸
EP1「放浪惑星の姫君」  エピローグ
29/333

プロローグ

 海を望む断崖に、少女は立っていた。


 黒く、どこまでも黒い海原(、、、、)が、目にうつる彼方までつづいている。

 ゆるやかに波をうつ海原は、どれほどの昔から、その黒く呪われた海水を湛えてきたのだろうか。


「――様、お時間ですよ」


 名前を呼ばれて、少女は振りかえった。

 侍女のひとりが自分を呼んでいる。どうやら式典の時間が来てしまったようだった。もうすこし海を眺めていたかったのだけど――。


 この島への訪問は、きわめて公式なものだった。

 自分に課せられた義務。そんなものは、どうでもよかった。自由な心を縛ることは、誰にも――何にも、できはしまい。それは十年と少しばかりの生涯の中で少女が見つけた、たったひとつの真理だった。


 少女は侍女に向けて笑いかけると、ゆっくりと歩きはじめた。


 身寄りのない自分を、家族同然にあつかってくれた人たちがいる。幼いころから世話をしてくれた人たちがいる。


 義務ではないのだ――少女にとって、面倒な公務をこなすということは。


 それは彼女の大切な権利だった。

 得られるのは、ちいさな報酬――笑顔という名のちいさな報酬だった。


 その超古代の遺跡は、人々から『神殿』と呼ばれていた。


 少女はどうしても、この場所が好きにはなれなかった。

 少女が足を踏み入れると、異形の美意識によって作りあげられた建物は、息を吹き返すかのように機能を回復してゆくのだった。

 石畳を踏みしめて歩くたび、少女の通ったあとが虹色の光をはなって無気味な活動を開始する。

 こんな不気味な遺跡など、死んだままでいればよいのに――。


 少女の前に、巨大な人影が立ちふさがった。


「これはこれはお美しい――口付けをする栄誉を、お与え願えますかな?」


 勇気を振り絞って、少女は手を差しだした。


 その巨人(、、)は、少女の前に屈みこむと、手の甲にくちびるを押しつけた。背筋に、腕に――少女の全身に鳥肌が生じる。


 少女は助けを求めるように、居並ぶ人々に顔を向けた。

 誰もが、にこやかな笑いを顔に浮かべている。ただのひとりも例外はなかった。


 ――だまされているのだ。


 こんな男は、悪いやつでなければならない。こんな奇怪な容貌をした男が、悪人でないはずがない。


 3メートルに届くかという身長と、子供の頭ほどもある巨大な眼球。


 ひとつ目の巨人(サイクロプス)――それが男を言い表すのに、もっともふさわしい言葉だった。


 片方の手を巨人に与えたまま、少女はもう片方の手を胸元へともっていった。

 子供のころから大切にしていたロケットを握りしめる。少女の脳裏に、ある人物の顔が浮かんだ。


 あの人――あの人ならば、わかってくれるだろうか?


    ◇


「おや?」


 重量指示計に目をやって、男はふと難しい顔になった。


 貨物室内の全重量を示す計器の表示は、30分ほど前に見たときよりわずかに増えていた。30キロと少々、そんなところだろうか――。


「このオンボロめ!」


 男は計器を叩きつけた。

 叩くときの角度にはコツがあるのだ。


 計器のデジタル数字はめちゃくちゃに点滅をしたあとで、ひとつの数値に落ちついた。


 期待した通りの数値が出たことに満足すると、男は何事もなかったかのように出港前のチェックを再開した。

星くず英雄伝、第2話、「パンドラの少女」スタートしました!

毎日7時と19時の2回更新でお送りしていきます!

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