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星くず英雄伝  作者: 新木伸
EP1「放浪惑星の姫君」  第八章 炎の海の死闘
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エピローグ

 スポット・ライトのまばゆい光が、ステージに立つ司会者に投げかけられる。


 彼はマイクを振りあげると、大きな声で宣言した。


『えー、お集まりいただいた全社員の皆様。長らくお待たせいたしました。このたびめでたく社長に復職いたしましたラセリア様と、その功労者であるキャプテン・ジークを称える祝賀会をはじめたいと思います』


 司会者は大仰な仕草で、ステージの袖に体を振りむけた。


『ではラセリア社長、どうぞー!』


 スポット・ライトが走り、ステージの袖に光のサークルを描きだす。

 だがいくら待ってみても、ラセリアはステージに登ってこない。司会者はマイクを握り直した。この程度のハプニングに動じていては、司会者は務まらない。


『それでは先に、外宇宙の《ヒーロー》であるキャプテン・ジークの登場です! 皆様、拍手でお迎えください!』


 反対側の袖に向かってライトが走る。

 響きはじめた拍手は、やがて海鳴りのように大きく轟いた。


 しかしこちらからもまた、ジークは現れなかった。

 鳴っていた拍手も散漫になり、やがて完全に止まってしまう。


 ステージの上に、司会者だけがぽつりと立っていた。

 惑星マツシバの全社員――200億の人間が発する無言の重圧が、彼の両肩に重くのしかかる。


『えー、突然ですが予定を変更いたしまして……。不肖ながらこのわたくし、芸を披露させていただきます。――おほん』


 彼は咳払いをひとつすると、おもむろにマイクを持ちあげた。


『小話をひとつ。となりの家に、塀ができたんだってね。カッコいー!』


 200億の人間が、一斉にブーイングをあげた。


 だが彼も宴会部の主任を張る者。

 舞台で死すとも本望である。

 それに彼にはまだ、100と7つの芸が残っているのだ。


    ◇


 波の音だけが、静かに歌を奏でている。


 それは哀しげで、思わず心が切なくなるような歌だった。歌の名は、別れの歌という。

 港にならんだ船にまじって、《サラマンドラ》は船腹を桟橋に寄せていた。吃水線の上に見えるハッチと桟橋のあいだには、すでに橋がかけられている。


「どうしても……、どうしても行かれてしまうおつもりですか?」


 目にいっぱいの涙をためて、ラセリアが言った。


「いや、その……」

「ええ、わたくしのわがままということはわかっています。でもこの気持ちは、わたくしにはどうにもならないのです。どうかお許しくださいませ、勇者さま……」


 ラセリアの目から、ついに涙がこぼれる。

 その涙を隠すように、ラセリアは顔をうつむかせた。


「いや、あのね……。だからオレも、ひと月くらい休暇をとってもいいかなー、なんて思ってるんだ、この星で。――なっ、アニー? お前もバカンスがしたいとか言ってただろ? なっ、なっ?」

「知んない」


 話を振られたアニーは、そっぽを向いてすっとぼけた。


「わかっておりますわ。勇者さまには大事なお仕事があるのですもの。わたくしなどがお引き止めしてはいけないことは、よくわかっているのです。でも……」

「だからオレもね、ここにしばらく残りたいかなー、なんて思ってたりなんかして」


「ああっ、勇者さまもわたくしと同じお気持ちなのですね……。嬉しいですわ。それだけで、わたくしには充分すぎるほど……」

「い、いや、だからね……」


 なおも食い下がろうとするジークに、呆れ顔のアニーが冷たい言葉を投げつける。


「あんたさ、いいかげんあきらめたら?」

「まァ、《ヒーロー》もんのドラマだと、ラストは哀しい別れってのが定番だナ。ヒロインの星に居着いちまう《ヒーロー》なんざ、見たことないワサ」


 カンナがしみじみと意見を口にする。


「ジーク殿、よろしいですかな?」


 ラセリアの従者としてただひとりこの場にいるエドモンド老人が、遠慮がちに口を開く。


「わたくしが思いますところ、台詞を間違えておいでではないかと……」


 ジークは深くため息をついた。この場にいる全員が全員とも、どうあってもジークに別れの言葉を言わせたいらしい。


 もはや諦めの心境で、ジークは言った。


「ラセリア――ぼくは行かなければならない。だけど君には、支えてくれる多くの人たちがいる。ひとりじゃないんだ。やっていけるよね」

「あーあ、言う言う」


 そう言ったアニーに、歯を剥いてみせる。

 顔から火が出るほど恥ずかしいのはジークのほうだ。


「もしもまた――君になにかあったときは、すぐに駆けつけるよ。銀河のどこからだってね……。約束するよ、絶対だ」


 ラセリアは優しい眼差しを向けながら、ジークの話に耳を傾けていた。

 一語一語、聞き漏らさないように、しっかりと――。


 見つめあったまま、時間だけが静かに流れてゆく。

 やがてラセリアは、ジークの胸にそっと頭をよせた。ジークだけに聞こえるように、小さな声でささやく。


「勇者さま、さよならは言いません。だってまたすぐに――」

「え?」


 聞き返したときには、ラセリアは身体を離していた。そしてとびっきりの笑顔をジークに向ける。


「さあ、勇者さま。宇宙があなたを呼んでおりますわ」

ご愛読ありがとうございます!

星くず英雄伝第1話完了です!


明日から第2巻「パンドラの乙女」がスタートします!

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