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それぞれの出陣

 「ボス、よろしいのですか? 拠点移動の必要性は、先ほど述べた通りでございますが」

「何度言おうと、僕の意見は変わらないよ。拠点の移動はしない」

「しかし、ここはフォースに知られてしまいましたが」

なおも進言するMに、灰色のフードで顔を隠したKが笑う。

「それでいいんだよ。おそらく、フォースはエスパー課に協力を要請する。さっき、決行日時の連絡が来たよ。三日後だ。それだけ周到に準備したのに、いざ来てみればもぬけの殻だなんて、拍子抜けもいいところじゃないか? 客人は、しっかりもてなしてあげないとね」

心底から楽しんでいるようなその声音に、Mはやれやれと苦笑した。テロ組織の首領としてのカリスマ性は言うまでもないが、こういった趣向には、毎度呆れざるを得ない。

「では、拠点内での戦闘準備を?」

「この広さなら、十分だろう?」

Kの言葉に偽りはない。雑居ビルの地下から始まる地下通路を進んだ先の、もう一つ、別のビル。小型のショッピングモールほどある、建設途中に見せかけたもの。そこが、ウロボロスの拠点だった。

 それほどの広さだ、スペースには事欠かない。

「元々誰かが乗り込んできても大丈夫なように、ここを選んだんだからね」

Kの指す『誰か』がフォースやエスパー課のことだと悟り、Mはその予測に背筋が寒くなった。

「それで、M。何が『視える』?」

その言葉に、Mは目を閉じた。

 広がるのは、ここではない風景。今ではない時間。

 目を開け、首を横に振る。

「今はまだ、何も申し上げられません。まだ、遠すぎるようです」

「まあ、三日後だしね」

それっきり、Kは何も言わなくなる。

 それを話が終わった合図だと受け取り、Mは踵を返した。


 怜との思いがけない再会から、三日後。

 五十鈴は、午前中から病院に来ていた。

 真っ白い廊下を抜け、どこか薬くさい部屋を幾つも通り過ぎる。この三週間で体に染み付いた手順をなぞりながら、部屋を目指す。

 そして、すぐにその部屋は見つかった。

 特別に手配された個室。扉の横に記された名前は、『金子協次郎』。ここは、協次郎の病室だ。

 形式ばかりのノックをして、返事の有無を確認してから扉を開ける。

 他の病室よりも格段に広い室内に、ぽつんと置かれたベッドと傍机。他に荷物らしきものはない。それだけだ。

 「金子君……」

零れ落ちた呼びかけに対する返事はない。ベッドに横たわる金子は、どうやら眠っているようだった。

 起こさないように、そっとベッドの傍に置かれた丸椅子に腰掛ける。

 頭に巻かれた包帯が、痛々しい。けれど、金子が憔悴していた理由はそれだけじゃないことを、五十鈴は知っていた。

 脳への強い衝撃による、左腕の麻痺。

 動かないわけではない。ただ、運動に必要な力が十分に入らないのだ。無論、そんな体の協次郎が続投を許されるはずがない。

 五十鈴は詳しく知らないが、慰謝料や治療費の支払いは警察が持ったはずだ。そして、協次郎はエスパー課を辞めることになっていた。もちろん、今日の夕方から始まる鎮圧作戦にも、参加は許されていない。

 無念そうに拳を握った協次郎の顔は、今でも鮮明に覚えている。

「じゃあね、金子君。行ってくるから」

それだけ告げて、五十鈴は病室を出た。


 「うちも行く!」

決行当日になって、細かい作戦が発表された後、先陣を切ったのは結衣だった。真剣な表情で、声を張り上げる。

「結衣ちゃん、あなたはダメよ。危険すぎるわ」

「でも、もう、皆が帰ってこないんじゃないかって、一人で心配するのは嫌だよ!」

窘めた真弓の声を、結衣が悲鳴で撥ねつける。そこに滲んだ感情に、思わず息を呑んだ。

「隊長、どーすんだよ。これ、収まらねぇだろ」

「そうね……。ボルター、これから皆が向かうのは、殺し合いの場なの。相手は、あなたが子供だからって容赦はしない。同じように、殺すわ」

「大丈夫だよ」

凄んだ隊長をまっすぐに見つめて、結衣が即答する。

「……殺されかけた事は、何回もあるから。ちゃんと、自分を護れるよ」

その言葉に込められたのは、懐古か、嫌悪か。はたまた、決意だろうか。俺に、判断することはできない。

「お父さんも、お母さんも、うちが嫌いだったから。追い出された後も、前みたいに絡まれたこともあるもん。だから、大丈夫。ちゃんと、攻撃できるよ」

唇を噛み締める。誰も、何も言わない。いや、言えない。

「それにね、うち、人を殺した事もあるよ。一回だけ、殺されかけたときに」

ああ、やっぱり。こいつは、俺たちと同じだ。人殺しに慣れて、罪悪感を閉じ込めて、人とは違う道に踏み出してしまった。それを歩いてしまった。

「……なら、異論はないわ。元々機密組織、結衣ちゃんの参加は認められてるから」

あっさり認めた隊長に、副隊長以外が目を見張る。

「ただし、結衣。一つだけ約束だ」

この上俺は、結衣にもっと辛い罪を背負わせようとしている。

「俺たちの中の誰かが『逃げろ』って言ったら、全部放り出して逃げろ」

少しだけ怯んだ結衣が、気丈に頷く。

 それを確認して、俺は顔を上げた。

「これでいいですよね?」

「ええ。それじゃあ、総員、規定時刻に集合する事。解散」

三々五々、隊長室から出て行く。

 その最後尾に続いた。

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