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アフリカゾウのハルくん

作者: 戸倉谷一活

 アフリカの草原でゾウのハルくんが今日も弟や妹たちと一緒に楽しく遊んでいました。

 そこへとても大きなトラックが走ってきました。

 ハルくんたちが「なんだろう?」と見ているとトラックから大きな銃を持ったおじさんたちが出てきました。

「日本の、沖縄という所の動物園で、ゾウを探しているらしい。丁度良いところにゾウが居るよ。あのゾウを捕まえて、沖縄の動物園に売っちゃおう」

 おじさんたちがハルくんたちに向けて銃を構えました。

「皆、逃げて」

 ママが叫びました。ハルくんたちは逃げました。

 ズドーン!

 大きな音が草原に響きます。ハルくんが倒れてしまいました。

 ハルくんが目を覚ましたのはオリの中でした。オリの外には飼育係のおじさんが立っていました。

「ハルくん。きみは今から飛行機に乗って、日本の動物園へ行くんだよ」

 ハルくんは泣きながら「いやだよ。日本なんか、行きたくないよ。ママに会いたいよ」と言いました。

 飼育係のおじさんは言いました。

「動物園は、バナナが沢山食べれるよ」

「バナナなんかいらないよ。みんなに会いたいよ」

「芸を覚えて、子どもたちに見せてあげられるよ」

「芸なんか、覚えたくないよ。エーン。エーン」

 ハルくんはトラックの中でずうっと泣いていました。

 飛行機に乗ってからも窓の外を見ながらずうっと泣いていました。

 何時間も飛行機に乗ってハルくんは日本の沖縄にある那覇空港に着きました。

 空港では大勢の子どもたちが旗を振ってハルくんを出迎えました。

 ハルくんが檻の中で泣いていると、飼育係のおじさんがモップを持って檻の中へと入ってきました。

「さぁ、檻の中を掃除するよ」

 ハルくんは飼育係のおじさんがモップを使って、ごしごし、ごしごしと掃除している横をすり抜けて、檻の外へと出ました。

「あ!ハルくんが逃げた」

 飼育係のおじさんが叫びました。

「ハルくん!待って!」

 空港に居る人達がハルくんを追いかけてきます。でも、ハルくんは駆け足が早かったので誰も追い付けませんでした。

 ハルくんは空港から海岸に沿って、とぼとぼと歩きました。足元はコンクリートとアスファルト、周りはビルばっかりです。ハルくんは悲しくなりました。

「アフリカに帰りたいよぉ」

 ごつん!

 ハルくんは何かにぶつかりました。

 空色のスモッグに黄色い肩掛けバッグ、黄色い帽子を深めにかぶった女の子が立っていました。

「あなたは、だぁれ」

 女の子がハルくんに聞きました。

「ぼくは、アフリカゾウのハルくん。あなたは?」

「わたしは、なっちゃんよ。ハルくん、ここでなにしているの?」

「ぼく、アフリカに帰りたいんだ!」

 なっちゃんは「それなら、飛行機に乗れば、ひとっ飛びだよ」と言います。

 ハルくんは今にも泣きそうな顔で「ぼく、今、空港から逃げてきたところなんだよ」と言いました。

 それを聞いたなっちゃんは「それじゃ、飛行機はダメね。だったら船に乗ればいいわ」と言って、なっちゃんはハルくんの鼻を引っ張って港へと連れて行きました。

 運良く手こぎボートを見付けることができました。

 なっちゃんが「これに乗ればいいわ」とハルくんに言います。

 ハルくんは嬉しくて、小躍りしながら「なっちゃん、ありがとう」と言いながらボートに乗りました。

 なっちゃんは「ハルくん、気を付けてね」と言いながら手を振ります。

 どぼどぼどぼ。

 手こぎボートはハルくんを乗せた途端、沈んでしまいました。

「そうか。もっと大きな船じゃないと、駄目か」

 なっちゃんは一人でうなずいていますが、びしょぬれになったハルくんはなっちゃんからハンカチを借りて、濡れた身体を拭いています。

 ハルくんとなっちゃんは一緒に大きな船を探します。

 向こうからたくさんの人が来ます。

「こっちに、ゾウが居たらしいぞぉ!」

 飼育係のおじさんたちです。

「逃げなきゃ!」

 慌てるハルくんになっちゃんが「大丈夫!」と言いながら、頭に乗せていた幼稚園の帽子と肩掛けバッグをハルくんに渡しながら「これで、変装すれば、大丈夫よ!」と言います。

「本当に、大丈夫かなぁ?」

 ハルくんは心配しながら黄色い帽子を頭に乗せ、鼻にバッグを引っ掛けます。

 飼育係のおじさんたちがなっちゃんたちに声を掛けてきました。

「この辺りで、アフリカゾウの、ハルくんを見ませんでしたか?」

 なっちゃんは「見なかったよ」と首を横に振ります。ハルくんも「見てないよ」と首を横に振りました。

 飼育係のおじさんたちは「他を探そう」と言いながら、行ってしまいました。

 気が付いたら辺りはすっかり真っ暗、ハルくんとなっちゃんは歩き続けて疲れてしまいました。お腹もすいています。

「もぉ、歩けないよ」

「おうちに帰りたいよぉ」

 ハルくんとなっちゃんはとても疲れて、座り込んでしまいました。もう、一歩も歩くことはできません。

「おや?こんな所に、ゾウさんがいるよ」

 二人の前にパイプをくわえた船長さんが立っていました。

「もしかすると、空港から逃げ出した、ハルくんかい?」

 ハルくんはうなずきました。

 船長さんは「どうして逃げ出したの?」と聞きました。

 ハルくんは泣きながら「ママに会いたいよ。皆に会いたいよ。アフリカに帰りたいよ」と言います。

 するとなっちゃんも泣き出しました。

「ハルくんがかわいそうだよ」

 船長さんは大きな船を指差しながら優しく言いました。

「あれが、わしの船だ。今からアフリカに行くから、乗せてあげよう」

 ハルくんとなっちゃんは嬉しくなって踊り出しました。

 船長さんは「シィーッ。静かに!誰かに見つからないように、こっそりと、急いで船に乗って」と言いました。

「それから、なっちゃんも迎えに来てもらおう」

 そう言うと船長さんはなっちゃんのおうちに電話をしてくれました。

 なっちゃんのお母さんが港まで迎えに来てくれました。そしてなっちゃんはお母さんと一緒にハルくんを見送ることにしました。

「さようなら、ハルくん。気を付けてね」

「さようなら、なっちゃん。ありがとう」

 ハルくんは船の上から、なっちゃんに借りた黄色い帽子を振りました。

「あ、幼稚園の帽子、返して貰うの、忘れてた!」

 ハルくんは何日も何日も船に揺られ、ようやくアフリカの港に着きました。

 アフリカの港からハルくんはトラックに乗せてもらいました。

 がたごと、がたごと。

 ハルくんを乗せたトラックは草原を目指して走ります。

 がたごと、がたごと。

「おや?」

 ハルくんの耳に誰かの泣き声が聞こえてきました。

「ハルくん。ハルくん」

 ママがハルくんを探しながら、泣いています。

「ママー!」

 ハルくんはトラックの上から黄色い帽子を振りました。

 こうしてハルくんはアフリカの草原へ戻ることができました。

 だから今でもアフリカで黄色い帽子を頭に乗せたゾウがいたら、それはハルくんかもしれないよ。


 それと、この話は皆には内緒だよ。今でも飼育係のおじさんが、ハルくんを探しているからね。

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