第五話
とにかく、今の状況を聞かねばなりません。
ここはどこなのか。
なぜここにいるのか。
相手は男性なのでちゃんと話を聞いてくれるか心配ですが、聞かないことには始まりません。
でも、どう聞けば良いのでしょうか……。
「お嬢さま」
ジャックがやさしく微笑み、ロリーに少しだけ歩み寄ります。
「とりあえず、横になりましょう。顔色が悪いですよ」
事実、ロリーの顔色は起きた時よりもずっと色を失っていました。
よくわからない場所に、自分が誰かも分からず放り出されたわけですからね。
「そんな哀しそうな顔をしなくても、マーシュさまはちゃんとあなたの言葉を聞いてくれます。やる気のない顔をしていますが」
「うるさいなぁ……生まれつきの顔だよ」
拗ねたようにそっぽを向きますが、ジャックが悪く言っても部屋を出て行く気配はありません。
その様子にジャックは、ね?と言ったように完璧なまでのウィンクをして、ロリーをベッドに促しました。
ここまでされたら、ベッドに行かない理由がありません。
ロリーは大人しくベッドに入りました。
まるで、体が自分のものでは無い気がします。
言うなれば、自分よりも小さな人の服……いえ、鎧のようなものを無理やり着ている感じです。
思い通りに動かない、窮屈な感じでした。
「ここは、どこですか?」
少し喉がひりつきだしたので、声がかすれてしまいました。
小さな蚊が鳴くような声に、マーシュは答えます。
「女王の森の奥にあるボロス山の麓……俺たちだけが住む土地だよ」
……女王の森、ボロス山……聞いたことがない地名です。
しかし、熱が上がって来たのか頭がぼんやりします。
考えることが、できません。
ジャックが助け舟を出してくれました。
一枚の紙にサラサラとペンで描いて行き、ロリーに見えるように広げて見せます。
「女王の森はとても広大な森です。ボロス山は人が立ち入らない死の山と恐れられています」
俺たちが住む場所を中心にして、北にはボロス山を含むキップル山脈。
南にはアヴァロネスという国があるのです。
「この土地の、人が住む場所以外の平地全てが女王の森と呼ばれる森とお考えください」
「つまり、ここは人里離れた森の奥地ってこと」
人里離れた森の奥地。
日本にそんな場所なんて滅多にないですよね。
樹海とか、そんな場所しか思いつきませんが大切なのはそれじゃなくて!
「ここ、本当にどこなんですか⁉︎」
叫んだら頭がクラクラしました。
マーシュとジャックは顔を見合わせるしかありません。
「窓を開けてみる?」
返事を待たずに、ジャックは窓を開きました。
流れ込む空気に部屋の気温は一気に下がります。
ベッドがついている壁に窓はありましたから、上半身を上げるだけで窓の外は窺えました。
そこには。
「う、うそ……」
そこには、白銀世界が広がっていました。
遠くには町か村か……さらに遠くには城のようなものも見えます。
ビルや、コンクリートでできた大きな建物は見つかりません。
森、森、森……。
ロリーは愕然と白い世界を見つめていました。