第四話
木製の扉が開かれ、若い男が部屋に体を滑り込ませて来ました。
素朴な顔立ちの赤毛の青年です。
「申し訳ございません、ノックをしたのですが……」
肩を落として、しゅんと眉を下げる青年。
素朴な顔立ちは内面も素朴で真面目なようです。
「い、いえ!今起きたばかりですから!ちょっと聞こえていなかったというかぼんやりしていたというか……!」
落ち込んでいる様子の青年をなんとかして明るくしようとまくし立ててしまいます。
男性と喋るなんて久々、と言うのもありますがそもそも内向的なため、所謂コミュ障をこじらせていました。
「あの……あなたは……?」
そう聞くと、彼はハッと顔を上げて背筋を正しました。
「申し遅れました。わたくしはジャックと申します。この屋敷に仕える者です」
ジャック。
頭の中で名前を反芻します。
……外国人?でも日本語喋ってるし……。
「ジャック、彼女は起きてる?」
開いたドアの向こう、廊下から声が聞こえて来ました。
低いかすれた声。
少し老人のような声ですね。
「お目覚めのようです」
ジャックがにこりと笑って言うと、さらに男が部屋に……。
宵闇の色のジャケットをはおり、金とも白とも似つかない淡い光沢を持つ……白に限りなく近い金としか言えない髪の青年でした。
「この家の主の、マーシュさまです」
やる気のなさそうな、倦怠感120%の雰囲気をまとったマーシュ。
彼は無造作に髪を掻き揚げて、こちらを見ます。
「気分はどう?ロリー」
「えっと……良いとも悪いとも……え?」
マーシュは自分を見てロリーと呼びました。
いや、少々ツッコミどころがある名前ですが……ロリーなんて、自分はそんな名前でしたっけ?
「ロリーって、わたしですか?」
「そうだよ」
マーシュは即答します。
まさか、そんな名前でしたっけ?
でも自分は……あれ?
わたし、誰だっけ?
「君が倒れていたから、名前でロリー(仮)って呼ばせてもらってるけど……他の名前があるなら教えてよ」
他の名前なんて、思い出せません。
いったい自分は何者でしょうか。
「じゃあ、ロリーでいいよね」
良いとも良くないとも言えませんが……。