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七匹目


「…水瀬の兄貴…」



「?!」



俺は突然そんな呼び名で呼ばれた事に驚き、思わず移動教室が化学だった為に持っていた教科書等で顔を隠した。


そして友人等はそんな俺を置いてさっさと先に進んでいた…。は、薄情者ー!


そりゃー見た目がすでにちび猫番長に関わりのある雰囲気だけどさぁ…!



う…。変な沈黙が流れる…。




「………」

「………」




いつまでもそうしている訳にはいかないので、俺は教科書を顔から外して、俺に声を掛けてきた奴を見た。



「…え…っと?」


「ああ、俺は間宮まみやってんです、水瀬の兄貴!ちなみに同学です」


「うわ?!何だよ…その呼び名は…とりあえずその呼び名止めてくれよ…間宮…くん?」


「じゃぁ、水瀬の旦那。俺は呼び捨ててお願いします」


「いや、それもちょっと…。間宮…、俺も…」


「…水瀬様?」


「……却下で…」



こ、こいつ…言葉を重ねてきた…!俺も呼び捨てで良いのに!!むしろそれでお願いしたい…!!



「はい!水瀬先生!」


「挙手いらんだろ!」


「じゃ、水瀬君」


「…うーん」


「水瀬きゅん?」


「嫌だし」


「水瀬タン、その顔もえー」


「ぅおい!」



何なんだ、このやり取りは…俺の昼休みが無くなるだろうが…!




「…お前ら何廊下の真ん中でやってるんだよ」




その声に視線を合わせれば、そこにパンと牛乳パックを持ったちび猫番長が立っていた。



両腕に抱えられてるのは菓子パンばかり5袋…。

あんパンが2袋ある…。…好きなのか?




「亜紀」




え。




「やっとその名前で呼ぶようになったか、のぞむ…」




え…。




「お前は真面目な顔をしてふざけた事を言うからな…」


「それはいつも俺が真面目だからだよ、亜紀」


「…良く言うな、望…」





…ほら、期待しないほうが良い…。




俺はちび猫番長と間宮のやり取りを見て、七夕の短冊の一件を思い出した。


…ちび猫番長の七夕の願い事は『名前で呼んでくれますように。』、だ。




そして俺はこんな形で自分の七夕の願いが叶おうなどとは…。


ああ、一応言っておくが、俺は『名前が分かりますように。』と書いたんだ。





「…間宮、とにかく俺の事は"水瀬"で頼むな」




俺はそれだけ言い残すと、彼らの前から足早に立ち去った。




その際、間宮の返答は聞かなかった。






教室に帰る途中、俺は自販機へ寄った。

昼休みはもう残り少ない。

今日はパンだから、後まわしにすることにした。



そして、そこで俺は新作と思しき缶コーヒーを買った。




友人等は教室の窓際に席を置く、小岩こいわって奴の所にたむろっていた。




「…俺を置いてくなよ」


「お、水瀬、無事だったんだなー」

「お前なら無事生還してくると俺は信じてたぜ?」

「そうそう、お前は番長サマのお気に入りだもんな!」


「…はぁ?」



口々に好き勝手な事を俺に言ってきやがって…。


ちなみに話した順から、小岩、相模さがみ九条くじょうだ。




しかも俺が、ちび猫番長のお気に入り?




…鯛焼きの間違いじゃないのか?




あんパン2袋も持っていたし。

鯛焼きだって餡子入ってるし。

単純に餡子好きなだけかもしんねぇだろーが!




「…ンなの、知らねェよ…」




短く友人等に答えて、俺は買ってきた缶コーヒーを飲み始めた。



…なんで皆そんなニヤニヤ笑ってんだよ…。



「だって…なぁ?」

「そうそう、結構分かりやすいのにな」

「お前はこの学年からだもんな、番長と一緒なのは」


「…そうだよ…」


「あんな真面目そうな普通の格好、この学年からだぜ?」

「しかも案外真面目に授業…ってか、学校に来て…」

「そーそー。席替えして、お前の前の席になってからなー」


「だから何だよ…」


「分かれよ!」

「察しろよ!」

「気が付けよ!」


「だから何をだよ!」



「…水瀬、お前は番長の事、どう思っているんだ?」



「……え?」




俺は小岩のその質問に答えとなる言葉が出なかった。


…言葉が出ない代わりに、顔に出た…。



顔が熱くなるのが分かった。




「と、友達…」



「はいはい。とりあえずそのポジションかー…番長ちゃんも大変だな!」

「番長サマは腕っ節がアレだけど、結構可愛いから、お前気を付けろよー?トンビに油揚げとか?」

「水瀬に特別に優しーい俺が、番長ちゃんの舎弟くん達は結構イケメンが多いとの情報を与えてやろう!」



「んなッ…」



そして俺が言葉を言いかけたところで授業のチャイムが鳴った…。く…!







…大体、『鳶に油揚げをもってかれる』とかって、とかって…!!…相模の奴!


……ってか、結構好き勝手言いやがってアイツ等!




「………」




そして、俺はさっきの間宮とちび猫番長のやり取りを思い出した…。



思い出しながら、買ってきてさっきまで飲んでいた缶コーヒーの味も思い出していた。


買って来た新作の缶コーヒーは、甘いような苦いような何ともハッキリしない微妙な味わいだった。


もやもやする…。




…俺の目の前には、ちび猫番長の後頭部がある。



はぁ、ちび猫番長の考えている事が分かれば、俺だって………。





…俺"だって"…?




………。





………………。




……………………ああ、ホント、もやもやするな…!!




「……はぁ…」




…そして俺はちび猫番長の後頭部を見ながら、溜息を一つ漏らした。


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