三匹目
日曜日の午前中だけ、俺は祖父の鯛焼き屋にバイトしに行く。
「白玉鯛焼き、3つ」
「…はい…」
俺はちび猫番長に普通に接客する様になった。
…そんな俺の変化を、祖父は見逃さなかった様だ…。
「…なぁ、拓海、お前さっきの子に普通に接客する様になったんだな」
「……詳しいな、じぃちゃん…」
ちなみに"拓海"とは俺の名前だ。
"水瀬 拓海"だ。
「常連のカワイコちゃんは覚えるようにしとる!ぶぃ!!」
「…へぇ…?」
口で"ぶぃ!!"と言いながら自慢気にピースサインを祖父が決めてきた。
それからの祖父の行動は素早かった…。
「どうだ、拓海。テーブルと椅子!そして自販機!!」
「いつの間に…」
「いやー、日曜日に間に合って良かった良かった!はっはっは!!!」
…日曜日に合わせたのか。
何で祖父が日曜日に合わせたかというと…
「…良かったら、そこで食べてけよ…」
「え!う、うん…」
ちび猫番長をこうして引きとめる為である。
そんな思惑など、ちび猫番長は知る由も無い。当然だ。
「お嬢さん、ワシとオセロでもしないかね?」
…おい、じいさん…知らないと思うが、相手は"番長"だぞ…その気安さは何だ。
顔がデレデレだ…。
「…うん、やる」
ええ?ちび猫番長、オセロするのか…!
そして二人はオセロを始めてしまった…。
…でも、まぁ…ちび猫番長の私服を長く見れるのは良いかもしれない。
レアで得した気がする。そのカーデ、似合ってる…。
そんな結論に行き着きながら俺は鯛焼きを焼いたり、接客したりしていた。
…パチパチとオセロの音が…って、いつの間に囲碁に変わってんの?!!
いや、白と黒だけど!共通点はあるけど!!
しかも、表情で判断すると、ちび猫番長が有利…?
「ああーーー!!もう、ええわい!お嬢さんの勝ちだ!」
「!!…じゃぁ…」
「おう!男に二言はねぇぜ!!」
…何か賭けながら勝負してたのか…。
「拓海の次のバイト休みの日はお嬢さんのモンだ!!」
「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー?!!!!!!!!」
どうしてこうなった?!
「拓海、次のバイト休みの日、お嬢さんをどこぞにエスコートしてやれい!」
…それって、"デート"してこい、って事??
ポカーンとしている俺を他所に、二人は再び囲碁をやり始めたのだった…。
次の休みって…まだ日数あるけど…?
というのも、俺は結構不定期に休みを申請してとっているんだ。
「…とりあえず…行きたい所とかある?もしくはしたい事とか…」
「………水瀬は予定とか、大丈夫なの?」
「…何で?」
「…か、彼女…とか…」
「居ないよ」
「え」
「…居ないよ。彼女とか、居ないし、大丈夫」
居たら真面目に日曜日の午前中をバイトに費やし無さそうだ。
そういえばちび猫番長とこんなに長く一緒にいたの、学校の教室以外初めてだな。
「彼女、居ないんだ?」
「…居ないよ」
俺の言葉を受けて、ちび猫番長の瞳に光が増えた気がしたけど…気のせいだ。気のせい。
「…映画…見たいのがある!」
「ん、じゃ今度、映画行こうな」
「うん…!!」
そしてちび猫番長は祖父にピースサインを決めた。
そんな祖父は"ニタ~~~"と言うねっとりとした笑みと共に、「たぶるぶぃ!!」とか言いながらダブルピースをちび猫番長に返していた。
…あれ?
何だか…俺は…良く分からないが、いつの間にやら彼らの思う壺に?
あれ?あれ?あれ?あれ?あれれ…ッ??
俺は、これは気のせいじゃない気がした…。
したんだ…!
…したんだよッ!!