二匹目
今日も今日とて俺は日曜の午前中は祖父の鯛焼き屋でバイトをする。
これはいつも通りだ。
だが、この日違う事が起こった。
…ちび猫番長が店に来なかったのである…。
こんな事は初めてだ。
「………」
何となく、何となくだが、何かちび猫番長にあったのかと思い、少し心配になった。
…なったけど、ちび猫番長にも用事とかあるだろうし、色々あってもおかしくない。
第一、この店に来るとか約束している訳でもないのだ…。
「……はぁ…」
俺は何にか分からない溜息をついた。
次の日の月曜日、ちび猫番長は何と放課後に学校にやって来た。
…放課後とか、来ても意味あんのかよ…?
そしてちび猫番長は俺の腕を掴むと、俺を屋上の扉前のスペースに連れて行った。
意味が分からない。
よく見ると、ちび猫番長の右の口角が痣っぽくなっていた…化粧でも少し隠し切れていない…。
…もしかして、ケンカ?
「…ね、私が昨日お店に行かなくて心配した?」
急に何を言い出すんだ…。
でも、俺の左腕の袖を摘んでいる小さい手が、少し…ほんの少し…震えて見えるのは気のせいかな…?
「………………少し、した」
「…!!」
「………」
「水瀬、本当?」
「………」
「ねぇ、水瀬!」
「………本当…」
「~~~…み、水瀬ぇ!」
「え?うわっ?!」
何とちび猫番長はガッツリと俺の左腕に抱きついてきたのだ。
…ちょっと…力が…強い気が…さすが番長の称号を持つだけある…。
「えへへ…」
何故か上機嫌で俺にしがみ付いているちび猫番長…。
ジワジワとキャラが変ってきている気がするのは、気のせいだろうか?
それからしばらく俺に引っ付いていた番長だったけど、ふいに離れた。
…左の温かさが急に消えて、何だか寂しい様な勿体無い様な…。
「じゃ、帰る」
そして朗らかにちび猫番長は俺に言って来たんだ。
"帰る"…って…。
「…高尾、もう放課後だけど、何しに学校にわざわざ来たんだよ…?」
「?…水瀬に会う為に来た。話しも出来たし、もう用がないから帰る!」
「…俺に会う為だけに放課後学校に来たのかよ?!」
「そうだよ。水瀬に会う為に来たんだよ」
「………………」
「…じゃぁね!また明日!」
それだけ言うと、ちび猫番長は俺の元から去っていった…。
残された俺は摩りガラス越しの夕日と同じ色をしていたに違いない…。
次の日、俺はある物を忍ばせて学校に登校した。
今日はちび猫番長は普通に登校して来た。
「…高尾、昼…ちょっと良いか?」
「?うん、良いよ」
俺はちび猫番長に軽く約束をとりつける事に成功した。
周りが少しざわついたが、あえて無視した。
「で、用って何?」
「…ほら、これやるよ…。俺が今朝作った」
「え?…あ…目玉が白玉の鯛焼き…」
「…食いたくなかったら、誰かにやるなり……まぁ、好きにしろよ…」
「た、食べるよ!誰にもあげないッ!!…ありがとう、水瀬…」
「…………じゃ、俺はこれで」
「え?」
俺はそれだけ言ってちび猫番長の元から教室へ帰った。
…無事渡せて良かった。
と、言うのも、ちび猫番長は舎弟に人気があるのだ。
まぁ、普通に可愛いからな、ちび猫番長は…。
うん、ちび猫番長の笑顔は可愛いと俺は思う…。
「…何だお前らなんでそんな茂みに隠れて、何やってんだよ…」
…何やらちび猫番長が言っている声がする…。
少し、いや、大分嫌な予感が…。
もしかして、先程のやり取りを見られていたのかもしれない…。
多分、彼らの方が先に居たのだろう…。
まぁ、俺は茂みに対して背を向けていたから、顔は見られていないと…思いたい。
「……はぁ…」
俺はちび猫番長の笑顔が見たくて白玉目玉の鯛焼きを作ってきたのだが、自ら面倒な事を作ってしまったのかもしれない…。
…初めてちび猫番長が店に来ない事で、俺はどこか動揺して、普段取らない行動をしたんだ。
それの結果がこれだ。
あーあ、ちび猫番長の行動がどこか可愛いところが変に期待しちゃうんだよな…。
急に腕に抱きついてきたり。
俺に会いにだけ学校に来たり…。
心配したかとか聞いてきたり……。
……普段結構無表情な感じなのに、笑顔全開で接してきたり…。
何なんだよ…。
マジ、何なんだよ…。
……可愛いは罪だ…。
きっと、大罪に違いない…。
それは、俺の様な奴の行動を狂わすからである!!
…汝は罪作りである!ちび猫番長よ…!