表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

好きだって、言いたい。

「良子」


 剛君が私の名前を呼ぶ。当たり前のことなのに何だか照れくさい。恋人となって二週間。じわじわと、恋人であると自覚がでてきて、いまだに照れくさい。

 ああ、ほんとに好きなんだと思う。まぁ、四年も好きな時点でわかってたけどさ。剛君は私がこんなに剛君のこと好きなんて知らないだろうな。


「うん、行こう」


 お昼のお誘いも当然になって、余分な言葉もない。立ち上がるとすぐに剛君は持ってるお弁当を持ってくれる。


「今日のおかずは?」

「食べるまでのお楽しみ、なんて言っても、お弁当だしそんなに毎日違うものもできないけどね」


 しかも剛君からはお肉をいれるよう指名されてるから余計に難しい。もちろん夜のうちに用意をすませるけど、朝に仕上げる以上あまり手間がかかりすぎるものはできない。


「良子がつくったものならなんでも美味いよ」

「じゃあ野菜でもよくない?」

「ダメ」


 いや、なにも私も野菜一色とは言わないけどさ。九割お肉だよね。ご飯にのせてる梅干しと卵焼きだけだよね。後全部お肉だし。私のお弁当はまだお肉以外もあるけど、剛君はとにかく肉肉肉だ。一品だからつくるのは楽だけどね。


「栄養偏るよ」

「大丈夫。俺健康体だし」

「身長のびないよ」

「お前より高けりゃいい」

「いやみ?」

「いや?」


 背が低めなのは地味にコンプレックスだ。大人になるためにマイナスでしかない。でも剛君にそんな嫌みをいうような知能はないだろうし、気にしないことにする。


「いただきます。うーん! 美味い!」


 笑顔の剛君を見ると意識しなくても私も笑顔になる。剛君が大好きだ。胸の中が好きで溢れそうだ。

 言いたいな、好きって。どれどけ好きで、どれだけ私が思ってるか伝えたたい。

剛君が好きで、ずっと好きで、ほんとはいつも手を繋ぎたいし、たまに戯れに頭をなでられるけどもっとしてほしいし、暇さえさえあれば剛君のことばかり考えてしまう。

 こんなに好きだと伝えたら、どんな顔をするだろう。素直に喜んでくれる? それとも……そんなやつだったかと、幻滅する? クールで大人な私を演出して、好かれて、計算通りなのに、今更どうしていいのかわからない。

 もう平気なふりをしたり、クールに振る舞うのが癖になってて素の私が今の私みたいなものなのに。


「剛君…」

「なんだ?」

「…ほっぺた、ご飯粒ついてるよ」

「悪いな」


 とってあげて、口に入れる。剛君は顔を赤くする。恥ずかしいのを我慢して、微笑んだ。









「ねぇ、剛君」

「なんだ?」

「私のどこが好き?」


 なんてことを聞くんだろう。恥ずかしいやつめ。でも他ならぬ良子ならば仕方ない。二人きりだしな。答えてやろう。


「ごほん。えー、全部だ」

「そんなのだめ。もっと具体的に言ってよ」

「なんだよー」


 恥ずかしいだろ。それに、どんな良子も好きで、本当のことなのに。良子はわかってるのか?

 俺がどんなに良子を好きか。良子よりずっと前から、ずっと良子が好きなんだが、ちゃんと伝わってるのか? 俺がこんなに好きだって、わかってないんだろうな。


「そうだな。意地っ張りで優しくて気が強くて、素直なところかな」

「え? は?」


 ん? 何でそんな驚いてるんだ?

良子が言えっていうから答えているのに。恥ずかしいんだから、素直に喜べよ。


「ちょっ、ちょっと待って」

「どうした?」

「いや、私、意地っ張り? 気が強くて素直?」

「そうだろ?」

「ええ? なんで」

「なんでっていう意味がわからん」

「えぇー?」


 な、なんなんだ? 良子の混乱したような反応に、俺まで混乱する。言い方が悪かったか? でも子供っぽいとこが可愛いとかはあえて言わなかったし。


「良子、落ち着けよ。とりあえずお前は俺のどこが好きなんだ?」

「え、えと……全部」


 ダメ出しした俺の最初の答えと同じだろ。と思ったけど、つまり俺と同じ気持ちというわけだ。いやぁ、嬉しいなぁ!









「私のどこが好き?」


 こんなことを聞くなんて、我ながら面倒くさいやつだと思う。でももし、剛君が私のことを好きなところが、料理ができるとかそういうとこなら、ちょっと照れてしまうくらいは許容範囲だ。それならちゃんと好きだと安心して伝えられる。


 全部とか言われると嬉しいけど、解決案には役立たない。もっと具体的に!


「そうだな。意地っ張りで優しくて気が強くて、素直なところかな」


 え? は? いや、いやいやいや? え、意地っ張りとかなにそれ。私って演技しなくても基本優しいでしょ? 意地っ張りの意味がわからない。

 優しいと素直はまぁいいとして……実際には好きとも言えないし素直じゃないけどそれはおいといて。

 気が強い? 大人ぶってるから、むきになったりもしてないし、悔しい時とかも冷静なふりしてるのに?


「とりあえずお前は俺のどこが好きなんだ?」


 混乱する私に剛君がそんなことをさらっと聞いてくるから、思わず素直に答えてしまう。


「全部」


 全部とか。剛君とおんなじじゃん。ほぼ反射的に答えたから照れずに言えたけど、うーん。


「俺と同じだな」


 嬉しそうに剛君は笑う。胸がきゅうとなった。ドキドキしすぎて苦しい。自分が酷く小さな人間に思えてくる。

 剛君はこんなに優しくておおらかで

器が大きいのに、私は嫌われたくて好きとも言えないなんて、と落ち込みかけたけど、いやいや、今はそんな場合じゃないよね。


 さっき剛君、私のこと意地っ張りとか言ったよね? それ私のやってるキャラと違うし。え、マジメに剛君は私のことどういう人だと思ってて、どこを好いてくれてるの?

 もしかして私、ものすごい勘違いしてない?










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ