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好きだって、言えよ。

「なー、良子」


 ペンをくるくる回しながら頬杖をついて剛君は私を呼ぶ。何気ないそんな仕草が、つまらなさそうなよく見る仏頂面が、どことなく格好良くてドキドキする私は馬鹿だと思う。

 でも思うんだから仕方ない。


「なに、剛君。どこがわからない?」

「あー、うん、全部」

「もう」


 仕方ないなぁ、全く。


 勉強は好きだから、割と得意だ。問題をとくために頭をつかって、答えをしぼりだして、それが正解だとすっきりする。剛君はそれが理解できないらしく、勉強が嫌いだ。

 勉強はできないよりできた方がいい。大人はみんなそう言うし、私もそう思う。だって成績がいいだけで、ちょっとくらいの色々を多めに見てもらえたりする。


「暗記は個人個人であうやり方を見つけるのが一番いいんだけどね。まだ見つからない?」

「俺にあう勉強方法とかないって」

「うーん。剛君は体動かすの得意だし、運動しながら暗記するのはどう?」

「はぁ? なんだそれ」

「いや、真面目な話ね。私は結構、画面として記憶するかな」


 本当は単語と意味がくっつけばいいんたけど、私はあんまり暗記は得意じゃない。


「ちょっとやってみようよ」


 ということで、剛君と片足立ち押し相撲をしながら英単語問題をだしてみた。


「くっ、このっ」

「ちょっ、だから問題に答えてよ!」

「わかるか!」


 無理だった。手のひらだけを押してOKで、体にふれたり両足をつくかこけたら負け。剛君のすぐ熱中する性格を忘れてた。やっぱり他の何かとくっつけるのはむりか。うーん、勉強自体に興味をもってもらうしかないのか。


「もう普通に勉強する?」

「いや、俺が勝つまでする」


 とりあえず押し相撲は四回戦で終わった。


「もう、剛君はすぐむきになるんだから」

「そんなことねーよ。子供扱いすんな。俺はお前の恋人だぞ」

「……はいはい」


 うぅ、不意打ちでどきっとするよう。


「…なぁ、俺のこと、好きか?」

「う……うん。なんでそんなこと聞くの?」

「別に、なんでもねぇし」


 えぇー、なんでもなくないし。はずかしくてドキドキしたのに。もう。







 良子の部屋にきた。といっても珍しくもない。小学生のことは週に一度は来たし、中学生になってもテスト勉強のたびにきてた。

 でも恋人になったと思うとなんだか妙にどぎまぎしてしまう。良子は平気そうでいつも通りだ。くそ。むかつく。

 とりあえずいつも通り勉強するが、全然頭に入らない。いつもだが、いつも以上だ。考えても見てほしい。つき合いだしたばかりの超可愛い彼女と二人きりなのだ。集中できるほうがどうかしてる。お前のことだぞ、良子!


「運動しながら暗記するのはどう?」


 意味がわからないことを言い出した。良子は成績はいいが頭はそんなによくないんじゃないかと度々思う。勉強楽しいとか言ってるし。

 でも真面目に勉強するのもつまらないし、せっかくなので良子の提案にのる。


「はっ、しねー!」

「おっと、殺すな!」


 かけ声をかけながら俺に向かって手を突き出す良子。良子は何だかんだ、俺に大人ぶるが、実際はかなり子供っぽい。勝負事にはむきになるし、感情がわかりやすい。

 そんな良子と遊ぶのはとても楽しいのでつい夢中になってしまった。途中から、ぶつかるほどの距離でかおる良子の匂いとか手のひらの柔らかさに気を取られたりはしてない。ほんとに。


「もう、剛君はすぐにむきになるんだから」


 どっちが、と言う言葉はのみこむ。良子は自分が大人ぶるだけではなく、実際に大人っぽいと思っているのだ。ならそれにはふれずにいてやるのが優しさだ。そんなとこが可愛いし。


「…はいはい」


 でも、ちょっと気になる。照れて赤くなって誤魔化すように頬をかく良子。好きだと気持ちを伝えたし、良子も俺が好きだから頷いてくれて恋人になった。でもまだ直接好きとは言われてない。

 良子は照れ屋だから仕方ない部分もあるが、これだけ言ってるんだから、一回くらい言ってくれてもいいのに。


「…なぁ、俺のこと、好きか?」

「う……うん。なんでそんなこと聞くの?」


 より赤くなり、首をすくめるようにしてちょっとだけ顎を引いて上目遣いになる良子。可愛いから仕方ない。もうちょっと、待つか。どうせもう、何年も待ったんだ。









「つ、剛君」

「ん?」

「あ、や、その…なんでもない」


 うあー……私、へたれすぎる。でもでも! 剛君だって気づいてくれてもいいじゃん! 私たち恋人なんだよ!? 手くらい繋ごうよ!

 でも私から言うとか恥ずかしすぎるよぅ。さらっと大人みたいに言えたらなぁ。


 勉強がおわり、お開きにしたはいいけど別れがたくて送るというで一緒にでてきた。剛君の家は当然お隣なので散歩もかねて距離を稼いだけど、もう半分すぎてしまった。早く手をつながなきゃ。


「剛君、宇宙人って信じる?」

「え? なんだよ急に」

「いいでしょ、別に。宇宙人っていると思う?」

「いるだろそりゃ。宇宙ってちょー広いんだぜ? 絶対いるって」

「あ! UFO!」

「えっ!?」


 手を握った。勢いよく私が指差した空を向いた剛君が、さっきよりずっと驚いた顔をして私を勢いよく見る。か、顔から火がでそうだ。

私は顔を見られないよう、剛君の手を引いて先を歩き出す。


「よ、良子、帰り、送るよ」


 私と剛君の家が見える元の通りまで戻ってきたところで剛君はそう言って、つよく私の手を握った。


「…うん」


 私と剛君はもう一度、家に背中を向けた。





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