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幼馴染み+α

やっぱり他人が入る隙間はまったく無いよみたいな。

作者: 悠里

短編小説『他人が入る隙間は無いよみたいな。』『やっぱり他人が入る隙間は無いよみたいな。』から先に読むことをオススメします。

 この状況は何なんだろう。

 ここには絵美と私の二人きり。しかも今はもう物置になっている旧校舎の空き教室で、すなわち人は全く来ない。

 そこに私は絵美に言われてきた。


「ねえねえ、お話したいことがあるんだけど・・・、いいよね?」

「・・・わかった」


 ・・・押しに弱いのです。

 そんなわけでここに居るわけだけど・・・。

 心なしか絵美がいつもと違うように見えるんだけどどうしよう。

「ねえ」

「はい!」

 どうしよういつもの絵美ちゃんじゃない!

 私地味でメガネだし何かした・・・って絶対月くんのことじゃん。それ以外ない。

「あんたさ、どういうつもりなの?」

「えー・・っと?」

「だからあ、最近月にベタベタしすぎじゃない?」

「そ、それは月くんが・・、」

「は?」

「ごめんなさい!」

 もうこの際絵美の口調が変わってるとかいつもの笑顔はどうしたのとかは突っ込まないよ。

「とにかく、私と月に近づかないでね」

「そんな・・、」

「なに、前に戻るだけじゃない」

「だって、わたし・・、」

 月くんが好きって、気づいたし。

「葉ちゃん、邪魔なんだよね」

「え・・?」

 いつものように戻った口調で絵美が言い放った言葉は、あの人を思い出させるには十分だった。

「絵美・・、なんで・・」

「だから、もう近づかないでね」

 にこり、とみんなが大好きな笑顔を私に向ける。

 でも開かれてる目は笑ってなくて・・、まるで、・・・・あの人みたいだ。


 _あなたは邪魔なのよ。わかるでしょう?


 体が震える。あの言葉は嫌いだ。私の存在を否定するから。

「バイバイ葉ちゃん。早く行かないと、授業遅れちゃうよ」

 そう私に言い残して、絵美は空き教室から出て行った。

 残された私は、ぺたりと床に座り込んだ。

「は、はは」

 どうしよう。泣きそうだ。




 

 自然と口角が上がっていくのが自分でもわかる。

 言いたいことを言えてスッキリした感じ。

 葉の顔、すっごく引きつってた。

 そうだよ、葉。私は知ってるの。

 だから、逆らおうなんて思っちゃダメだよ。





 ・・・驚いた。

 なんというか、人は見かけによらないなとか、まあ軽く人間不信になりそうだ。

 ていうか、私タイミング悪すぎ。

 ・・・・社会で使った資料を資料室に戻しに来ただけなのに。

「・・・あれって、宮峰さんだよね」

 ふと彼女、絵美ちゃんから隠れるために移動した隅から空き教室に視線を向ける。

 多分あの声は宮峰さんだと思う。

 ・・・一体、何があったのだろう。

「声、掛けた方がいいのかな・・」

 さっきから一向に出る気配がない。少しだけ会話が聞こえてたけど、結構きついこと言われてたみたいだし・・。

「・・・よし」

 私は空き教室へ足を進めた。





 ガラ、と空き教室の扉が開いた。

「・・え?」

 そこにいたのは、クラスメイトの平松さんだった。

「え・・と、その・・」

 平松さんは視線を泳がせて何を言おうか迷っている様子だった。

 ・・・もしかして、さっきの聞かれた?

 私は腰を上げた。

「・・・平松、さん」

「は、はい」

 面倒事は嫌だ。とりあえずここはなんでもないと言っておくべきだろう。

 私のためにも、絵美のためにも。

「さっきの、聞いてた?」

「・・・うん。えと・・」

「なんでもないから。忘れてくれていいよ」

 きっと彼女はみんなの群れから独りになりたくないだろうし。こういうのは避けたいだろう。

「じゃ」

「あ、・・まって!」

 ぐ、と教室へ戻るために早足で空き教室を出ようとしたら腕を掴まれた。

 案外力が強くてびっくり。

「・・・えと、なに?」

「・・っ、私、力になるから!」

「え・・、」

「絵美ちゃんにいじめらてるんなら相談に乗るよ!だから、えと・・、」

「・・・平松さん?」

「と、友達になろう!」

「え?・・・・あ、・・・うん」

 なんか、友達?ができた。





 言ってしまった。

 でも、後悔はしてない。

「・・・ちょっとびっくりかも」

 すっかり次の授業は始まっていて、しょうがないから二人でサボっていたとき、宮峰さんが言った。

「なにが・・・?」

「え?あー、うん。なんていうか、失礼かもだけどさ」

「う、うん」

「・・平松さんって、話合わせて女子の群れにいるタイプに見えてたから・・。ごめん」

「あー・・。うん、そうかも。謝ることないよ。自分でも思ってたし」

 そう言って私は笑う。いや、ホントのことだし。

「いいの?」

「なにが?」

「私と、と、ともだち、とか」

「全然いいよ!私も正直話合わせるのとか疲れてたし」

「そ、・・か」

「うん!それにさ、なんかこういうのいいなあって」

「そう、かな」

「うん。私、すごい今嬉しいんだよ」

 そう言って宮峰さんを見ると、少しだけ頬が赤くなっていた。

 二人で体育座りをしていて、間近でじっと宮峰さんを見てみる。

 私の視線に気づいたのか、ますます頬を赤くして顔をうずめた。

「・・・宮峰さんって、可愛いね」

「え!?そんなことない!何言ってるの・・」

「ふふ」

 ほんとに可愛いなあ。





 平松さんはとてもいい人でした。

 というか平松さんと話して私若干コミュ障かもしれないと思った。

 あああノリについていけない!

 だって、女友達とかいや女に限らず友達とか、・・・・いなかったし。最近。寂し。

 でもそんな私を可愛い可愛いというのをやめてください恥ずかしくて死ぬ。

 なんというか、月くんに言われるのとはまた違う気恥ずかしさ。

 ・・・・・友達、か。

 そう思いながら新鮮な響きに心をホクホクさせていたら、平松さんが、

「名前で呼ばない?」

「え!?」

「だめかな?やっぱ」

「いや、じゃないけど・・。こっちがいいのかなって聞きたいよ」

「いいよー」

「・・・じゃあ」

 名前呼び、か。あんまりないからなあ。

「葉ちゃん」

「・・・(こころ)、ちゃん」

 冷めてるけど、こういうのは普通に嬉しかったりするんだよね。

「ありがとう」

 少し小さいけど、聞こえたかな。

 私のお礼は聞こえていたようで、少し目を丸くさせて、にこりと笑ったあと、

「こちらこそ」

 そう言ったあと、授業終了のチャイムが鳴り響いた。





「葉、どこいたの。というかそいつ誰」

 教室に戻ると葉ちゃんに気づいて月くんがこちらへ来た。こんな目の前で見たの初めてかも。やっぱりかっこいい。ああそんなに睨まないで怖いよ・・。

「あ・・、つ、伊咲くん」

「・・・・は?」

「き、今日はさ。絵美とふたりで帰りなよ」

「なんで?葉は?」

 ・・・あれ。なにかなこれ。あからさまな月くんの不機嫌さが、私にもわかる。

「・・・・」

「わ、わたし、心ちゃんと帰るから!」

「え?あ、うん」

「・・・・・ふうん」

 そう言って月くんは自分の席に戻っていった。怖かった。





「・・・・あのさ」

 目の前には月の顔。後ろには壁。

 私は月に壁を背にして挟まれていた。

「どうしたの?月」

「何したの。葉に」

「・・・・なんのことかなあ。わかんないよ」

 嘘だけど。心の中でそう付け足して、目の前の月を見つめる。

「それよりさ、今日は葉ちゃんいないんだね」

「質問、答えて」

「最近全然絵美にかまってくれないでしょ、月。どうして?」

「答えろ」

 冷たい、低い声で私に回答を促す。

「・・・月、こわいよ」

 私は震える。ついでに傷ついたような表情も浮かべてみる。

「絵美のこと、きらいになったの・・?」

 最後にそう言って、少し上目に月を見る。

「嫌いもなにも、」

 月はいっそう私に近づいて微笑みながら、


「俺、昔から絵美のこと好きじゃない」


 




「ごめんだけど、ちょっと葉借りるね。というか返して」

「へ?・・って、うわ、ちょ・・っ」

「・・・あ。ばいばい、葉ちゃん」

 心ちゃん、バイバイなんて言ってる場合じゃない。たすけてよ!

 というかこれなに。最近多くないかな。

 私はまた、月くんに引っ張られて空き教室へ。やっぱりありがち。 

「伊咲くん!またこういう・・・、」

「また苗字。キス一回ね。罰ゲーム」

「は、何それ知らない・・!」

「だって今決めたし。というか俺が葉にキスしたい」

 キスって、ちゅーだよ、接吻だよ!!

「絵美になんかまた言われたんでしょ。気にしないでよ、あんなバカの言ってること」

「・・、別に、気にしてなんか」

「うそ。ま、いいけど。ココロちゃん、だっけ。それに聞けばいいし」

 どうせ知ってるんでしょ。絵美はもう使えないし。

 月くんはそう言った。

「な、ちょ、やめてよ。というか、絵美に聞いたの?」

「うん。全く答えなかったからホントやな奴。親子揃って」

 そこまで言って月くんはあ、って顔になって小さくごめんと呟いた。

「あ、大丈夫。ありがとう。でも、そんなこと言ったらダメ」

 軽く月くんを私は咎める。そんな私は、きっと偽善者なんだと思う。悪く言うとね。良く言うとお人好しという奴なんだろう。やだなあ。

「ほんとに、葉は優しすぎるよ」

 そんなことないよ。私は偽善者だから。全部全部、ニセモノなの。

「・・・・月くん、って呼びたいよ」

「呼べばいいじゃん」

「でも、・・・・ごめん」

「呼んでも大丈夫だよ。俺、ちゃんと守るから」

「・・・・・っ」

「あの時みたいには、絶対にさせないから」

 そして、いつものわがままで強引で、そんなのを全く感じさせない月くんが、私を優しく抱きしめる。私もそれを拒まない。

「・・・・・好きだよ、葉」

「・・・・・・っ、わたし、も」

「へ・・」

「・・・私も、月くんが・・・・・すき」

 私は月くんのお腹に顔をいっぱいに押し付けながら言った。ああ恥ずかしいななにこれ。

 もう月くんの制服が生理的に流れてくる涙でぐしょぐしょになったって気にしない。

「葉・・・。顔、見せて」

「やだ・・」

 無理やり剥がされた。ひどい。

「・・・真っ赤だよ、葉の顔」

「う、うるさい」

 くそう、これがイケメンの余裕か。月くんは笑顔のまま、私の涙でぐしょぐしょで真っ赤な顔を見つめてくる。新手の嫌がらせかもしない。

「葉ってば、やっぱり泣き虫。可愛い。監禁したい」

 ・・・え。最後ちょっと怖いよ月くん。

「可愛い可愛い大好きキスしていいよね」

 そう言って私の返答を待つ前にちゅ、とわざとらしく音をたてて私の唇に月くんのソレを落とす。

「は、・・ああ、ほんとにかわいい」

 言いながら色々な所へキスを落とす。私はきっと首まで真っ赤なんだろうな。

「はあ・・、すき」

「・・・・わたしも、すき」

 


 



 夜。友達になってすぐにメアドやら携帯番号やらを交換した葉ちゃんからメールが来た。

 どうやら、月くんと付き合うことになったらしい。

 最近はよく二人でいたのであー、やっぱりそうなったのかあと、まあなんというかそんな感じだ。

 でもまあ、おめでとうってことで明日沢山弄ってあげようと決めて、私は眠りについた。  

 



 

 


  





 

 



 




 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] すごく面白かったです!! 期待通りの私の大好きな展開で、たまりません! (二十歳すぎのおっさんですが)不覚にもキュンキュンしてしまいました。 続き期待しております。
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