最後の別れ
夕暮れの陽射しの中で、背中合わせの人と部屋の隅に座っていた。まるで時間が止まったような、いや、時計の音は聞こえているのだけれど、そんな空間に僕はいた。
外で時折聞こえる子供たちの遊ぶ声と、テーブルの上には、用意されかけの一人分の夕食。
そんな中で彼女はしゃべり出した。
「どうして、離れ離れにならないといけないの?」
「きっとそうなる運命だったんだよ」
僕は答える。
「私はこれからどうしたらいいの?」
「僕のことは忘れて、新しい人を探せばいいんだよ。」
僕はまた答える。
「私たちの何がいけなかったの?」
「わからないけど、僕じゃ君にふさわしくないって神様が思ったんだよ。」
僕の最愛の人はいつの間にか泣いていた。いや、とっくの前に気がついていたけれど。
僕はその涙を拭ってやりたかった。
僕の大事な人を泣かせるのは誰だ!と叫びたかった。
けど彼女の前で、泣いている彼女の前ではそんなことをしても、何だかみっともなくて嫌だった。ただの自己満足だとしても、彼女の前では取り乱したりはしたくなかった。
次第に薄暗さと秋の冷気が忍び寄ってきて、僕にもう時間が残されてないのがわかった。
彼女の頬はまだ濡れていたけれど、もう泣いてはいなかった。
「あなたと出会った日から私の毎日は、宝石のように変わったんだよ。」
少しだけ上ずった声で君は言う。
「僕の毎日も、君がいることで僕の世界は色が増えたんだよ。」
「あなたが告白してくれた日、私は嬉しくて寝れなかったんだよ。」
「僕は告白する前の日は緊張して寝れなかったよ。」
「一緒に暮らし始めて、ケンカも何回もして、でもそんなのはどうでもいいくらい毎日が楽しかった。うれしかった。あなたに出会えて、あなたと一緒にいれて…よかった。」
「僕だって…君と過ごしてきた毎日が楽しかった。うれしかった。ずっと一緒にいれるんだって思ってた。おじいちゃんとおばあちゃんになるまで、一緒にいれるんだって思ってた。僕は……。」
いつの間にか、僕の目から涙がこぼれていた。
けれど落ちた涙は、決して床を濡らすことはない。
「僕は…、僕だって、
死にたくなんかなかった。
ずっと君と一緒にいたかった。こんなにも、これほどにも好きだった君と…。いつまでも…ずっと君のそばにいたかったんだ。」
どれほど叫んでも君には決して届かない。分かっているけど、涙が、こぼれる。想いが、こぼれる。
「僕はこんなに君が好きで、こんなに愛しているのに、君にはもう伝えることもできないんだろうか?」
背中でまた泣き出す声がする。
もう僕には彼女を慰めることはできない。
突然、背中から暖かさが消え、驚いて振り返ると、君がこっちを向いて、
泣きながら、
でもとびっきりの笑顔で
「伝わったよ。あなたの気持ち。」
そういうと君は僕を抱きしめた。
少しだけ彼女の感触があって、
僕はまた少しだけ泣いてしまった。
短い文章でしたが読んでくださってありがとうございます。
久しぶりの投稿なので、いろいろ大変でした。
感想待ってます( ´ ▽ ` )ノ