第7話 スピリチュアル・カウンセラー
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TV局へと向かった2人だが・・・
アイドルのバッグ盗難事件に遭遇。リナの持つ特殊能力により、犯人を捕まえるに至った。そしてアイドルの松浦から、2人は特別番組の観客としての招待を受けた。
TV局から出ようとした慎吾に、何者かが声をかける。
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第7話 スピリチュアル・カウンセラー
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慎吾「・・・ ・・・」
その男は・・・
Yシャツネクタイ、黒いスーツをびしっと決め、銀縁メガネはその知性をにじみ出している。右手はポケットの中、左手は黒い大きなバッグを持っていた。
年の頃は40歳前後といったところか、メガネの向こうの優しそうな目は慎吾を冷静に見つめている。
慎吾「あ・・・ あなたは?」
男「驚かせて失礼。私の名は江浜。
スピリチュアル・カウンセラーをしている」
そう言うと、眼鏡を外し胸ポケットにしまった。
江浜「この眼鏡は・・・ まぁ、フィルターのようなもんでね・・・」
ズボンのポケットから名刺入れを取り出すと・・・1枚の名刺を慎吾に渡す。
慎吾「・・・ ・・・」
無言で受け取る慎吾を見て、江浜は静かに話し始めた。
江浜「仕事がら、いろいろな霊を見てきたが・・・
日本を統べた人物を守護霊を持つ者は少ない」
慎吾「!?」
慎吾の表情が急に険しくなる。
江浜「安心しろ。私は敵ではない。1つ警告したいだけだ」
直立不動のままピクリとも動かず、江浜は慎吾の目を見続けている。
江浜「TV局は特異な所。芸能人やその関係者だけでなく・・・
政界や財界、各界の人間、はては暴力団や犯罪者なども訪れる事がある。
君がこんな所に来るのは危険だ。悪意を持った者に狙われかねないからな」
慎吾「・・・」
緊張した表情の慎吾。江浜への視線を切らすことはない。
江浜「ふ・・・。それぐらい警戒してくれた方がちょうどいい。
とにかく、こういう所はなるべく避けろという警告さ」
優しいながらも厳しい眼差しを慎吾に向け、小さく笑った。
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾は、どんな言葉を返していいのかわからない。
ふと化粧直しを終えたリナが戻ってきた。
慎吾に「お待たせ」と声をかけようとしたが・・・にらみ合う2人の男にただならぬ雰囲気を感じ、足を止める。
江浜「万が一何かトラブルに巻き込まれるようであれば・・・
いつでも連絡を。名刺は無くすなよ。お守りにもなっている」
慎吾「・・・ ・・・」
名刺を見つめる慎吾。
江浜「もっとも君には・・・
その程度のお守りなど、必要無いが・・・」
そう言うとリナの横を通り過ぎ、TV局の奥へと向かって行った。
江浜が横を通り過ぎた後、リナが慎吾の元へよってくる。
慎吾の目線は、江浜の後ろ姿を追ったままだ。その視界をリナがさえぎる。
リナ「あんたさぁ・・・ 江浜氏と何話してたの?」
リナの声で我に戻る慎吾。
慎吾「え? あぁ・・・ えっと? 何でしたっけ?」
軽く慎吾の頭をはたくリナ。
リナ「何、寝ぼけてんのよ。
何であんたが、江浜氏とにらみ合っていたかって話」
慎吾「え? リナ先輩・・・今の人、知ってるんですか?」
慎吾の目を見て、リナは大きく口を開ける。
リナ「マジ!? あんたマジ江浜氏、知らないの!?」
リナの大きな声に気圧される慎吾。
慎吾「え? ひょっとして超有名なタレント・・・?」
リナ「違うわよ! 日本一有名なスピリチュアル・カウンセラーよ!
あんたさぁ、あの有名な番組【ホラーの湖】見た事ないの?」
慎吾は迫ってくるリナに、両手でストップのジェスチャーをした。
慎吾「あ・・・ ない・・・です」
リナ「霊に関する仕事してる人よ」
慎吾「霊・・・関係?」
リナ「行方不明になった亡骸をさがすとか、悪霊が憑いた人のお祓いするとか・・・
他には、殺人事件の霊視による犯罪捜査とかもやってたわね。
すっごい霊能力の持ち主で、色んな事件を解決してるのよ」
慎吾「そ、そうなんだ・・・」
リナ「日本一の霊能力者として、超有名よ。マジ、知らなかったわけ?」
慎吾「は、はい・・・」
リナ「で?」
慎吾「?」
リナ「その江浜氏と何話してたのよ?
彼も私のイケメンランキングベスト10に入ってるのよ。
とても50歳には見えない、若々し・・・」
慎吾「え!? あの人50歳なんですか!? 全然見えない・・・」
リナの言葉を遮って、慎吾は驚きの言葉をあげる。
リナ「噂じゃ、高校生ぐらいの娘がいるらしいわよ。
まぁ今日は私・・・ 松順さまでお腹いっぱいだから・・・」
そう言うと、出口に向かって歩き出した。
リナ「さ! 帰るわよ!」
慎吾「え・・えぇ・・・」
2人はTVSの出入り口で、入局許可証を返却して帰路につく。
・・・ ・・・。
帰りの新幹線の中。
窓際に座るリナは、ずっと外の景色を見ている。
慎吾「あれ? リナ先輩、麻雀しないんですか?」
隣に座る慎吾が声をかけた。
リナ「あんたさぁ。私が年中麻雀してると思ってるわけ?」
振り返ったリナは、怪訝な表情を浮かべる。
慎吾「い、いえ・・・ただ、麻雀で勝つのがすごかったから・・・
また見られるかなーって」
リナ「ったく・・・。
まぁ、あんたのおかげでサバンナ症候群とやらもわかったし」
慎吾「わざと間違ってますよね? サヴァン症候群です!」
リナ「そうだっけ?」
慎吾「でも、リナ先輩・・・1つ聞いていいですか?」
リナ「何?」
慎吾「いや、レンタカー店のページにハッキングしたじゃないですか」
リナ「もう少し小さな声で話してよ。それに絶対それ、他言しちゃだめよ!」
慎吾「わかってます。ただ、例えば金融関係とかにですね・・・」
声を小さくしながら話す慎吾。
慎吾「ハッキングして、お金とか引き出せるのかなーって・・・」
リナ「そういう所のファイアーウォールは、さすがに高度だから。
私でも、そう簡単には破れないわよ。
でも、まぁ・・・本気出せば出来ると思うけど・・・」
慎吾は専門用語の意味を理解していないが、とりあえず頷く。
ふとリナが何かを思い出したように熱く語り始めた。
リナ「お金はね! お金はハッキングして稼いでも意味ないの!!
ウデよ、ウデ! 自分のウデで稼いでこそのお金よ!」
そう言うと右腕の上腕二頭筋を、左手でパチンと叩いた。
慎吾「そうですか・・・」
と言いつつも
(慎吾「賭け麻雀も、違法サイトなのに・・・」)
心の中ではそう思っている。
リナ「お金は・・・大好きだけどね・・・」
どうやらリナには・・・リナなりのお金に対するポリシーがあるらしい。
慎吾は同じセリフを、ちょうど7ヶ月後にも聞かされる事になる。
その時には・・・まだ知る事のない、リナの重大な秘密を知る事になるのだが・・・
慎吾「あともう1つ。お巡りさんがリナ先輩に声かけた時・・・
リナ先輩、すっごい緊張してたじゃないですか。
過去逮捕された事でもあるんですか?」
リナ「はぁ~!? なんで私が逮捕されんのよ!!
ばっかじゃないの、あんた!!」
反射的に大声で言い返す。
リナ「賭け麻雀のサイトで荒稼ぎしてるのがあるからさ・・・
ちょっとドキッとしただけよ!
まぁ・・・アメリカのサーバ経由してるから・・・
簡単には足つかないはずだけど・・・」
慎吾「なるほど。てっきり逮捕歴があるのかと思いましたよ」
そうでない事が、ガッカリしたようなという表情で小さく笑う慎吾。
リナ「笑うトコじゃないっつーの!!
私はあれで学費・生活費、その他全てまかなってるんだから!
あんたみたいな親の仕送りは一切ないんだからね!」
慎吾「わ・・・そうなんですか!? やっぱりリナ先輩はすごいな~。
自分で生きていく力を持っている!」
少しずつリナに関する知識が増えていく慎吾。なんだか嬉しくなり、さらに笑顔がこぼれた。
リナ「あー・・・でも、せっかく松順様に会えたんだから・・・
握手だけでなく、サインももらっておけばよかったー」
リナはお祈りのポーズをして、新幹線の天井を見つめる。
その言葉を聞いて慎吾が、思い出したように声をあげた。
慎吾「あ! 忘れてた! リナ先輩!
事情聴取が終わった後ですね・・・
僕、松浦さんにサインもらっておきましたよ」
リナ「え!? マジ!!」
慎吾「なんかリナ先輩、松浦さんの事すごい好きそうだったし。ほら!」
慎吾はリュックの中からタオルを取り出す。
それには日本のTOPアイドルの1人、松浦順のサインが書かれていた。
慎吾「このタオル、買ったばかりでまだ未使用ですから。
ホントは色紙があればよかったんですが・・・
あの時は事情聴取だったし、手元にはこれぐらいしかなくて・・・
これでよろしければ、差し上げます」
リナ「わー!! タオルでも全然OK!! マジ嬉しい!
てかあんた気が利くじゃない! やりぃ!!」
リナは松浦のサインが書かれたタオルのにおいをかぎ始めた。
(慎吾「はは・・・気を遣われるの、嫌いって言ってたのに・・・」)
タオルを顔にくるみ、妄想モードに陥るリナ。しばらくそれを見ていた慎吾が、その妄想を打ち破る。
慎吾「あ・・・リナ先輩?」
ニヤけた顔が一瞬にして不機嫌な顔になる。
リナ「なに!?」
慎吾「あ、いや・・・ ほら、明後日の収録見学・・・
行きます・・・よね?」
リナ「当たり前じゃない!
今度は【山嵐】メンバー全員のサインゲットするわよ!」
(慎吾「・・・ レポートの事、全く頭に入ってない・・・」)
すでにリナは本来の目的を忘れていると確信した。
慎吾はガッツポーズしてるリナに聞いてみる。
慎吾「明後日の収録なんですけど・・・
僕も行った方がいいですかね?」
(江浜「君がこんな所に来るのは危険だ」)
江浜に言われた言葉を、少し気にしていた。
リナ「はぁ? 当たり前でしょ。あんたは私のレポ・・・」
リナは「あっ」という顔をする。そのリナの表情を見て、慎吾は笑顔でこたえた。
慎吾「はは。大丈夫ですよ。リナ先輩のレポートも、僕、書きますから」
リナ「あ、あら・・・ 気が利くわね、今日は」
ばつの悪そうな表情を見せるリナ。
江浜に言われた事も気になったが・・・ 慎吾は、再びリナとTV局に行く事を決意した。
・・・ ・・・。
箱根湯本駅・駅前、午後9時過ぎ。
慎吾「なんだか・・・ 色々あった1日でしたね」
リナ「そうね・・・う~ん・・・」
思いっきり背伸びする。
リナ「今日は変な事件あったけど、スピード解決できたし。
松順様と握手も出来たし・・・サインももらったし!!!
レポート書いてくれる約束も取り付けたし!!」
そういうとリナは慎吾の顔を見た。慎吾は一瞬ドキッとする。
リナ「ありがと!」
リナは笑顔で、素直に感謝の言葉を言った。
慎吾「こ・・・こちらこそ、ありがとうです!
あんなに遠くまで、案内して貰って・・・」
小さな笑顔で慎吾もこたえる。
慎吾「僕、女の人と2人で出かけたの・・・初めてです! 楽しかったです!」
その言葉を聞いたリナが冷ややかな顔になった。
リナ「あんたさぁ・・いい1日だったと締めくくりたい時にそれ?
何、この場でチェリーを宣言してんのよ・・・」
慎吾「え? 何ですか、チェリーって?」
慎吾は笑顔のままリナに聞き返す。リナは小さく溜息をつき・・・
リナ「今度ネットで調べてみなさい。じゃ、ここでお別れね!」
そう言い放つと、片手でさよならのそぶりを見せ、スタスタと歩き出した。
慎吾「あ、待ってください」
慎吾がリナの後を追いかけてくる。
リナ「ちょっと・・なんでついてくるのよ? 今日はもうバイバイっしょ?」
慎吾「あ、僕もこっちなんです、帰り道」
慎吾は、リナが歩き出そうとした方向を指さす。
リナ「えー・・・」
リナは露骨にイヤそうな顔をした。
・・・ ・・・。
しばらく同じ道を歩いていた2人。
慎吾「でも今日のリナ先輩、カッコよかったです!」
リナ「あ、そ」
どうでもいいといった感じで、素っ気なく返事をするリナ。
慎吾「絶対リナ先輩以外、犯人捕まえられる人いませんでしたよ!」
慎吾は、少し興奮気味に話していた。
リナ「あんたさぁ。まさか私に惚れたりしてないわよね?」
慎吾は笑顔のまま、リナを見つめる。
リナ「・・・ ・・・」
一瞬ドキッとするリナ。
慎吾「惚れたりなんて絶対ないですよ!」
慎吾は元気よく素直こたえた。この日何度目だろうか・・・リナの冷ややかな視線が慎吾を突き刺す。
リナ「あんたさぁ・・・ホント、マジで空気よめないっつーか・・
天然で人に殺意与えるプロよね、プロ」
慎吾「え? 今、僕、何か失礼な事言いましたっけ!?
だってリナ先輩が好きなのは松浦さんでしょ!
次のTVS訪問であいさつしに行くし・・・楽しみですね♪」
リナは軽く頭をかく。
慎吾「今度、2SHOTの写真撮ってあげますよ!」
嬉しそうに話す慎吾。
リナ「・・・ ・・・」
慎吾と出会って何度目となるだろうか・・・リナは小さく溜息をついた。
リナ「まぁ・・・いっか・・・」
・・・ ・・・。
数分後。
大通りから小道に入り、しばらく歩く2人。
リナ「結局あんた・・ 私んちの前までついてきたわね・・・」
2人は、とあるマンションの前で立ち止まった。
リナ「あたしはこのマンションだから。あんたんちは?
まだ先? それとも・・・
実は私を送ろうとか、変な気を利かせたわけ?」
慎吾「あー・・・」
慎吾はマンションを見つめ、こたえづらそうな顔をする。
リナ「あ、やっぱり私を送ったのね! 気を遣わなくていいってば!」
不機嫌そうに語るリナに、慎吾が口を開いた。
慎吾「あ・・・ 僕・・・ 僕もこのマンションなんですけど・・・」
慎吾は目の前のマンションを、申し訳なさそうに指さす。
リナ「えぇ!? マジ!?」
閑散とした小道に、リナの大声が響き渡った。
(第8話へ続く)
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次回予告
2度目のTV局見学前日。パソコン室で調べ物をしていた慎吾は、リナと鉢合わせる。徳川埋蔵金は眉唾ものだと主張するリナに対し、慎吾は豊富な知識で反論。
慎吾は実際に発掘された埋蔵金の話を始めた。その価値10億円という話に驚くリナ。
次回 「 第8話 埋蔵金伝説 」
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